第1186話 レオの魔力は凄まじい勢いでした



「では皆様、少々離れて下さい。特に、クレアお嬢様とシェリーに……念のため、ティルラお嬢様も。タクミ様は、おそらくレオ様の魔力なので大丈夫でしょう」

「私達も? できれば近くで見たいわ」


 アルフレットさんから、離れるようにクレア達に声を掛けられた。

 近くで見たい、興味津々と顔に書かれている様子のクレアは、首を傾げる。


「クレアお嬢様、これからやるのは魔力による従魔契約の強制解除です。クレアお嬢様やシェリーにも影響が及ぶかもしれません。まぁ、不可抗力でクレアお嬢様とシェリーの契約が解除されても、また結べば良いだけではありますが……」

「そういう事なのね。わかったわ。ティルラも行くわよ?」

「キャゥ」

「はい、わかりました。レオ様、頑張ってくださいね!」

「ワウー!」


 デウルゴに対する鬱憤を晴らすように説明するセバスチャンさんの言葉に納得して、シェリーやティルラちゃんを連れて離れるクレア。

 衛兵さんとニコラさん、エルミーネさんが周囲を固めて、まるで陣形のように魔力の影響を少なくするらしい。

 効果があるのかはわからないけど、いないよりマシってところだろう。

 強大な魔力を放出する、強制解除は周囲にも影響が及ぶ可能性がある、予想だけど。


 そもそも従魔契約をしているのかちょっと怪しい俺とレオは、レオ自身の魔力だから大丈夫なんだろうけど、クレア達は違うからな。

 ラーレはいないけど、ティルラちゃんはギフトの事もあるから、今はできるだけ何かの影響は与えたくないところでもある。

 まぁ、セバスチャンさんも言っているように、クレアとシェリー、ティルラちゃんとラーレは仲がいいから、もし強制的に解除しても再び契約を結び直せば問題はないんだけど。

 これは、デウルゴとヴォルグラウの関係と違って、従魔と主人の関係が良好だからだろう。


「良さそうですな。では、アルフレットさん」

「はい。レオ様、魔力の放出をお願いします。魔法を使うのではなく、外に体内の魔力を押し出すような感覚……だと思います」


 周囲の人達が離れたのを確認した後、アルフレットさんを促すセバスチャンさん。

 衛兵さん達は、レオが来ている事もあり見物人のような人達を近付けないように、人払いをしてくれている。


「ワフ? グルルルルル……」

「お……おぉ!?」

「ぐっ……!」

「これほどまでとは……っ!」

「ひぃ!」

「バゥゥ……!」


 アルフレットさんに言われて、レオは一度首を傾げた後、姿勢を少しだけ低くして唸り始める。

 その瞬間、周辺に濃密な何かがまき散らされた……これがレオの魔力か!?

 俺だけでなく、近くにいた人達は地面に転がって怯えているデウルゴ以外、まき散らされる魔力に押されないよう踏ん張る。

 ヴォルグラウでさえ、姿勢を低くして四本の足で踏ん張っているくらいだ。


「レ、レオ様! つ、強すぎます! もう少し魔力を少なくしても……!」

「グルル……ワフ? ワウゥ……」

「ふぅ……ま、まぁ初めての事だから難しいよな……少しずつ、魔力を出すようにしたらどうだ?」

「ワフ」


 アルフレットさんが叫び、レオがまた首を傾げて魔力の放出を止める。

 難しい……とも言っているようだ。

 レオから出た魔力は、放出が止まるとすぐに霧散してなくなり、俺を含めた人達がホッと一息。

 とりあえず、調整できるように少しずつ強めていくようレオに言った。


「魔力が目に見えるような、そのような感覚もありましたな……」

「……多分、錯覚なんでしょうけど」


 セバスチャンさんの呟きに答える俺。

 まき散らされていたのは、はっきり知覚できる程の濃密な魔力だったからか、周辺が薄い霧に罹ったようにも見えた。

 そこにある感覚があって体が押されているのに触れられず、でも視界には霧のような何かが広がっている。

 魔力を感知する器官のようなものが、レオの魔力に対して過剰に反応しているからなのかもしれないけど……なんとも不思議な体験だ。


「では、レオ様……少しずつ、押し出すように。そして、できればヴォルグラウとデウルゴに向けて、魔力を放出して下さい」

「ワフ! グルゥ……グルル……」


 アルフレットさんに頷いて、再び魔力の放出を始めるレオ。

 先程とは違い、周辺一帯にまき散らされる感じがないのは、魔力を少なくしたからなのとアルフレットさんの言う通り、ヴォルグラウ達の方へ向けたからだろうと思う。

 おかげで、体が押される感覚は少ない……それでも、異常と感じるくらいの魔力が出ているように思えるんだけど。


 そういえば、投げられた石がリーザに当たって怪我をした時、怒ったレオが毛を光らせて逆立てていた時は、重圧のように上から抑えつけられる感覚だったっけ。

 今よりもよっぽど魔力を出していたように思う……さっきの押される感覚を考えると、あれでもレオとしては加減をしていたんだろうなぁ。


「バウゥ……バウーー!」

「くっ……! 何かが、抜けるような離れるような、何だこの喪失感は!?」

「レオ様、その調子です! 少しずつ強めて……そこです! それくらいで強さは留めておいて下さい!」

「ワフ! グルル……」


 レオの魔力を浴びつつけていたヴォルグラウが、急に吠えたかと思うと全身から光を放ち始めた。

 同じくデウルゴもほのかに光って、何やら叫んでいる。

 アルフレットさんは、丁度良さそうな魔力を感覚で調べるように目を閉じ、レオに指示してくれていた。


「ふむ、この様子ですと、うまく行きそうですな」

「おそらく。ヴォルグラウが光っていますし、デウルゴが言う喪失感……書物にも記されておりました」

「当たり前にあったはずの契約の繋がり、それが多大な魔力の影響でなくなっていくからなのでしょう」


 光り続けるヴォルグラウやデウルゴを見て、頷くセバスチャンさん。

 調節を終わり、目を開けたアルフレットさんが言うには、調べた内容に今の様子が書かれていたらしい。

 悠長に話しているように感じるけど、レオの近くにいる俺やアルフレットさん、セバスチャンさんは実はそれなりに足を踏ん張っている。

 さっき程じゃないけど……一応、ヴォルグラウ達の方へ向けているのがわかるくらいなのに、それでも押される感覚があるって事は、相当な魔力が放出されているんだろう――。



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