第1224話 少しだけ昔の事を思い出しました



「こうして食べると、もっと美味しいよ!」

「……本当です! リーザちゃん凄い!」


 なんて、リーザ発案のもとケチャップとマスタードの二種類あるディップソースを、混ぜてヴァイスソーセージに付けて食べていた。

 まぁケチャップとマスタードを混ぜるのは、ある意味で鉄板だよな。


「少し、ケージングが柔らかいかしら? 破れやすくて、食べにくいかもしれないわね。それに、ケージングそのものも口の中に残る事が多いわ」

「クレアお嬢様、そう言った場合はこうして……」

「成る程、ケージングから出して中身を食べるのね」

「街で売っているソーセージのように、串に刺して食べるのは少し難しいかもしれませんね」


 茹でてあるからか、それともミンチ肉そのものも他と少し違うのか、焼いてあるソーセージよりも柔らかく、それは表皮のケージングにも影響していた。

 クレアの言うように、ヴァイスソーセージの表皮が破れて飛び出しやすくなっており、一口で全部頬張れれば問題ないけど、何度かに分けて口に入れたり、切り分けたりするのもやりづらい。

 ヘレーナさんがクレアの隣に移動して、手本を見せるように残っているヴァイスソーセージの表皮をナイフで切り、フォークも使って中身を出す。

 詰めてあった状態なのである程度まとまっており、ハンバーグの欠片に近い状態になった物を、フォークで取ってディップソースを付けて食べる……という事か、成る程。


 ソースの入った小皿にも付けやすいし、ナイフでディップソースをすくって乗せるのも良しと。

 中々考えられていて、立食会などには向かないけど落ち着いてテーブルについて食べる食事会なんかには良さそうだ。

 あと、ラクトスの屋台のように、串に刺したソーセージを食べるのと同じ食べ方にも向かないか。

 食べ方に関しては、改善の余地はあるかもしれないけど、これまでのソーセージと違って色々な味が楽しめそうだ……何より、美味しい。


「ワフゥ……?」

「ん、レオどうしたんだ?」


 俺達の後にレオは、自分の前に用意されていたヴァイスソーセージを食べて、首を傾げている。

 さすがに、こちらはディップソースに付けて食べるという器用な事はしないので、ソースなしだ。

 ……レオならできそうだけど。


「ワフワフ!」

「これを食べた事がある気がするのか? いや、でもこんな白いソーセージは……」


 厳密には同じ、というニュアンスじゃないけど、食べた事がある気がすると主張するレオ。

 俺はこれまでスタンダードなソーセージばかりで、白いソーセージなんて物は食べさせたことも、自分が食べた事もないはずだけど……。


「あ、もしかして……」

「ワウ?」

「あれじゃないか? 俺が買ってきた、犬用のおやつソーセージ!」

「ワフ……ワフ、ワフ!」


 思い当たった……というより思い出してレオに言ってみると、コクコクと頷いた。

 そうか、犬用のソーセージかぁ……犬好き、というより動物好きな人が店長のコンビニで、よくレオに買ってやった物だ、懐かしい。

 そういえば、あれも焼いてないからだけど色が白っぽい物もあった。

 味は……俺は食べた事がないからわからないけど、塩分が人間用とは違って少ないのは間違いないから、それで似ているような気がしたのかもしれない。


 味の濃い普段のソーセージと比べてってところだろう。

 ヴァイスソーセージは、茹でてあるのとちょっと香り付けのために、何か工夫がされているくらいで、ソースを付けて食べる前提の薄味だからな。


「タクミ様……もしやレオ様はヴァイスソーセージを知っておられたのでしょうか……?」


 心配そうな表情で、俺に問いかけるヘレーナさん。

 新しい料理……どこかで名称も含めてヒントや影響があったとしても、これまでなかった料理。

 少なくとも、公爵領内の人達と俺が知らない料理を作ろうとしているヘレーナさんにとって、それは心配事になるんだろう。


「あ、いえ。安心して下さい。知っていたと言うより、少し似ていた物に思い当たったってだけですから。それも、ヴァイスソーセージのような物じゃなくて……」


 とはいえ、薄味と色が似ていたというだけの物だし……さすがに犬用のおやつソーセージと、ヴァイスソーセージが一緒の物とは言えない。

 簡単にヘレーナさんへ説明すると、安心してホッと息を吐いていた。


「それでは次に……」


 ヴァイスソーセージの試食の後は、シュニツェだ。

 こちらはラード……つまり豚脂で揚げた物になる。

 正直なところ、ハンバーグを食べてヴァイスソーセージの試食、さらにその後に油物の試食はちょっと辛い気が……。


「どうぞ」

「ありがとう、ヘレーナ」

「あぁ、小さく切り分けてくれたんですね。ありがとうございます」

「いえ……」


 ヘレーナさんや料理人さん達から、大きく平べったいシュニツェの入ったお皿を置かれる……と想像していたら、切り分けて小さなお皿に載っている物を出された。

 クレアもそうだけど、油物かぁ……なんて思っていた事が表情に出ていたのを、見て判断したわけじゃなさそうだ。

 多分、最初からこうするつもりだったんだな、じゃないと小皿なんて用意できないし。

 食事の内容なども鑑みてって事だろう。


「これなら食べられそうですね、タクミさん」

「そうですね。正直なところ、もうお腹がいっぱいで……ははは……」


 クレアの言葉に、苦笑する俺。

 レオはともかくとして、ティルラちゃんやリーザ、シェリーといったわんぱくな子達はまだまだ入りそう、という表情をしていたけど。

 とはいえ、油物なのは間違いないし、美味しくても食べ過ぎてお腹を壊したり、太ったりする可能性もあるわけで……適度が一番だ。


「ふむ……これは、思っていたより……いえ、見た目よりは食べやすいですね?」

「そうですね。揚げてあると言うより、焼いてあるに近いかな? うん、ソースもさっぱりしているし、想像より全然食べやすいです」

「こっちも美味しいです!」

「美味しいよー!」


 子供達はとにかく美味しいを連呼して食べているのはともかく、クレアと顔を見合わせて評し合う。

 シュニツェは、叩いて薄く伸ばしてあるせいか少し硬めだけど、歯応えがあると言えるかな。

 味に関しては……豚カツや牛カツのような想像をしていたけど、思ったよりも食べやすくてソースのおかげもあってさっぱりしていた――。



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