第1218話 大量のフェンリルと対面しました



「グルゥ!」

「お帰り、フェリー。っと、よしよし……元気そうだな」

「グルゥ~」

「ワフ」


 俺がフェンリル達の方を向くと、すぐにフェリーが鳴いて俺の前にのそのそとやって来る。

 それを迎えると、目の前でお座りから伏せ、そこからくるりと体を転がしてお腹を見せる……という流れるような動作をするフェリー。

 なんとなく求められている事がわかったので、お腹を撫でてやるとすぐに嬉しそうな声を漏らした。

 レオも横から、片方の前足をフェリーのお腹にポンと軽く乗せる。


 特に問題もなく予定通り戻ってきて、怪我もなく元気そうで安心した。

 フェンリルを害せるような何かが、シルバーフェンリル以外であの森にあるかは微妙だろうけど。


「あれ? 少し汚れているみたいだな、フェリー?」

「グルゥ、グルル」

「途中で、狩りをしたから。だって」

「タクミ様、そちらはフェンリル達の手土産だそうで……全てあちらに」

「あー、成る程。ブレイユ村でも同じ事がありましたね」


 フェリーに怪我とかはないみたいだけど、全体的に毛に土が付いていたりと、汚れている箇所が見られた。

 聞いてみると、狩りをしたからだと言う……セバスチャンさんに言われて見てみると、お座りしたフェンリル達が並んでいる後ろに、山積みになっている何か。

 オークが多いけど……見た事のない魔物や、アウズフムラも積み重なっているのが見えた。

 ブレイユ村で、シェリーの狩りの訓練も兼ねて狩りをしたのと同じような感じだろう。


 フェリー的には、ハンバーグを食べさせてもらう代金代わりみたいな事なのかもしれない。

 あと、フェンリル達がこれからお世話になるから、とかかな? 以前、フェンとリルルが屋敷を訪ねてきた時も、狩ったオーク持参だったし。


「クレア達は、もうフェンリル達と?」

「はい、自己紹介は済ませました」

「それじゃ、今度は俺の番だね……」


 お互い、既に自己紹介は終わっているようで、あとは俺やリーザだな。

 まぁ、自己紹介と言ってもクレアやセバスチャンさん達が名乗るくらいだったんだろう。

 フェンリル達には名前がないから、個別に自己紹介をする事もないと思う。


「グルゥ……」

「お、フェリー?」

「ワフ」

「レオも? どうしたんだ?」


 俺がフェリーから離れてフェンリル達に名乗ろうか……と思った時、フェリーが立ち上がってのそっとした動きで俺の前に出る。

 どうしたのかと思っていたら、今度はレオがフェリーの少し前に進み出た、もちろんリーザを乗せたままだ。


「ワオォォン!!」

「グルォォン!!」

「「「「「ガ、ガウ!!」」」」」


 レオが大きく吠え、続いてフェリーも吠える。

 遠吠えよりは小さめで、耳が痛くなるような声量ではなかったけど……そのレオ達の声に気圧されたのかなんなのか、フェンリル達が一斉に転がってお腹を見せた。

 えっと……?


「ワフ、ワフワフ!」

「グルゥ、グル」


 何が起こっているのかわからず、戸惑っている俺にレオとフェリーが振り返って、何やら促すように鳴いた。


「え? えっと……リ、リーザ?」

「驚いたー。あ、うん、パパ。えっとね……控えろって言ったみたい。それで、ママもフェリーも、パパに撫でるようにって言っているみたいだよ。控えろってなんだろう?」

「え、これを全部か……?」


 戸惑っていたせいで、レオが何を言っているのかすらよくわからなかったため、リーザに声をかけて通訳をお願いする。

 リーザはレオやフェリーが大きく吠えて驚いていたようだったけど、ちゃんと言葉にしてくれた。

 控えろって言葉は聞いたままだとしても、ちょっとリーザには難しかったみたいだけども。

 それはともかくとして……さすがに大量にいるフェンリルを全部撫でるのは、一苦労だと思うんだが?


「ワフ、ワウワウ! ワウー!」

「あぁ、ヴォルグラウの時のようにか。そういえばヴォルグラウは……あ、うん。まぁ仕方ないよな」

「バ、バウゥ……」


 さすがに数が多いと躊躇している俺に、レオが重要な事でヴォルグラウの時と同じように、と主張。

 そういえばと思って、辺りを見回してみるとヴォルグラウが門の近くで尻尾を後ろ足の間にしまい込み、体を小さくして怯えていた。

 まぁ、かなりの数のフェンリルがいるわけだし、レオやフェリーが大きく吠えたからな……怯えるのも無理はないか。

 フェンとリルルが近くに行って、ポンポンと前足を背中に乗せたりして慰めているようだから、大丈夫だろう。


「えーと、とりあえず……よ、ようこそ?」

「ガゥ……ガウ~」

「ワフ」


 フェンリル達が一斉にお腹を見せた事に、クレア達も驚いているんだけど……とりあえずこの場を収めないといけないと思い、まずは一番近くにいるフェンリルのお腹を撫でる。

 フェンリルは、俺の隣にいるレオにすっかり怯えているらしく、俺が撫でても最初は震えていたんだけど、すぐに気持ち良さそうに鳴き声を漏らしていた。

 レオは俺の横で、うんうんと頷いている……それは、おとなしくしているフェンリルに対してなのか、それとも気持ちいいだろうとでも言っているのか。


 ……両方か。

 そうして、レオと一緒に……時々レオから降りたリーザも一緒に、フェンリル達のお腹を撫でて行った――。



「えーっと、それじゃ皆……これからよろしく! でいいのかな?」

「「「「「ガウ!!」」」」」

「ワフ」


 全てのフェンリルのお腹を撫でた後、フェリーを先頭にレオや俺達の前に整列するフェンリル達。

 フェンやリルルも混ざっているのを確認しつつ、改めて聞こえるように挨拶。

 フェンリル達が一斉に吠えて頭を垂れ、レオはそれを見て頷いていた。


 屋敷に来る前にフェリーが言い含めていたのか、統率力のおかげなのか……それとも、フェンリルが元々そういった群れでの行動が得意なのか。

 とにかく、一糸乱れず仰向けから立ち上がって整列したのは、見事だった。

 でもこれ、俺がフェンリル達を従えている風になっているんだけど……いいのかな? レオとかフェリーが適任だと思うんだけど……。


「お疲れ様です、タクミさん」

「思った以上に数がいたし、確かにちょっと疲れたかもね。まさか全員のお腹を撫でるとは思っていなかったよ……」


 挨拶の終わった俺にクレアがそっと近づいて、労ってくれる。

 フェンリルの数は、フェリー達を除いて三十体……さすがにちょっと疲れを感じる。

 時間も結構掛かったからなぁ――。



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