第1187話 従魔契約の解除に成功しました



「お、収まりましたかな?」

「これで、従魔契約は解除されているはずです。ありがとうございます、レオ様。もう魔力の放出を止めても良いかと」

「ワッフ!」

「はぁ……なんかすごいものを見た気分だなぁ」


 数秒ほどで光が弱くなり、やがて発光しなくなったヴォルグラウとデウルゴ。

 それを見届けて、アルフレットさんがレオにやめるよう伝えた。

 魔力の放出が止まり、圧力のようなものが一切感じられなくなったところで、再びホッと一息。

 魔物とか色々見て来たけど、今の瞬間が一番異世界に来たんだと実感できる出来事だったかもしれない……。


「ヴォルグラウ、どうですかな?」

「バウ? バウ……バウワウ!」

「デウルゴ、ヴォルグラウの言葉は?」

「わ、わからねぇ……一体何が……」

「成功ですな。お疲れ様です、レオ様」

「ワフー!」


 セバスチャンさんが確認のため、ヴォルグラウに声を掛け、次にデウルゴにも聞く。

 呆然自失といった風のデウルゴは、素直にヴォルグラウの鳴き声から言葉を感じ取れなかったようだ。

 レオに向かって微笑み、成功を宣言。

 高らかにレオが吠えて、従魔契約の解除は完了した。



「ワッフワフ! ハッハッハッハ!」

「ははは、偉かったなレオー。ありがとうなー」

「ワウー!」


 お座りした状態のまま、誇らし気にしつつも尻尾を振って舌を出している、褒められ待ちのレオを存分に撫でる。

 喜ぶレオの声を聞きながら、衛兵さんに引き立てられていくデウルゴを見送った。

 あの後デウルゴは、一体何が起こったのかと説明して欲しそうだったけど、セバスチャンさんによってすげなく断られていた。


 説明好きなセバスチャンさんにしては珍しい……と思っていたら、話を聞く気がない者に対して説明するのは面倒なだけですよ、と言われた。

 まぁ、取調室で話した時の態度を見たら、懇切丁寧に説明する気も失せるか。

 

「クレアやシェリーは問題ないかな?」

「大丈夫ですよ、タクミさん。最初のレオ様の魔力には驚きましたけど……」

「キャゥー!」


 レオが放出した魔力の影響、クレア達の距離は離れていたけど向こうもそれなりに感じていたらしい。

 従魔契約の方は問題ないようで、クレアは足下を駆け回るシェリーを微笑ましく見ていた。

 ティルラちゃんも、無事に終わってヴォルグラウに抱き着き、楽しそうにじゃれ合っているから大丈夫そうだな。


「それにしても、以前レオ様が怒ったのは見ましたが……シルバーフェンリルの魔力は凄まじいのですね」

「ワフ?」

「俺も同じ事を思ったよ。やっぱり凄いんだなぁレオ?」

「ワフン!」


 お座りしているレオを見上げて、しみじみと語るクレア。

 それに同意して、首を傾げているレオを俺も見上げると、鼻先を空に向けて誇らし気な格好になる。

 こうしていると先程の体が押されるほどの魔力というのが、なんだったのかと思うくらいだけど……いや、体は大きいけどな。


「キャゥ! キャウー!」

「あら、シェリーもレオ様のようになる。格好良くなりたいって言っていますね、ふふ」

「ははは、さっきのを見てやる気が出たんだろうね」


 クレアの足下を駆け回りながら主張するように鳴くシェリーは、先程のレオを見て憧れたようだ。

 近くにいた俺からすると、レオが格好いいとか考える余裕はなかったけど、離れていたシェリーにとっては、格好よく見えたのかもしれない。

 フェンリルのシェリーがレオのようになれるかはともかくとして……雌のはずなのに格好いい方面を目指すのでいいんだろうか? いや、いけないわけじゃないけどな。

 それに、レオも雌だけど格好いいは誉め言葉になるようだから、いいのか。


「ワフゥ?」

「キャゥキャゥ!」


 訝し気に鳴くレオに、意気込んで鳴くシェリー。

 レオは、シェリーがつまみ食いを発端に太ってしまった事を覚えているからな、懐疑的なんだろう。


「シェリーも頑張らないとなぁ……何を頑張るのか、俺にはわからないけど。フェリーやリルルに言ったら、喜んで色々教えてくれそうだぞ?」


 早速レオの真似とお座りをして、鼻息荒く勇ましい表情を……しようとするシェリーを、しゃがみ込ん撫でる。

 レオによるダイエット計画で、大分引き締まった感のあるシェリー。

 成長もあるんだろうけど、可愛さの中にも精悍さが見え隠れするようになったなぁ。


「キャゥゥ?」

「フェンは? って言っているようですけど…」


 フェンの名前を挙げなかったからか、シェリーが首を傾げているけど……フェンは娘を鍛えるのには向いていない気がするからな。


「フェンはまぁ……エッケンハルトさん的な、娘に対する甘さみたいなのがありそうだから、ちょっと不向きかなぁ?」


 なんというか、俺もリーザに対してそうなっている自覚はあるんだけど、エッケンハルトさんとも同じで、娘に対してとことん甘い。

 リルルは割と厳しい姿勢を見せる事があるし、フェリーは群れのリーダーだから向いていそうだ。


「確かに、そうですね」

「キュウ」


 一緒に頷くクレアとシェリー……似た物同士という程ではないけど、仲が良さそうで何よりだ。

 やっぱり、犬は飼い主に似るとかかな? シェリーは犬じゃないけど……って、それならレオは俺にていると言えるのか。


「んー……」

「ワフ?」

「いや、なんでもない」


 ふとレオを見上げると、不思議そうにされたが……俺から見たらどこが似ているとかは、わかるもんじゃないなと思い直して、首を振った。

 そのうち、クレアや他の人達に聞いてみるのもいいかもしれないな。


「タクミ様」

「アルフレットさん。セバスチャンさんも。デウルゴは……?」

「先程のレオ様を見たからか、呆然自失と言った様子ですな。まだ抵抗する気も出ないようで、おとなしい今のうちにヴォルグラウの事以外にも、これまでの行いを調べます」


 クレアとレオやシェリーを撫でながら話していると、衛兵さん達と話していたアルフレットさんとセバスチャンさんが戻ってきた。

 デウルゴの方は、連れて行かれた時に呆然としていたままのようだ。

 あのレオの魔力を感じたり、俺やセバスチャンさんが公爵家の関係者だと知って、今頃頭の中は大混乱中なんだろう。

 余罪などはこれから調べるみたいだけど、自白をしていたし、叩けばもっと埃が出るだろうから、処罰されるのは確定。


 処罰の詳細までは俺の領分じゃないし、ラクトスの衛兵さん達や代表のソルダンさん、領主の公爵家に任せればいい。

 まぁ、もう会う事はないだろうな……俺も会いたくないし、レオ達にももう会わせたくない。

 リーザを連れて来なくて正解だったな、デウルゴと話した様子から、獣人を見たら絶対何か言っていただろう。



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