第1170話 従魔契約を強制的に解除する方法を聞きました



「それでアルフレットさん、魔力による契約破棄の方法はどうですか?」

「内容としては、昨日話した事と変わりありませんでした。過剰な魔力を従魔契約をしている者に当てると、魔力的な繋がりが解けると」

「魔力的な繋がり……」


 魔法や魔力に関してはよくわからない事が多いが、話しを聞く限り魔力と密接に関わりがあるんだな。

 まぁ、契約したら言葉がわかって意思疎通が簡単になる、なんて事魔力でも関わっていなけりゃ、よくわからない現象ではあるか。


「ただその過剰な魔力、というのが曲者でして」

「というと?」

「契約している者同士の魔力を合わせ、さらにその数倍の魔力が必要らしいのです。そして、契約解除のために当てる魔力は、単一の魔力である必要があると……つまり、誰か一人の魔力でしか成し得ないようです」

「誰か一人……複数で協力してはいけないって事ですね」


 人間と魔物の魔力を合わせてさらに数倍……魔力の大きさには個人差があっても、さすがに一人でそれだけの魔力をというのは無茶だ。

 だから、これまで一般的な方法ではなかったんだろうけど。

 でもまぁ、魔力に関してはレオがいれば大丈夫そうだ。

 ユートさんが言うには、シルバーフェンリルはギフトなんてなくても文字通り無限の魔力を持っているらしいから、足りないなんて事はないだろう。


 本当に無限かどうかは……わからないが。

 桁が違うから、そんな風に感じるのかもしれないからな。


「はい。そして、魔力は魔法を使う時に呪文などにより変換されますが、契約者に当てる魔力は純粋な魔力である必要があると。つまり、呪文を介さず体内にある魔力を使うのです。人間は魔力が変換される事で、様々な事象を魔法として具現化しますが……」

「純粋な魔力を放出するのが、難しいって事ですか?」

「そうなります。おそらくやってできない事はないのでしょうが……放出できる魔力は体内の全魔力と比べると、極僅かと思われます」


 そんな条件で、人間が魔力を使って強制的に契約を解除させるのは、ほぼ不可能だな。

 それこそユートさんのように、ギフトを持っていないと……やっぱり、この方法を試した事がありそうなのって、ユートさんだろうな。


「それじゃ……まぁもしかしたらフェンリル達やラーレにもできるかもしれませんけど、やっぱりレオに頼むのが一番ですね」


 フェンリル達やラーレの魔力がどうというのはわからないけど、少なくとも俺達人間よりは多いと思われる……以前フェンがオークやトロルド達に放った魔法、とんでもない威力だったからな。

 まだ全力じゃなさそうだったし、川も凍らせていたから、魔力としては十分なんだろう。

 とはいえ、確実に事を成すのであればやっぱりレオに頼る方が良さそうだ。


「そうなります。フェンリル達やラーレの魔力については窺い知れませんが、レオ様に関しては疑いようがありません。可能だと思われます」

「わかりました、ありがとうございます。それじゃ、俺はレオ達に話をしてきます」

「はい。タクミ様の出発準備は、こちらで進めておきます」」


 少ない時間で調べてくれたアルフレットさんにお礼を言って、お互い頷き合い、それぞれレオ達の方と屋敷内へと別れる。

 待つだけだったティルラちゃんの目覚めよりも、自分が動けるというのはやっぱり悪くない。

 準備をしに行ったクレアもだけど、そわそわしていた先程までとは違って、頭の中が冷静になって行くのを感じた。

 考える事や動く事があった方が、落ち着く性格なのかもしれないな――。



「お待たせしました。タクミさん。レオ様やヴォルグラウは、どうしていますか?」


 レオ達と話し、契約の解除などの確認をして俺自身のラクトスへ行く準備を終わらせ、玄関ホールで待っていると階段を降りて来るクレア。

 俺の方が遅くなったと思っていたんだけど、クレアの方が時間がかかっていたようだ……まぁ、着替えたりしていたからだろうな。


「レオとヴォルグラウは、先に外で待っているよ。なんとなく、ヴォルグラウの元気がないからレオについてもらっているんだ」

「そうですか……やはり、契約の破棄というのが?」

「いや、それにはもう納得してもらっているんだけど……多分、デウルゴが怖いんだと思う」

「……あのような怪我をさせられたのですからね」


 ラクトスに行って、デウルゴに会うと言った時のヴォルグラウは、少しだけ体を震わせていた。

 もしかしたら、会うとまた攻撃されると考えたのかもしれない。

 まぁ、レオやフェンリル達と初めて会った時程怯えてはいないけど……自身も認めた従魔契約の相手に対して、怖がるというのはやりきれないな。

 クレアを見ると尻尾を振って嬉しそうにするシェリーを見ているから、尚更だ。


「クレアお嬢様、タクミ様、こちらも準備は整いました」


 クレアとヴォルグラウについて話していると、今度はセバスチャンさんが玄関から登場。

 こちらは、馬や護衛さんの準備をしていたからだろう。

 レオがいたとしても、やっぱり人間の護衛はクレアに必要だからな。

 アルフレットさんも外で待機してくれていると思う。


「おや、リーザ様はおられないのですか?」


 外にレオやヴォルグラウがいるのは確認しているだろうけど、俺の傍にもリーザがいない事に疑問を持ったらしいセバスチャンさん。

 大体いつもは、俺かレオがいる場所にいる事が多いから、今回も連れて行くと考えていたんだろう。


「リーザは今回、あまりデウルゴに合わせたくないなと思って。ヴォルグラウをあんな目に遭わせるくらいですから、もしかしたら獣人に対しても偏見を持っているかもしれません」

「そうですな……やる事はヴォルグラウとデウルゴの契約を解除させるですが、その時に向こうがどう反応するか、何を言うかわかりません」

「どんな人物なのかはわからないけれど、今の時点でいいイメージではないですから。リーザちゃんには屋敷で過ごしていてもらいましょう」

「うん、そうだね」


 デウルゴが、獣人に対してどういう考えを持っているかはわからないけど、聞く限りではいいイメージを持つ事のできない人物だ、リーザを見て何を言うかわからない。

 ……リーザが傷付くかもという配慮とは別に、何か言われた際に俺やレオが激昂する可能性も否定できない。

 あと、やっぱりリーザには聞かせたくない話をする事になりそうだからっていうのもある。

 リーザには、デリアさんやフェンリル達と一緒に、のんびり屋敷で過ごしていてもらった方がいいだろう――。


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