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第1185話 デウルゴには皆怒りを覚えているようでした
第1185話 デウルゴには皆怒りを覚えているようでした
「……レオ様の回転起き上がり? これが噂の……」
「うぅむ、某もあのような動きはできませぬ。鍛錬したらできるようになるのでしょうか……」
アルフレットさんとニコラさんは、感心しているような驚いているような呟きを漏らしている。
というか回転起き上がりって……まぁそのままだけど、噂になっているのか?
多分、レオに頼んだらいつでもやってくれそうだけど。
あとニコラさん、人間でもできるかもしれないけど、レオの真似をしようと考えるのは止めた方がいいと思います。
「以前、ライラさんの手伝いをするためにレオ様を洗わせて頂いた際に、拝見いたしましたが……相変わらずすごいですね」
エルミーネさんは……あぁ、ライラさんと一緒にレオを風呂に入れた時に見たのか。
体の大きいレオは、言えばおとなしくしてくれるけどそれでも洗うのは大変だからな。
数人がかりで手っ取り早く洗うために、ライラさんから手伝いの要請があったんだろう……屋敷の使用人さん達なら、ほとんどの人が経験してそうだ。
だから噂か……。
「ま、まぁいいや。それでレオ、ヴォルグラウの事なんだけど……」
「ワフゥ?」
とりあえず、簡単に詰所内であった事をレオやニコラさん達に話す。
途中、ヴォルグラウに対するデウルゴの発言に関して、レオもシェリーと同じく唸っていたけど……撫でる事で落ち着いてもらった。
「まぁ、そういうわけで……クレアやティルラちゃん、セバスチャンさんやシェリーも、そろそろ我慢の限界だから、手っ取り早くレオにお願いする事になったんだよ。俺もだけど」
「ワフワフ……ワウ!」
「うん、やってくれるか、ありがとうレオ」
うんうん、と頷くレオ……俺達が我慢の限界、というところに対して特に共感しているようだ。
そして、任せろと言うように鳴いてくれた。
「それにしても、詰所で捕まっておきながらその態度……小物と言えばいいのか、大物といえばいいのか悩みますな」
「いえ、確実に小物でしょう」
「そうですね。タクミ様やクレアお嬢様を煩わせるなど、許しがたい男です」
レオは撫でて宥める事ができたけど、首を傾げているニコラさん以外が、頬を引きつらせている。
まぁ、俺もエルミーネさんの言うように、小物というのに同意だけど。
あと、アルフレットさんは基本的に大きく表情を変える事がないのに、今は頬以外にも目を細めている様子……近くで見ている俺も怖い。
「これなら、デリア殿の言う通りにしておいた方が、楽だったかもしれません」
「今になって俺もそう思いますけど、さすがにそれは……」
ニコラさん、表情に出さないからわからなかったけど、こちらも怒っているようだ。
デリアさんの言っていた事……レオとヴォルグラウに、デウルゴが捕まったからラクトスに向かう事を伝えに行った際、デリアさんが過激な発言をしていたんだ。
確か……「そんな相手は、タクミさん達の手を煩わせず、キュッとやってしまえばいいのでは?」だったか。
昨日、ヴォルグラウとの通訳で話した時から考えていたらしい。
獣人だから、特にヴォルグラウに対して同情的で、デウルゴを嫌っているんだろうけど……キュッと、と言った時のデリアさんの手の動きが怖かったのはここだけの話だ。
両手で雑巾を絞るようにしていたからな……しかも、サーペントを持っていた時の事を考えると、あれは確実に首を狙っていた……。
目も狩る者の目だったし。
とはいえ、さすがに実力行使を行うわけにはいかない、既に捕まえてあるんだからここは話して解決を図ろう……とその時はデリアさんを説得した。
「ま、まぁまぁ、結構これまでやった事を自慢していましたから。その意識はなくとも、罪の自白していたので処罰されるのは確実です。だから、皆さん落ち着いて」
ヴォルグラウとの従魔契約が解除されたら、もう会わない相手だろうし。
あれだけの余罪を自ら詰所で自慢したデウルゴとは、この先関わる事はないだろうからな。
とりあえずは、さっさと解除するのが一番精神衛生にいいだろう……ティルラちゃんのギフトも調べなきゃいけないからな。
「そろそろセバスチャンさん達がデウルゴを連れて……っと、来たみたいだ。レオ、頼んだぞ?」
「ワフ」
話しているうちに、詰所からセバスチャンさんを先頭に、シェリーを乗せたヴォルグラウと衛兵さんに引きずられているデウルゴが出てきた。
あれ? 一緒にクレアとティルラちゃんもいるな……デウルゴの前には出ない予定だったのに。
二人共、ヴォルグラウとシェリーを撫でながら、こちらへ歩いて来ている。
「クレアに、ティルラちゃん?」
こちらに来る二人に声を掛けてみる。
「はい。タクミさんやセバスチャンも言っていたように、もう面倒ですので。正体を明かす事にしました」
「そ、そうなんだ……」
「……うぅ」
ニッコリと微笑むクレアは、魅力的なんだけど凄みのようなものも感じる。
公爵家だと明かす事にしたのか……だから、さっきまで拘束されても暴れていたデウルゴが、おとなしく……いや、体を震わせておとなしく引きずられているんだな。
「では、さっさと済ませてしまいましょう。デウルゴはこの先、この街どころか公爵領にすらいられなくなりますから」
「ははは……そ、そうなんですね」
領外への追放? いや、何か他の処罰か? ともかく、デウルゴは公爵家のクレアが前面に出た事で、もう逃げる事ができなくなったわけだ。
元々、衛兵さんに拘束されている時点で、逃げられないけど……それでも、おとなしく話をして契約の解除にも協力的だったら、ヴォルグラウに対する罰だけで済んだのに。
余罪を調べられた後の事は知らないけど、少なくともクレアが出た時点で重い罪になるのは確定した。
口は災いのもとだな……デウルゴの場合は、災いをまき散らそうとしていた感じだから、自業自得か。
「それじゃ、アルフレットさん、セバスチャンさん、お願いします。――レオも頼んだぞ?」
「「畏まりました……」」
「ワフ……」
デウルゴをレオの前に衛兵さんに置いてもらい、すぐ近くでヴォルグラウはお座り。
背中に乗っていたシェリーは、クレアとティルラちゃんの間の足下に収まった。
レオを見て、顎が外れるんじゃないかというくらい口を開けて驚いているデウルゴ……また喚き散らされても迷惑がかかるから、さっさと済ませよう。
書物から方法を調べてくれたアルフレットさんと、情報を共有しているセバスチャンさんに場を譲った――。
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