第1168話 可能性の高い原因を考えました



「まぁ、ギフトを持っているからというわけではないと思いますが……ティルラちゃん、昨日の事なんですけど声が聞こえるって言っていたんです」

「声が……ですか、タクミさん?」

「うん。突然聞こえ始めたのか、昨日からなのか……どんな声だったのかはわからない。けど、ティルラちゃん自身は嫌がっている風ではなかったから、嫌な声ではなかったんだと思う」


 どんな声だったのかは聞きそびれているけど、ティルラちゃん自身が怖がっている様子はなかったからな。


「そういえば、倒れる前も声がと言っていました」

「そうだね。そこから考えると、ティルラちゃん自身気付かないうちに、ギフトを使っていたんじゃないかな? 声が何かはわからないけど、その声を聞く事がギフトの能力だとしたら……」

「知らず知らずのうちにギフトを使用、そしてタクミ様の時と同じように、使い過ぎてしまって倒れてしまった……と?」

「はい。これもセバスチャンさんが言っていたように、単なる状況からの予想なので……本当に合っているかはわかりませんけど……」


 でも、多分そうなんじゃないかと思う。

 ギフトは子孫に受け継がれる可能性があり、その能力とほぼ同じものになる……らしいから。

 確かジョセフィーヌさんのギフトは、『疎通言詞』だったっけ。

 ユートさんから聞いた話では、知性を持つ相手なら誰とでも言葉を通じて意思の疎通ができるとか……言葉、つまり声にも繋がるわけだ。

 

「あ、そういえば……」

「タクミさん?」

「昨日レオを皆に紹介した時にティルラちゃんが前に出たら、皆静かに聞いていたなって……」

「そういえば、そうでしたね……それまで、レオ様を初めて見る人達は口々に何か言っているようでした。騒いでいた、という程ではありませんでしたけど」

「ふむ……確かに、あの時は少し不思議にも思いましたな」


 レオを見て、それなりにざわざわとしていた人達が、ティルラちゃんが前に出て話し始めた途端、静かになったんだ。

 クレアもあの後昼食中に不思議がっていたと思うけど、セバスチャンさんも同様に感じていたみたいだ。

 あの時は、クレアと俺はティルラちゃんの成長のように感じていたけど……もしかしたらあれも、ギフトの能力だったんじゃないか?

 ジョセフィーヌさんのギフト、『疎通言詞』の副効果には清聴というのがあったとユートさんから聞いた。


 清聴……つまり効果を発揮したギフト能力者の話を、静かに聞くってとこだろう。

 ユートさん曰く、興奮状態の相手にはあまり効果がないみたいだけど、あの時の状況はその清聴効果が表れていると考えたら、凄く納得できる気がする。


「何かしらの声が聞けて、人々に言葉を届ける……そういったギフトでしょうか。確か、文献のどこかにそのようなギフトの記述があったように思います」

「多分、そうなんじゃないかと」


 文献にあったのか、多分それジョセフィーヌさんのギフトに付いて記述されていたんだと思う。

 所持者が誰か、とかまではある程度隠されているから、セバスチャンさん達には初代当主様とは結び付かないんだろうけど。


「それじゃあ、本当にティルラにギフトが……?」

「わかりません。タクミ様の時もそうでしたが……はっきりとした能力があるかどうかは、調べてみないといけません」

「そうですね。俺の時と同じように、イザベルさんの所で調べてもらいましょう」


 ギフトがあるかどうか……俺もそうだったけど、本人に自覚がなければ調べてみるしかない。

 俺の時は、不思議な事が立て続けに起こり、魔法ではないのが確実だったから調べたわけだけど。

 ティルラちゃんにもしその可能性があるなら、ラクトスに行ってイザベルさんの店に行くだけだし、そこまで手間でもないからな。


「では、ティルラが目覚めたらイザベルの所へ……でも、ギフトが原因であれば、タクミさんの時と同じように、しばらくしたら目が覚めるのよね?」

「そうですな……ギフトであればですが、ティルラお嬢様は知らず知らずのうちに使っていたのでしょう。そうして、気付いたら意識を失う程に……」

「多分、俺の時より能力を使っていないと思うので、俺よりも早く目が覚めると思いますよ」


 確証はないけど、気休めでも早く目覚めると言っておく。

 クレアさんとセバスチャンさん、その他の客間にいる人達は、全員ホッと安心している様子だけど……俺だけはちょっと心配な事がある。

 ギフトの過剰使用は、ユートさん曰く命にもかかわって来るらしいから。

 倒れる前のティルラちゃんは、フェンリル達と話していたため、それなりに力を使ったんだろう。


 直前まで元気な様子だったし、ずっと話し込んでいたというわけでもないから、目が覚めるのは目が覚めるはずだ。

 けど、もしティルラちゃんが本当にジョセフィーヌさんと同じギフトを受け継いだのなら……意思疎通ができるのなら、どうやってギフトのオンとオフを切り替えるのだろう? という事だ。

 ラーレは従魔契約で元々話ができるから大丈夫だとしても、他のフェンリル達は……ティルラちゃんは皆の事が好きなのは見ていてわかる。

 そうすると、どうしても無意識にでも話をしようと考えるだろう。


 下手をすると、常にギフトがオンの状態で過剰使用で意識を失う事が多くなるし、場合によっては本当に命に関わる可能性だってある。

 ……調べてから次第だけど、ティルラちゃんとはギフトに付いて話す必要があるな。

 場合によっては、ジョセフィーヌさんの事も……まぁ、ギフトが本当に受け継がれているなら、初代当主様の事を話しても、エッケンハルトさんやユートさんは許してくれると思う。

 どこまで話すか、他の誰かにも話すかは、よく考える必要があるだろうけど。


「少し、安心したわ。ティルラがまだ目覚めていないのに、決めつけて判断するのは早計なのかもしれないけど」


 少しでも安心できる材料を得たからだろう、ライラさんが淹れてくれたままになっていたお茶を飲むクレア。

 すっかり冷めてしまったけど、お茶に意識が行くのは悪い事じゃない。

 ほんの少しだったとしても、余裕が出て来たって事だからな。


「状況から考えるに、タクミ様の時と同じと考えるしかありません。今は、ティルラお嬢様が無事に目覚めるのを、待ちましょう」

「そうですね。心配し過ぎてもいけませんし……」



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