第1167話 似たような状況があった事を思い出しました



「つまり、ティルラはただ寝ているだけ……という事なの?」

「今の状態を評すると、そうなります。ですが気になるのは、倒れた時の状況ですな」

「人が突然、あんな風に寝るって事はないと思います。少なくとも、通常では。それまでは特に元気がないようには見えませんでしたし……」


 部屋にティルラちゃんを連れて行く前に、簡単には説明しているけど……もう一度自分達も含めて確認のため、あの時の事を詳細にセバスチャンさんに伝える。

 裏庭では、特に顔色が悪いわけではなく、声が聞こえたとかで真剣な表情ではあったけど、いつもの健康なティルラちゃんそのものだった。

 それが突然、話している最中に目の焦点が合わなくなり、俺やクレアが声をかけても何も反応を示さず、倒れた……。


「何も異常がないのに、そのように倒れるというのは不自然です。何かそうなる理由があるとは思うのですが……」

「そうね……」


 急な意識の喪失……気絶させられるだけの衝撃を体に受けた、とかならまだしも当然それはない。

 毒とかならありそうか? と思ったけど、何かを口にしたわけでもなく、苦しんでいる様子もなかった……。

 そもそも、ティルラちゃんの他にも俺達やレオ、フェンリル達もいたんだから、毒や衝撃を与えるような事は絶対に不可能だ。

 病を判別した時のように、レオが匂いや気配で毒には気付くだろうし、あの状況でティルラちゃんにだけ気絶するような衝撃を与えるなんてできない。


「ふむ……一つだけ、気になる事があります」

「それはどんな事なの、セバスチャン?」


 病ではないと思われる、何か外的な要因でもない……となれば一体なんなのか。

 セバスチャンさんには何か思い当たる事があるのか? クレアも、前のめりになりながら訪ねた。


「あの時は確か……そうですな。クレアお嬢様、ライラさん。そしてタクミ様とレオ様、それからシェリーでしたか。あの時一緒にいたのは……」

「私?」

「私もですか?」

「俺も?」

「ワフゥ?」

「キャゥ?」


 記憶を探るように、顎に手を当てて視線を上に向けながら、それぞれを呼ぶセバスチャンさんに、呼ばれた俺達が首を傾げる。

 特に一緒にいて珍しいメンバーではないけど……リーザがいないな。

 大体リーザが来てからは、レオとのセットが多いんだけど、という事はリーザが来る前の事かな?


「あぁ、ゲルダさんもいましたな。まぁ、今はいないのでよろしいでしょう」


 ゲルダさんは、裏庭で従業員さん達と一緒にいるはずなので、ここにはいない。


「私はその時いませんでしたが……ちょうどこの客間でしたな。タクミ様が、以前シェリーを連れて森から戻ってきた際、ここで倒れたのは」

「え、あ、そう、ですね。確かあの時は、森から戻ってきてここでクレア達と話していた時に、倒れました。でも、それがどういう……?」

「いえ、タクミ様が倒れられた時の様子は後から聞きましたが、今回ティルラお嬢様が倒れられた時の様子と、似ているのではないかと」

「俺と……」


 あんまり思い出したい事ではないけど、あの時はギフトの過剰使用で倒れたんだったか。

 瀕死のシェリーを助けるために、ちょっと無理をして『雑草栽培』で薬草を作ったのが原因だった。


「……言われてみれば、あの時タクミさんが倒れた時と、今回のティルラは……」

「はい……両方近くで見ていましたが、確かに似ていますね」

「俺、あんな風に倒れたんだ……全く同じかはわからないけど」

「ワフ」


 ティルラちゃんが倒れた時の様子……俺が倒れた時は、自分だったから周りからどう見えているかわからないけど、話している途中でというのは確かに同じだ。

 クレアやライラさんだけでなく、レオも頷いているからそうなんだろう。


「んー?」


 リーザは首を傾げているけど、あの時はまだこの屋敷にいなかったからな。

 わからなくても仕方ない。


「これはあくまで予想、想像なのですが……もしかするとティルラお嬢様は、ギフトを所持しているのではないかと。ギフトを持っていて同じく倒れたタクミ様と似た状況だから、というただそれだけから考えた事ではありますが」

「ティルラが、ギフトを……?」

「ティルラお嬢様が……」


 セバスチャンの予想、それはティルラちゃんがギフトを持っているのではないか、という事。

 俺は、ユートさんからギフトを所持する人の条件とされる内容を聞いているから、セバスチャンさんよりも深く考えられる。

 確か、異世界から来た事がまずギフトを持っている条件だったはずだ。

 俺やユートさんのように、異世界から来た人間は必ずギフトを持っているという事だった。


 他の条件は、そのギフトを持っている人の子孫である事……つまり、同じく異世界から来てギフトを持っていた、公爵家の初代当主様であるジョセフィーヌさん。

 その直系の子孫であるティルラちゃんは、条件に合うわけだ。

 受け継がれたギフトは、生まれてすぐの事もあれば、成長してから発現してギフト能力に目覚めると様々だとか。

 直系と言えば、クレアやエッケンハルトさんもだけど……ユートさん曰く、どうやって子孫に受け継がれるのか、発現する方法などはわからないという事。

 これは、子孫でギフトに目覚めた人が発現させた状況が違い過ぎる事、重なる条件なんかがなかったかららしい。


 ともあれ、クレアやエッケンハルトさんにももしかしたら受け継がれていて、ギフトを発現させる何かがあるのかもしれないが、わからない以上今考える事じゃない。

 今はティルラちゃんの事だ。


「……もしかしたら、本当にギフトなのかもしれません」

「タクミ様?」

「いえ、確証はないんですけど」


 ユートさんの事、ギフトに関する内容ははっきり口留めはされていないけど、一部の人のみ知らされている事のためここでは話せない。

 けど、考えてみればその兆候というか、ティルラちゃんがギフトの能力を使っているのではないか? と怪しむ内容の出来事もあった。

 まぁギフトでは? と疑ってようやくそういえばと思うくらいだけど。


「ふむ、タクミ様は私が知る限りでは、国内にいる唯一のギフト所持者です。何か、感じる事があるのかもしれませんな」


 正確には、ユートさんもだけど……セバスチャンさんはそれを知らない。

 いや、もしかしたらわざわざ「私の知る限りでは」と言ったのは、ある程度察しているからかもしれないけど――。



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