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第1208話 別の事もお願いしてみました
第1208話 別の事もお願いしてみました
「あと……もしできたらなんですけど、この厨房ではなく外で調理ってできますか?」
「そうですね……手の込んだ物であれば、少々難しいかもしれません。ですが、ハンバーグであれば可能です。あらかじめ材料などの準備を多少しておく前提ですが」
ついでにいずれはと思っていた事をやろうと考え、ヘレーナさんに聞いてみる。
ランジ村でもやった事だから、ヘレーナさんは頷いて肯定してくれた。
ハンバーグを作る工程は、こねる、成形する、焼く、盛り付けやソースなどを掛けるくらいだ。
下味をつけたりする物もあるかもしれないけど、それらをあらかじめやっておけば、外でもできるって事だろう。
そもそものミンチ肉の準備や付け合わせなどもだな。
火や水の準備が大変だけど、それも手伝わなきゃ……火を点けるくらいなら、レオにも手伝えそうだし。
「それなら、裏庭……は狭いか。屋敷の外でできるようにしたいんですけど……」
敷地の外なら、街道にまで出なければスペースはかなり広く使える。
以前フェンリル達の散歩に出た時のように、魔物が近付いて来る可能性もあるにはあるけど……大量のフェンリルやレオがいれば、それは問題にもならないだろう。
「少々準備が大変そうですが、畏まりました。他の者達にも外で調理をする経験をさせるにも、丁度良さそうです。お任せ下さい」
聞けば、何かの用があって貴族などが遠出をする際に、料理人が帯同する事もあるらしい。
森に行く時はいなかったけど、前回ランジ村に行った時には同行していたとか……気付かなかった。
まぁ、他の使用人さん達と同じ格好をしていて、見分けがつかなかったんだけど。
ヘレーナさんから話を聞いている時、男女二人の料理人さんが耳付き帽子を被って俺にアピール……そういえば、何度か厨房以外で見た顔だと思ったら。
ちなみに、男女ともに耳付き帽子を気に入っているらしく、調理中にも被っている事があるとヘレーナさんが溜め息を吐いていた。
コック帽などの規定がないので、衛生的に問題ないなら俺はいいと思うし、本人達がそれでいいのなら俺はいいと思う。
ただ、満面の笑みを浮かべる本人には言えないけど、男性の方は大柄な人だったので耳付き帽子が似合っていな……やめておこう。
ヘレーナさんの溜め息も、邪魔になるとかでなくてそっちのような気がした……。
「……ありがとうございます。それじゃ、クレア達からも許可を取れるよう頼んでみますね」
耳付き帽子を被っている人達は、とりあえず意識の外に追いやっておいて……請け負ってくれたヘレーナさんにお礼を言う。
多分却下はされないだろうけど、ちゃんと許可は取っておかないとな。
屋敷の人達を使う事になるし、敷地外といってもすぐ目の前でやるつもりだから。
「はい。ですが、外で調理する理由はどうしてでしょう? フェンリル達に、その様子を見せるという意図でしょうか?」
「フェンリル達に見てもらう、というのも少しはありますけど……」
ヘレーナさんの疑問は当然だな。
ちゃんとした調理できる場所があるんだから、そこで調理して提供すればいいだけの事。
言われたように、調理する場面を見てもらうのもある……まぁ、焼くときなどの匂いをフェンリル達には我慢してもらう必要はあるだろうけど。
俺が外でと言った本来の理由は別にある。
「ゲルダさんの事で少し。前に手伝ってもらった時に大惨事になりましたけど、それを近くで見ておきたいなと思ったんです」
「ゲルダさんですか。あの時は少々驚きましたし、あれ程の事は早々ありませんが……屋敷にいれば、何度か目にする機会はあります」
「まぁ、俺も何度かはありますけどね……」
苦笑するヘレーナさんに、俺も苦笑で応える。
厨房にいる料理人さん達も苦笑していたので、屋敷ではよくある事なんだろう。
ともかく、物好きと思われないようにヘレーナさん達にも、俺が考えている事を説明。
ゲルダさんが大惨事を引き起こすのを、求めているわけではない。
他の使用人さんからチラッと聞いたんだけど、俺のお世話役になる前までは、ちょっとした失敗や転ぶ事はあっても、頻繁にだったり大きな失敗はしなかったんだとか。
なんだか、俺に関わったからとか、俺に関わる事でドジの数が多く大きくなっているような気がしたのが、今回外で調理する理由だ。
さすがに原因究明できるとまでは思っていないけど……前回のハンバーグ作りでの大惨事を、俺が手伝いを頼む事でまた引き起こされるのか……。
再現性があるのかを試したかったんだ。
ヘレーナさんに説明しながら、事前にゲルダさん以外の人には説明して、謝っておく必要がありそうだとの考えも浮かぶ。
「ワフゥ……」
「どうしたのママ?」
「ワフ」
俺がヘレーナさんに話している途中、なぜかレオが深く溜め息を吐いて、リーザに首を傾げられていたのが少し気になった。
首を振って、なんでもないと言うように鳴くレオ……あまり多く手伝えないから、残念だったのかな?
そんなレオの様子を気にしつつ、フェリーがどれくらいで屋敷に戻って来るかを聞きに、再び裏庭へと向かった――。
「それじゃ、フェリー。一応、気をつけてな?」
「グルゥ!」
翌日の昼食後、クレア達と一緒に門の前で森へと向かうフェリーの見送り。
その首には、レオも使った事のある唐草模様の風呂敷が巻かれている。
「お腹が空くまで、食べちゃダメですよ?」
「グル!? グルゥ……」
その風呂敷をフェリーが気にしている様子を見て、ティルラちゃんから注意されていた。
風呂敷の中身は、ハンバーグも含めた肉多めの調理済み食糧。
フェリーが森に行く際に食べる物だな。
昨日あれから、屋敷に戻るまでをフェリーに確認したところ、まずは森で群れを探す必要があると言っていたから、急遽用意された物だ。
なんでも、森にいるフェンリルの群れはある程度の縄張りはあるけど、基本的に一定の場所に定住しているわけではないらしい。
リーダーのフェリーがいないのに、群れで移動するのかと思ったが、むしろリーダーがいないからこそ住む場所を変えるのだとか……その辺りの事情に関しては、いつか詳しく聞いてみよう。
ある程度移動先は限られてもいるらしいけど、それでも広大な森を探し回るので、ちょっと時間がかかる。
その間の食糧を、フェリーに持ってもらう事になった……要は弁当だな、全部調理済みで日持ちのする物ばかりだしな。
一度に全部食べてしまわないか、不安ではあるけど――。
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