第1207話 フェンリル達を歓迎する準備を頼みました



 クレアの提案をもとに、屋敷の馬を減らして空いた場所にフェリーが連れてきたフェンリルに入ってもらう事にする。

 もしそれでも足りない場合は、申し訳ないけど屋敷の外でとなった。

 裏庭でも数体……と思ったんだけど、これはフェリーから寝場所が別れるのなら、序列を考えて区別するため今フェリー達がいる場所へは受け入れない方がいい、と否定された。

 フェンリルの群れにも序列とかあるんだなぁ……基本的に場所としての区別はするけど、食べ物さえちゃんと与えられるのなら反発するフェンリルはいないだろうとフェリーから言われた。


 そもそもレオがいる時点で、反発はしないだろうとも。

 ちなみに、フェンとリルルは強さは上の方で期待されているらしいけど、序列としてはあまり高くないらしい。

 でも、このまま裏庭にいる事をフェリーは認めているみたいで、それはシェリーがクレアと深い関係……つまり従魔という繋がりを持っているからだとか。

 あとは、序列が高いフェンリルを馬と一緒に、序列が低いフェンリルは屋敷の外で……となった。


 まぁ、どのフェンリルがどういう序列か、なんて俺達にはわからないので選ぶのはフェリーにお任せだ。

 そうして、セバスチャンさんはラクトスに行った護衛さん達に、馬は全て連れ戻さなくても良いという旨を報せる手配を。

 クレアはティルラちゃんと一緒に、しばらく屋敷を離れる事になったフェリーの相手。

 俺はレオとリーザを連れて、ヘレーナさん達料理人さん達へフェンリルの食事についての相談のため、それぞれ別れた。



「畏まりました。フェンリル達が食べる料理……作り甲斐がありそうですね」

「すみません、薬草畑の従業員さん達の料理も作って、大変だったばかりなのに……」


 厨房でフェンリル達の話をすると、すぐに了承して頷いてくれたヘレーナさん。

 今朝まで、多くの人達が食べる料理を作って大変だっただろうに、ちょっと申し訳ない。


「いえ、質を損なわず量を用意する事も、料理人には求められます。私もそうですが、後進の者達を育てるにも、ちょうどいいですから」

「後進の……新しい人を入れるんですか?」

「それなりに、ですかね。私が屋敷を離れてから、ここを仕切る者を育てる事も必要ですから」

「あー、確かにそうですね」


 屋敷の料理長であるヘレーナさんだけど、実はランジ村に一緒に行く事が決まっている。

 顔見せの時にいなかったのは、その後の大勢の従業員さん達を屋敷に招いて食事会をする事が決まっていたからで、物凄い量を作るために離れられなかったからだ。

 その日の食事会の時に、ヘレーナさんと数人の料理人さん達は皆と顔合わせしていた。

 ただ、ヘレーナさんが屋敷を離れるという事は、別の人を代わりにたてなければいけない……ティルラちゃんが残るから、新しい料理長が未熟な人ではいけないって事でもある。


「新しい料理長は、既に?」

「えぇ。もう誰にするかは決めています。が、まだまだなので、急いで教えているところですね」

「……こっちもこっちで、大変ですね」


 ヘレーナさんに聞いてみると、視線で新しい料理長になるらしき人を示した。

 その人は小柄な女性で、年齢は少なくとも俺より下のように見える……男女ともに、ベテランに見える料理人さんはいるはずなのに、若い人にしたのは今後の成長に期待してか、才能を見込んでなのか。

 他の料理人さん達は、その女性を頼もしそうに見ているから、皆期待しているようだな。


「あ、そうだ。フェンリル達の料理は、できるだけ俺も手伝いますよ。なんというか、これから色んな事をお願いすると思うので、俺自身も何かしてやらないといけない気がしますから」


 とは言っても、俺は料理素人だから手伝えることは限られているけど。

 フェンリル達に食べてもらう料理は、ハンバーグメインになりそう……というかフェリーが要求しそうなので、一応俺にも手伝えると思う。


「私も、手伝うよパパー」

「そうだな、リーザにも手伝ってもらおう。あと、チタさんとシャロルさんにも。あの二人は一応フェンリルのお世話を任せているし」


 チタさんは、フェンリルを撫でられるなら喜んで手伝ってくれるだろうし、シャロルさんはお世話に飢えているようだから、引き受けてくれるだろう。

 ……最近シャロルさん、屋敷に留まる事が決まってから手持無沙汰みたいだからなぁ。

 俺に何かお世話する事はないか、聞いて来るくらいだし……ライラさんに止められていたたけど。


「ワフ、ワフ!」

「ママもやりたいみたい!」

「あーいや、さすがにレオは手伝えないだろう……」

「ワゥ」


 俺とリーザがやる気になっているからか、一緒にいるレオもやる主張するように鳴いた。

 やる気はあるみたいだけど、さすがに料理はなぁ……焼くくらいなら魔法でできるか? いや、微妙な火加減が難しそうだ。

 ハンバーグの成形とか、レオの足……いや肉球ではできないだろうしな。

 やるとしても、手形ならぬ肉球の形をとるくらいは? いや、それもさすがに……食べ物を踏むって事だし、やるとしてもそれっぽい形に成形するくらいだな。


「まぁ、レオはフェンリル達と一緒に、美味しく食べてくれればいいさ」

「そうです、レオ様。私達料理人にとって、どれだけ大変な料理であったとしてもそれを美味しく食べてくれる事が、一番ですから」

「ワウ……」


 慰めるようにレオを撫でつつ、手伝いについては否定しておく。

 残念がるように、少ししょんぼりしてしまったが……ヘレーナさん達にとっては、いつも美味しそうに食べているレオ達を見るだけで、十分なんだろう。

 さすがに表情は人間よりわかりづらいけど、尻尾がいつも美味しいと雄弁に語っているからな……。


「とにかく、フェリーが森に戻って連れて来てからなので……数日後くらいになると思います」


 そういえば、いつ頃戻って来るのかフェリーに聞いてなかったな……。

 出発する前に聞いておかないと。


「畏まりました。そのように準備を進めておきます」

「よろしくお願いします」


 大量に食べる事も踏まえて、事前にヘレーナへ伝えておけて良かった。

 食材の準備などもしなきゃいけないしな。

 あ、そうだ……ちょうどいいから、この提案もしておこうか――。



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