第1143話 元気のないウルフを発見しました



 後でエルミーネさんの事をライラさんから聞いたんだけど、シェリーを発見した森探索で聞いたクレアと初代当主様、ジョセフィーヌさんが似ている事から端を発している使用人さん達の噂に、エルミーネさんが関わっていたらしい。


 それを森の探索を終えて戻って来てから、セバスチャンさんに聞いて反省。

 エルミーネさん自身も、クレアに対して期待を込めていただけで、悩ませる結果になるとは思っていなかったらしいんだけど……その事から、クレアの行動を止めるのではなく応援する立場になろうと決心したんだとか。

 俺とレオがいる事でこれまでよりも安全が保障され、森探索の後は危険な事を強行しなくなったクレアだけど、何かあった時に止める側の味方が減ったと、セバスチャンさんが溜め息を吐いていたらしい……。


「すみません、フィリップさん。よろしくお願いします」

「私もレオ様が気になさる事がなんなのか、知りたくはありますが……なに、セバスチャンさん達に伝えるだけですからなんて事はありません」


 合流が遅れるセバスチャンさん達の方には、フィリップさんが伝えに行くと指名。

 レオの昼食を買って来てもらう、に運び役の時もそうだったけど……やっぱりフィリップさんはこういう何かしらの働きをさせられる使命なのかもしれない。

 大袈裟だけど。


「では、行きましょう。レオ様も先に行って待っているようですから」

「そうだね」


 フィリップさんを見送って、念のためニコラさんを先頭に最後尾をヨハンナさんで固めて、横道に入る。

 クレアさんのドレスが汚れないか、心配する程の幅しかない道なので当然レオは通る事ができないため、回り道をして先に行ってもらっている。

 そちらには、リーザとライラさんも一緒だ。

 ニコラさん、俺、クレアとシェリー、エルミーネさん、ティルラちゃん、ヨハンナさんの順番で少しだけ進むと、奥の方からレオがの鳴き声が聞こえた。

 道そのものは、そんなに長い道ではなかったか……まぁ、大通り沿いの建物の間にある道だからな。


「ワウゥ……?」

「どうしたんだろうね、ママ?」

「弱っている、のとは少し違いますか……ですが、元気がない様子です」

「レオ……って、そのウルフは?」

「ウルフが、レオ様の気になるものだったのですかね?」


 狭い通路を通る中で、ドレスが擦れたりしたはずなのに全く汚れがないクレアはともかくとして……横道を抜けて行った先、大通り程じゃないけどそれなりに大きく、レオがいてもあまり邪魔にならない通りに出た先……。

 鼻先を一点に近付けて鳴いているレオと、首を傾げているリーザとライラさん。

 それぞれが注目している先には、レオに向かって頭を垂れているウルフが一体。

 ウルフと言えば、以前ラクトスにいる従魔として数体がレオに挨拶を……という場面があったけど、それとは少し違う様子でもある。


「ワフ! ワウ、ワウワウ」

「クゥーン……」

「レオに挨拶をってわけじゃないみたいだな。まぁ、頭を垂れているのはレオに怯えているからかもしれないけど」


 レオが問いかけるように鳴くと、震えながらか細い声で応えるウルフ。

 ライラさんが呟いていたように、確かに元気がないみたいだ。


「怯えるから、ちょっとレオは離れておこうな? うんうん、レオは怖くないんだけどなー、わかってる」

「ワゥ……」

「ママは優しいよねー」

「そうです、レオ様は優しくて強くて恰好良くて、それに可愛いんです!」


 このままだと、ウルフが怯えるだけで状況がわからないから、レオに言って少し離れてもらう。

 ちょっとしょんぼりしちゃったので、慰めるつもりで体をポンポンと軽く叩き、リーザとティルラちゃんが追従した。

 レオを慰めるのはいいけど、できればリーザは一緒にウルフの所にいて欲しいなぁ……通訳係をやらせてすまないけど。

 ウルフはレオを窺う様子を見せつつも、元気がないためか伏せの状態になった。


「リーザはこっちにな。――えーと、大丈夫か? 言葉はわかる……よな?」

「バウ」

「うん、わかる。だって」

「よしよし。んー、こんな所でどうしたんだ? 多分誰かの従魔なんだろうけど……」


 リーザを呼んでから、顔を上げるのも億劫そうな元気のないウルフに問いかける。

 人の言葉がわかるなら、リーザを介して会話ができるな。

 首輪らしき物、布を巻いているからおそらく誰かの従魔である事の証明なんだろう……誰の従魔でもないウルフが入り込んでいたら、もっと大きな騒ぎになっていただろうし。


「バウゥ……バウ」

「お腹が空いたって言っているよ。あと、喉も乾いたって」

「単純に水と食べ物が欲しいのか……でも、それにしては元気がないような?」


 伏せをしたまま視線だけをこちらを見るウルフは、動く気力さえほとんど失っているように見える。

 レオを前にした時は無理をしていたのかもしれないけど、ただお腹が空いたとかだけで、こんなに元気がない状態になるのはちょっとおかしい気がするな。

 いや、長い間食べたり飲んだりできなければ、動く事もできなくなってしまうだろうけど……。


「ライラさん、すみませんけどこれで何か食べ物と飲み物を……多分、肉類がいいと思います」

「畏まりました。直ちに行ってまいります」

「お願いします。――すぐに、食べる物や飲み物を持ってくるから、少しの間我慢しててくれな?」

「……バゥ」


 ライラさんに銀貨を渡して買いに行ってもらう……一緒にニコラさんも行ってくれた。

 とりあえず、食べれば少しは回復してくれるだろうか。

 もう少しだけ我慢してもらうように言うと、理解してくれているため、視線で頷いて小さく声を出した。


「ワフゥ、ワフワウ?」

「んー、確かにちょっと小さく見えるか? ウルフの子供……というより、痩せているのか」


 弱っているウルフに気遣ってか、離れた場所にいるレオが小声で鳴く。

 レオはウルフの体が小さい事を気にしているようで、言われて改めて見ると確かに以前見たウルフよりも小さい気がする。

 子供だとか、成長途中とかではなく痩せ細っているというのが正しそうだ。

 誰かの従魔だろうけど、ろくに食べさせてもらっていないのだろうか?


「スンスン……ワフ、ワウ!」

「え、血の匂い!?」

「クゥーン……」

「あぁ、ごめんな。驚かせちゃったか。――レオも教えてくれてありがとう、声を出す時はもう少し小さめに頼むな? 俺も大きな声を出しちゃったけど」

「ワウゥ」



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