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第1169話 ラクトスに向かう用事ができました
第1169話 ラクトスに向かう用事ができました
今は待つ事しかできないから、セバスチャンさんの言う通り目が覚めるのを待つしかない。
とはいえ、さすがにずっと目を覚まさなければ、なんらかの対処法を考えないといけないが。
他の原因は……セバスチャンさんの事だから、常に考えを巡らせたり調べているだろう。
「ティルラお姉ちゃん、大丈夫なのかなぁ?」
「きっと大丈夫。すぐに目が覚めて、またリーザと遊んでくれるよ」
「ワフワフ」
「うん……」
俺やクレアの話を聞いていたけど、不思議そうにするだけだったリーザはおそらくギフト関連の話をよく理解出来なかったんだろう。
まぁ、それは仕方ないけど……俺が倒れた時の話は、リーザがいない頃の事だったから。
相変わらず心配そうに天井を見上げるリーザを、レオと一緒に慰めた。
客間での話からしばらく、従業員さん達の様子を見たり、フェンリル達やヴォルグラウを構ってやったり、昼食を食べてティルラちゃんが起きるのを待っている。
フェンリル達もそうだけど、従業員さん達もティルラちゃんの事を心配している人が多くて、公爵家が慕われている事を実感する事もできた。
従業員さん達、本当は屋敷に一泊だけして今日ラクトスに戻り、それからランジ村への移動のため各自が住んでいる場所へ戻る予定だったんだけど、もう一泊する事になった。
突然ティルラちゃんが倒れたのもあって、屋敷内が混乱していたのと心配そうにしている人達を、このまま帰すのも……となって、ティルラちゃんが起きるのを待つためだ。
まぁ、もしティルラちゃんが明日までに起きなければ、対処法を考えるのと一緒に、従業員さん達も返さないといけないけど。
いつまでも、屋敷に泊めておくわけにもな……それぞれ、ランジ村に移住するための準備とかあるわけだし。
「クレアお嬢様、タクミ様。ラクトスからの報せが届きました。ヴォルグラウの主を捕まえたと」
そうして裏庭などで過ごしている中、セバスチャンさんから伝えられる報せ。
随分早いなと思ったけど、ある程度予想はしていたし、従魔を持った人は限られるからな……クレアが衛兵さんに厳命したのも、早い理由の一つか。
「ヴォルグラウの主……デウルゴね。ティルラも目は覚まさないし……」
ティルラちゃんがまだ目を覚ましていない状況で、ヴォルグラウのためにラクトスに行くべきか、クレアは悩んでいるようだ。
心配だし、傍にいてやりたい気持ちもあるんだろう……ギフトが原因だと予想できても、寝ているのとは違うのだから、心配は心配だからな。
「その、デウルゴの様子とかは?」
「少々暴れたようで、衛兵に取り押さえられましたとの事ですな。今は衛兵の詰所に捕えてあるようです」
「あばれたんですか……あんまり、穏やかな人ではなさそうですね。まぁ、ヴォルグラウにした事を考えれば、攻撃的な人なんでしょうけど」
「そのようですね。ティルラが目覚めるのを待って、とも考えましたけど……早めに対処した方が良さそうです」
捕まえる時に抵抗したのか……公務執行妨害も追加だな、あるかわからないけど。
罰するだけならともかく、契約破棄のために話をしないといけないから、このまま衛兵さんに任せているのも大変だろう。
「ティルラちゃんは心配だけど、他の事をしていた方が気が紛れるかもしれないね。面白い事とは言えないから、微妙かもしれないけど」
「いえ……そうですね。ティルラには何もしてあげられませんから。今は、やるべき事に集中するのがいいと思います。目を覚ました時、ヴォルグラウが自由になっていればティルラも喜ぶでしょう」
「そうですね……」
気を紛らわせるに相応しい事ではないと思うけど、屋敷でただ心配だけして待つよりは、ラクトスに行った方が建設的だろう。
戻ってきた頃には、ティルラちゃんが目を覚ましているかもしれないからな、クレアがいないと寂しがるかもしれないけど。
「よし。アルフレットさん!」
「セバスチャン!」
「「はい」」
ほとんど同時に、アルフレットさんとセバスチャンさんを呼ぶ、俺とクレア。
呼んだ人は違うけど、行動が重なって一瞬クレアと顔を見合わせて苦笑する。
「セバスチャン、急ぎラクトスへ向かう準備を。タクミさんやヴォルグラウと一緒に向かうわ」
「畏まりました……」
「アルフレットさん、ヴォルターさんと調べていた大きな魔力による契約破棄に関しては?」
クレアは屋敷を出る準備を命じ、俺は調べていた契約破棄の別の方法について聞く。
捕まえる時に暴れたのなら、ヴォルグラウとの契約破棄を頼んでも、素直に聞いてくれない可能性も高いから、念のためだ。
短時間だから、ほとんど調べられていないかもしれないが……。
「ヴォルターさんの協力で、従魔契約に関する書物を存外すぐに発見できました。本邸には及びませんが、セバスチャンさんが書物を集めていたおかげです。通常とは別の契約を破棄する方法も、記述がありました」
まだ調べられていないと思ったら、もう書物に当たりを付けて調べてくれていたらしい。
これも、本の虫らしいヴォルターさんの協力あっての事かな?
ちなみにそのヴォルターさんは、今ヴォルグラウととても仲良さそうにじゃれ合っていたりする……レオやフェンリル達は恐れていたのに、ウルフは平気なようだ……戦闘力が関係しているのかな?
ヴォルグラウの方も、ヴォルターさんに懐いている様子……名前が近いからとかもあるのかもしれないな……ヴォルコンビという呼び名が浮かんだけど、今はどうでもいい事か。
「ほっほっほ。タクミ様が来られてから、シルバーフェンリルやギフト、そしてお嬢様方の従魔契約など、調べて蓄えるべき知識が増えましたからな。本邸にある書物の写しや、各所から取り寄せるよう手配しております。――ではクレアお嬢様、タクミ様、一旦失礼します」
「セバスチャン、楽しそうだったわね。――ではタクミさん、私は準備をして参ります」
「うん。こっちもレオやヴォルグラウと話したら、準備してラクトスに行けるようにするよ」
笑いながら屋敷内に入って行くセバスチャンさん、クレアもそちらに付いて行った。
俺が来るまでは、必要なかった知識が必要とされる事が多いからなんだろう。
セバスチャンさんも十分本の虫だし、その知識のおかげで色々助かっているのは間違いないから、趣味交じりだとしてもありがたかった――。
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