第1199話 大体の効果と範囲がわかりました



「ワフ!? ワ、ワウゥ……」


 おかわりの前足を乗せたまま胸を反らして自慢気なレオが、俺の注意にハッとなり、つい……と言うように鳴いた。

 まぁ、マルチーズの頃から俺がコマンドとして教え込んだから、反射的にやってしまうんだろうな。

 別にティルラちゃん相手なら、レオも懐いていてお手とおかわりくらいなら従ってもいいと考えてそうだし。


「うーん……それじゃティルラちゃん、レオが嫌がりそうな事をお願いしてみようか?」

「ワゥ? ワフワフ!」

「嫌な事なら、ついお願いを聞く事もないだろ? 大丈夫、本当にやれってわけじゃないんだから」


 ギフトの強制力を調べようとしているのに、強制力がなくてもレオが従いそうな事は駄目だったなと考え直し、嫌がる事を言うように伝える。

 レオは、抗議するように鳴くけど……実際にやるわけじゃないから、安心して欲しい。


「レオ様が嫌がる事、ですか? んー……」


 考え込むティルラちゃん……ちょっと難しかったかな?

 ティルラちゃんは、レオが嫌がる事をしたがるような子ではないからなぁ。

 そうだ。


「ティルラちゃん、ティルラちゃん。こういうのはどうかな……?」

「ふんふん……それなら、大丈夫そうです!」

「うん、それじゃ『疎通令言』を意識しながら、レオに言ってみようか」

「ワウゥ……」


 考え付かないようなので、小さな声でティルラちゃんに耳打ち。

 レオの聴力なら、聞こえていてもおかしくないはずなのに、嫌な予感がするようで気付かずしょんぼりしている。

 本当に、実際にやるわけじゃないんだから、そこまで落ち込まなくても……。


「それじゃレオ様、私と一緒にお風呂に入りましょう! リーザちゃんとレオ様を洗いますよ!」

「ワウ!? ワフ、ワフ!」


 お湯を使う機会を減らしたおかげで、以前よりはマシになったお風呂だけど、やっぱりまだ嫌なようでティルラちゃんに言われたレオは、ブンブンと首を横に振った。

 尻尾もしおしおになっているから、本当に嫌なんだなとよくわかる。


「ははは、これはちゃんと断ったか。うん、成る程……」

「これでいいんですか?」


 ティルラちゃんの言葉を聞いて、感覚的に『疎通令言』の効果がある程度わかる。

 レオに言ったはずの言葉なのに、少しだけ俺への影響があったように感じるから。


「そうだね、なんとなくわかったよ。多分、ティルラちゃんのギフトは言葉にするだけあって、限定された能力じゃないみたいだ」

「限定された能力、ですか?」

「例えば、俺の『雑草栽培』だと薬草を作ったり、摘み取った物を変化させたり、必ず限定された対象があるんだ」


 首を傾げてキョトンとしているティルラちゃんに、噛み砕いて説明していく。

 俺の『雑草栽培』でいうと、手に触れた地面などに植物を生やし、手に持った植物の状態柄を変化させる。

 つまり、手で触れているという限定的な条件で発動する能力という事……さすがに、体のどこでも何かに触れてたらなんて事になれば、扱いに困っていただろう。

 けどティルラちゃんの場合、言葉に能力を乗せると言える能力だからだろうか、その言葉を聞いた人全員に効果があるってわけだ。


 手に触れて対象を限定させられる俺の能力に対し、ティルラちゃんの能力は言葉によって不特定多数へと対象が広がってしまうわけだな。

 レオにお風呂を一緒にと言った時、心の中から自分が誘われているような、ティルラちゃんの言葉に誘導されるような感覚が微かにあった。

 それは、無視しても構わない程度で、もっと強く言われても大丈夫だろうとは思えるくらいの感覚だったけど、レオに対して言ったはずなのに、俺にも効果があったってわけだ。


 説明してから試したけど、耳を完全に塞いで言葉を聞かなければ効果がないようだった……つまり、鼓膜を震わせる言葉を聞くという事、そこから脳を刺激しているのかもしれない。

 まぁ、実際どのように効果を発揮しているのかはともかく、その言葉を耳に届かせなければ効果は表れないという事だな。

 ……人ならともかく、レオのような四足歩行の生き物は耳を塞げないから、聞かないという事はできなさそうだけど。


「え、その耳そんな動きができるのか!?」

「ワッフワフ~」

「おぉ~、レオ様面白いです!」


 耳を塞げない……と言う話をレオやティルラちゃんにもしたら、パタリと閉じて見せるレオの耳。

 得意気になっているレオは、俺の驚きは見ていても声は聞こえていないらしい。

 レオの耳は、一般的なブリックイヤーと呼ばれる立ち耳だけど、今はボタン耳のように先端を垂れさせて、完全に塞いだ状態になっている。

 動かせるのはともかく、畳む事ができるとは思っていなかった……。


「はぁ……とりあえず、ある程度はティルラちゃんのギフトの事がわかったかな」


 レオに耳を塞ぐ必要はないと、体をポンポンとして伝えて元に戻り、お茶を飲んで少しだけ落ち着く。

 ティルラちゃんへの説明だけでなく、最後にレオの芸……と言えるか微妙なのを見て、驚いたから喉が渇いてしまった。


「タクミさん、ありがとうございます。おかげで少しは自分のギフトの事が……わかったかもしれません」

「うん。ティルラちゃんの助けになれたのなら、良かったよ」

「はい!」


 ギフトを使っても、ティルラちゃんの様子に変わった事はない。

 おそらくあの程度じゃ倒れる事はないんだろう……そこまで試す気はなかったけど、ちょっと使ったらすぐに倒れるような事にならなくて良かったと思う。

 ほんと、ギフトを使用するために必要な力ってなんなんだろうなぁ? 魔力じゃないのは確かだ……それなら、ギフトで無限の魔力を得ているユートさんは過剰使用にならないはずだしな。

 疲れとか関係なく、急に倒れるから体力とかも関係なさそうだし……なんて、庭園に咲く花を見ながら考えていた。


「ここのお花は、可愛くて好きです。いろんな色があって面白いですし」

「スンスン……ワフ~」


 休憩をしながら、俺と同じように庭園の花々に視線を巡らせながら言うティルラちゃん。

 レオも、鼻を鳴らしながら心地よさそうに鳴く……花の香とか好きなんだな、知らなかった。


「ティルラちゃんは、お花は好きかい?」

「はい! 可愛くて、綺麗で……心が落ち着くような香りがする物もありますから」


 好奇心旺盛でも、ティルラちゃんはやはり女の子だな。

 俺が子供の頃には、同性の友人知人も含めて花に興味がなかったからなぁ……庭園を見渡して、自分の花に対する知識だとか、種類に偏りがあるのがわかる。

 屋敷の使用人さんやクレアなどにも評判が良かったから、いいんだけど――。



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