第1225話 フェンリル達はすぐに馴染んだようでした



 シュニツェはその見た目から揚げ物を想像していたから、胃に重いかとも想像していたのが裏切られた感じだ。

 おそらく、油で揚げると言うよりも油を敷いて焼いた感じで……カツレツに近いかな。

 かけられているグレイビーソースは、ドロッとした中濃ソースに近い見た目なのにさっぱりしているのは、肉汁の他に野菜を加えて煮詰めてあるからだろうか?

 デミグラスソースと比べると、かなりさっぱりしている気がした。


「見た目では、確かに濃くて重い印象を与えがちですが、食べてみるとまた違う印象を受け、面白い料理になったのではないかと思います」

「……成る程。だからこれを、味が薄いヴァイスソーセージの後にしたんですね」


 ヴァイスソーセージはソース次第で全く別の味になる。

 だから先に食べてもらって、色々な味を楽しめる事を実感させておいて、シュニツェで濃いめではあるけどさっぱりした味を楽しんでもらおう……と考えたわけか。

 さっぱりしているとはいえ、やっぱりそれなりに濃い味でもあるから……順番を変えるとヴァイスソーセージの印象が、変わっていた可能性が高い。

 多分、先にシュニツェを食べていたら、ヴァイスソーセージの薄味が丁度良く感じて、色んなソースで色んな味を楽しめるとまでは、考えられなかったかもしれない……それでもリーザやティルラちゃんは、楽しんでいたと思うけど。


「ワフゥ……」

「レオは、あまりお気に召さなかったか?」


 ヴァイスソーセージの時と同じく、レオにも用意されたシュニツェ。

 ただこちらは、あまり喜んではいないようだ。


「ワフ……ワフワフ、ワウ」

「そうか、食べにくいか……カツとかよりも油分は少なくても、やっぱり油っこく感じるのかもな」

「むぅ、レオ様には不評ですか……」

「まぁ人間が美味しいと感じた物が、レオも全て美味しいと思うわけじゃないですからね」


 レオにとっては、シュニツェはパン粉を付けた衣部分が食べにくく感じて、味もそこまで好みじゃないらしい。

 ソーセージやハンバーグもそれなりに、油分が多いが、さすがにラードを敷いて揚げた物より少ないからなぁ。

 肉の硬さに関しては、特に問題はなさそうだったしソースはむしろ好みだったようだけど。

 少し落ち込むヘレーナさんにフォローをして、その後は俺達以外にも試食をしてもらう流れになった。


 ヴァイスソーセージもシュニツェも、味の好みの差はあれど人間には概ね好評で、レギュラーメニューに加わる事に。

 ただ、レオの感想と同じくシュニツェそのものに関しては、シェリーも含めたフェンリル達からも不評だった。

 ラーレは特に気にする事なく食べていたけど。

 シュニツェに使われていたグレイビーソースが、人や魔物関らず一番好評で、フェンリル達にヴァイスソーセージを出す場合には、グレイビーソースをかけるように調整。


 こうして、ハンバーグを作ってのフェンリル歓迎会と、ヘレーナさんの新作料理お披露目は終わった。

 満足したのか、半分以上のフェンリルがお腹を見せて、そこら中に転がっている姿が見られて、やっぱり野生とはなんなのか疑問に思ったりもしたけど、今更か。

 ちなみに、コッカー達はゲルダさんが落としたミンチ肉をついばんで、満腹になっていたはずなのに、しっかりハンバーグや新作を完食していた。

 お腹を膨らませて、フェンリルのお腹の上で動けなくなっていたのを見かけた。


 ……言ってあるから大丈夫だろうけど、初対面のフェンリルのお腹の上で無防備にしているコッカー達も、かなり怖いもの知らずな気がした。

 レオ達が近くにいるのに慣れているせいかもしれないけど。


「はぁ……少し食べ過ぎました……」


 全ての食事が終わり、転がっているフェンリル達を見ながらのティータイム。

 最初は大量のフェンリルに恐怖を感じていた使用人さん達も、お腹を見せて無防備に転がっている姿を見て、緊張感がなくなった様子。

 この屋敷の人達、適応が早い……大体俺とレオの影響な気がするけど。

 満腹で満足そうに丸まっているレオに、ティルラちゃんやリーザがくっ付いて、こちらも満足そうだ。


「まぁ、たまにはこういうのも悪くないんじゃないかな? ヘレーナさんがせっかく作った新作料理だったし」

「そうなんですけどね。明日から、少し頑張らないと……」


 クレアの呟きに苦笑しながら言うと、少し気合を入れた答えが返ってきた。


「ここ数日、色々大変だから……少し多目に食べても大丈夫だと思うよ」

「それは確かに、そうですね」


 ランジ村への引っ越しまで一週間となり、今はその準備で忙しい。

 俺もそうだけど、クレアも屋敷内を動き回って準備しているから、ちょっとくらい多く食べたとしても太る心配はないと思う。

 滞在数カ月、荷物が少ない俺と違って年単位で暮らしていたクレアは、持ち出す荷物や準備する物が多い。

 もちろん、ティルラちゃんが残るから全て運び出すわけじゃないけど……広い屋敷内を行ったり来たりしていれば、運動量としてはかなりものだろう。


「むしろ、俺の鍛錬よりもクレアの方が動いているって思うくらいだけど」

「さすがにそこまでは……ですがそうですね。この数日、寝る前には少し足が痛く感じるくらいですから。タクミさんの考えたスリッパがあれば、もう少し楽だったかもしれません」

「まぁ、こっちの屋敷内では本格的には使っていないからね。でも、スリッパは今みたいにリラックスする時に履いて、楽にさせる効果はあるかもしれないけど……動き回ったら逆に足がもっと痛くなるかも」


 スリッパは足を締め付けない分、楽ではあるけど……靴のような歩きやすさ、移動のしやすさはそこまでじゃないからなぁ。

 床が汚れないのと、足への開放感のためだけだし、歩く事が多い場合には靴の方がいいと思う。

 それに、こういう時慣れない履物だと余計に疲れてしまう可能性もあると思う。

 あくまで、俺が慣れている日本様式の暮らしの真似事と、掃除の手間を少なくさせるための道具だし。


「クレアお嬢様、歓談中に失礼します」

「タクミ様、失礼いたします」

「セバスチャン、どうしたの?」

「アルフレットさんも、どうしたんですか?」


 クレアと話していると、簡易的な調理場やその他の片付け、フェンリル達の寝床の準備などの指示をしていてたセバスチャンさんとアルフレットさんが戻ってきた――。


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