第1198話 ティルラちゃんのギフトを確認しました



「では、私はこれで。もしお茶のおかわりが必要でしたらこちらに……」

「はい、ありがとうございました。もし足りなくなったら、レオにライラさんを呼んでもらうよう頼みます」

「ワフ!?」


 俺の冗談に、牛乳に口を突っ込んでいたレオが顔を上げて驚く。

 嫌ではないんだろうけど、急に自分が指名されたから驚いたんだろう……庭園は所狭しと植物が植えられているから走れないし、俺が行った方が早いんだけどな。


「ははは、冗談だよ。ごめんごめん」

「ふふ、もし何かあるようでしたら、遠慮なく呼びつけて下さいませ。では、タクミ様、ティルラお嬢様」


 レオに謝りながら撫でる俺に微笑んで、ライラさんは礼をして屋敷の中に入っていった。


「……深刻な話なんでしょうか?」

「ん、どうしてそう思ったんだい?」

「だって、いつもならタクミさんはライラがいても、気にせず話をしていますから」

「あー、まぁそうだったね……」


 これまで、ライラさんに隠すような言えない事を話す事がなかったので、その場にいても気にせず話していた。

 それをティルラちゃんもわかっていて、俺がこれから話すのは深刻なのかと考えたんだろう。


「大丈夫、深刻な話にはならないよ。まぁ、話しておきたい事と、確認するくらいかな?」

「話しておきたい……確認って、何をですか?」


 ジョセフィーヌさんの事以外にも、ティルラちゃんのギフトについては調べておかないといけないことがあるからな。


「ティルラちゃんのギフトについてね。そうだね……今日、ラクトスに行くあたりから今までで、レオやフェンリル達の声を、言葉として聞いたりした事はあるかな?」


 『疎通令言』は、使い方によってはかなり便利なギフトだろう。

 けど、俺の『雑草栽培』とは違って発動しているのかどうか、傍から見てわからない。

 だから、ある程度の確認とオンオフができるのかといった確認は必要だろう……無意識に使って、今朝のように倒れてしまってはいけないから。


「えっと……ラーレからなら。それ以外だと、ありません。朝は聞こえていましたけど」


 ラーレの言葉は、ギフト関係なく従魔契約しているからだな。

 だとしたら、気絶から目を覚ました後は今のところ発動していないって事か。


「成る程。朝はティルラちゃんが聞こえた声の正体を探るために、発動していたんだろうね」


 どうして声が聞こえるのかなど、ギフトそのものを意識していなくても、近い事を考えていたから発動状態になっていたんだろう。

 無意識だから、ずっと発動していた可能性もある。

 だから、俺達に報告しようとした時に限界が来て倒れた……と。

 

「それじゃ、ギフトを……そうだね、声を聞きたいとかギフト名の『疎通令言』を頭に思い浮かべて、レオの声を聞いてみよう」


 確認として、意識するだけで発動するのか、ギフトの事を明確に考えた方がいいのか。

 そして、意識していない時に発動するのかどうかなどを、調べて行かないとな。

 まぁラクトスとの往復や、屋敷へ戻って来る時にフェンリル達の


「はい、わかりました! えっと……レオ様?」

「ワフ?」

「レオ、何かティルラちゃんと話してみてくれ」

「ワウ。……ワフゥ、ワフワフ?」

「あ、レオ様が何を言っているのか、わかります!」


 そうして、ティルラちゃんとレオに話をしてもらって、『疎通言詞』を探っていく。

 発動条件としては、俺の『雑草栽培』と同じく意識する事、ギフトに関して考える事のようだった。

 なんとなく声が聞きたいとか、話しがしたいと言った程度では、ぼんやり言葉が聞こえる程度らしく、完全には発動していないようだ。

 とはいえ、ティルラちゃんが倒れる経緯を考えたら、それだけでも結構力を使っているような気がするので、油断は禁物。


 『疎通令言』の事を明確に意識している時には、はっきりと理解できる言葉が聞こえるらしい。

 また、いきなり意識しないようにと言っても難しいので、お茶を飲んでちょっと休憩するよう勧めながら、確認もしてみた。

 基本的にティルラちゃんが、本来言葉が通じないはずの相手に対して話したいとか、ギフトを意識している時のみ発動するようで、無意識に使い続けるという懸念は払拭された。

 注意さえしておけば、過剰使用で頻繁に倒れたりする事はなさそうだな。


「それじゃ次は……レオに対して、お願いをしてみよう」

「お願いですか?」

「うん。ティルラちゃんのギフトは、相手に言う事を聞かせる……言った内容を強制的に従わせる力がある。だから、それがどれだけのものかを調べるためだね」


 レオに対してなら、意志力以外にも魔力が関係している部分もあるらしいので、強制させる事はないだろうけど。

 多分『雑草栽培』と同じように、人に対して効果を出すのは難しくなっていると思う……。

 まぁ、俺のギフトとは違って何者かを相手にして使うギフトだから、『雑草栽培』よりは容易に通す力が働いていそうではあるけど。


「うーん……それじゃ、よくタクミさんがやっていて、私もやりたかった事を。レオ様、お手!」

「ワフ!」

「おかわり!」

「ワフワフ!」


 右手の平を出したティルラちゃんに従い、お座り状態のレオが左前足をタシッと乗せる。

 続いて、おかわりと言って逆の左手を出したティルラちゃんに、右前足を乗せるレオ。

 俺がよくレオとやっていたのを見ていて、やりたかったんだろうけど……。


「レオ、誇らし気にしているところ悪いけど、そのままやっちゃだめだぞ?」


 これはティルラちゃんのギフトで、強制力がどれだけあるかを試すためだ。

 その通りに従ったら意味がない。

 ちなみに、本来のお手とおかわりは、人の方が左手を差し出して向かう犬が右前足を出すのがお手。

 おかわりは右手を出した人に対して、左前足を出すのが正しいらしい。


 教え込んだ後に、色々犬について調べている時に知った……まぁ、必ずしも正しい方法でやらないといけないわけではないらしいけど。

 だから、気付いた後もそのままになっている。

 一番重要なのは、途中でコマンドのやり方を変えて一貫しないしつけを、しない事らしいからな……コロコロと意見ややり方が変わる飼い主は、犬の方が混乱してしまうんだとか――。



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