第1200話 ティルラちゃんと話をしました



「見た事のない花がいっぱいで、面白いですね~」

「そうかい? まぁ、そうなのかもね」


 ティルラちゃんが見た事のない花か……まぁ、そりゃそうだよな。

 この庭園に咲いている花は、俺のいた世界の知識を基にした花々だ。

 朝顔、チューリップ、紫陽花、菊や椿、牡丹もあるか。

 他にも、ダンデリーオン茶のためのタンポポや向日葵なんかも……『雑草栽培』で作ったので、季節感は一切ないけど。


 日本ではよく見られる花ばかりで、もう少し花の種類を知っておけば良かったとも思う。

 名前だけ知っていても、どんな花なのか見た目すら知らなくて作れない物もあったからなぁ……あ、薔薇の花はなんとなくわかるな、今度庭園に追加してみよう。

 ちなみに、桜は作れなかった。 

 雑草ではなく樹木に分類されるからなんだろうけど、残念だ。


「……ティルラちゃん。花を眺めながら出いいんだけど、話しておきたい事があるんだ」


 自分で作った季節感がバラバラな花を眺めつつ、同じく花を見ているティルラちゃんに話し掛ける。


「タクミさんが私にですか? あ、さっきも話したい事って言っていました」

「うん。だけどこの話は、クレアもセバスチャンさんも知らない事で……セバスチャンさんは、多少察している部分もありそうだけど、それはともかく」

「姉様もですか? そんな話を、私が聞いていいんでしょうか?」

「うーん……どうだろう? 悪いって事ではないと思うけど、ギフトもあるわけだし。でも、できれば他の人には内緒にしておいて欲しいかな?」

「わ、わかりました!」


 話したい事は、ジョセフィーヌさんに関しての事。

 俺としては一番クレアに話したいんだけど、シルバーフェンリルの事もあるから。

 それはともかく、ギフトを得たティルラちゃんにはなんとなく、話しておいた方がいいと思うんだ……それは、理屈とかではなくそっちの方がいい、という感覚だけなんだけども。


「それじゃあえっと……ティルラちゃんは、初代当主様の話しを知っているかな?」

「はい。前にも姉様やタクミさん達が話していましたし、他でも聞いた事はあります。私達のご先祖様、ですよね?」

「そうそう。その初代当主様の話になるんだけど……」


 クレアと俺が話していた時は、レオとじゃれ合っている事が多かったように思うけど、ちゃんと聞いていたようだ。

 クレアやエッケンハルトさん程詳しくなくても、公爵家の娘として話くらいはされているか。

 俺が聞いた話は、ユートさんやエッケンハルトさんに聞いた事で、全てを知っているわけじゃない。


 その中で、ギフトに関する事をティルラちゃんに話していく……さすがに、元々は異世界からとかそういう話はしないけど。

 ティルラちゃんを混乱させるだけだし、今はギフトを考える事に集中させたい。


「それじゃ、初代当主様もギフトを持っていたんですか?」

「そうみたいだね。ギフト名は『疎通言詞』、ティルラちゃんのギフトと少し似ているんだ」

「私のギフトと……」

「絶対ではないけど、ギフトはその子供や子孫に受け継がれる事があるらしくて……」

「それが私にって事ですか?」

「うん」

「そうなのですか……」


 難しい表情になって、考え込むティルラちゃん。

 いきなり、自分に新しく備わった能力がはるか昔の祖先、公爵家の始祖でもある初代当主様から受け継がれた、と言われてもすぐに理解するのは難しいか。

 今頃ティルラちゃんの頭の中は、初代当主様の事やギフトの事でグルグル回っているんだろう……クレアの事も考えているかもしれない。

 

「だ、大丈夫ティルラちゃん?」


 実際に頭をグルグル動かし始めたティルラちゃんを心配して、声を掛けてみる。

 考える時に、本当に動かさなくてもいいんだけど……一気に情報を詰め込み過ぎたかもしれないな。


「は、はい……でも、ちょっと急な話で……」

「ワフワフ」

「あ、レオ様。ありがとうございます」

「ワフー」


 頭の動きに釣られて、体まで揺らし始めたティルラちゃん。

 ギフトが判明したばかりだから、ちょっと急ぎ過ぎたかもしれないな……今日はここまでにしといた方がいいかもしれない。

 そう思っていたら、レオがティルラちゃんに頬を寄せて毛を擦り付けるようにし始めた。

 どうやら、ティルラちゃんを心配して励ましているようだけど……よく見たらティルラちゃんが揺れないように、支えてもいるみたいだ。


「レオ様のおかげで、少し落ち着きました」


 体に頬擦りするようにしているレオを撫で、少し元気を取り戻した様子のティルラちゃん。

 これなら、続きを話しても大丈夫そうだ。

 レオを撫でるのはレオ自身が喜ぶのもあるけど、気持ちを落ち着かせたり冷静になる効果があるようだ……シルバーフェンリルの特殊能力、ではないと思うけど。


「えっと、それじゃタクミさん、私のギフトは初代当主様から受け継がれたからって事でいいんでしょうか?」

「多分だけどね」


 揺れていた体や頭をレオに支えられつつ、しっかりとした視線を俺に向けての質問に頷く。

 ジョセフィーヌさんの『疎通言詞』とティルラちゃんの『疎通令言』……全く同じじゃないのは、受け継がれる過程でそうなったのか、それとも何か別の要因があるのかはわからない。

 まぁ、隔世遺伝とか先祖返りってところなんだろう。

 似ているだけで、完全に同じってわけではないんだから……ユートさんに話したら、喜びそうな話だ。


「それで初代当主様は、ギフトを持っていたからフェンリルやシルバーフェンリルと出会った時に、話して仲良くなれたって事らしいよ。今のティルラちゃんとレオ、フェリー達のようにね?」

「そうなんですか……レオ様達のように、ギフトで仲良く」


 俺から視線を外し、レオを見るティルラちゃん。


「ワフ? ワフワフ」


 ティルラちゃんに頬を寄せているから、よくやるように首を傾げたりはしなかったけど、レオから俺の言い方に抗議の鳴き声。

 自分はギフトがあるから仲良くなったのではない、と言いたいらしい。


「ははは、そうだな。俺もそうだけど、レオとティルラちゃんもギフトがあったから、仲良くなったわけじゃないよな」

「ワウ」


 苦笑しながら言うと、満足したように鳴いて小さく頷くレオ。

 あまり顔を動かさないのは、ティルラちゃんを支えているからか――。


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