第1130話 怪我の後遺症を治療しました



「では失礼します。大丈夫ですよ、すぐに終わりますから」

「は、はい……」

「こちらも。痛みとかはないはずですので、ご安心下さい。ただ、あまり動かないで下さい」

「わ、わかりました……」


 何が起こるのかわからず、ただただ言われるがままにされる二人。

 ガラグリオさんはともかく、リアネアさんの方は女性だから傷跡を人に見せるのが嫌なんだろう、キョロキョロと視線を動かして、恥ずかしそうにしている。

 傷跡を見た時は驚かせるはずの俺が驚いてしまったけど、動揺してちゃいけないな。

 俺と視線が合ったリアネアさんには、安心してもらうように微笑みかけて頷いておいた……俺の微笑みなんかで効果があったかはわからないけど。


 ……クレアの方が良かったかな?

 そうしているうちに、ジェーンさんとウィンフィールドさんが、二人の傷跡にロエもどきの露出したゼリー部分を触れさせる。

 さすがに傷跡の範囲が広いので、少しずつゆっくりとずらして全体を癒すように……。


「え……嘘……!」

「傷跡が!?」

「こ、これはロエなのですか、タクミ様」

「いえ、ロエではありませんよ、ペータさん。さっき言った『雑草栽培』というギフトで、俺が作った薬草です」


 ロエもどきで撫でた後には、傷跡が一切なく綺麗になっているのを見て、驚くガラグリオさんとリアネアさん。

 ペータさんには『雑草栽培』の事を教えていたけど、実際に見せるのは初めてだ。

 それでも、ロエの事は知っていたからそれを作ったんだと思っていたんだろうけど、二人の傷跡がなくなるのを見て驚いている様子。


「見るのは初めてですが、これがギフトの力。タクミ様の能力なのですね……」

「まぁ、そういう事です。今見せたロエに似た薬草は、偶然できた物ですけど」


 フェルの足を治そうと思っていなかったら、できなかった物だからな。

 ガラグリオさんやリアネアさんを見れば、どうにか出来ないかと考えていた可能性が高いし、もしかしたら同じように作っていたかもしれないけど……そもそもに、雇うと決めたかはわからない。

 二人が足や腕に怪我による後遺症を抱えているのは、リストにも書かれていた事で最初から知っていた。

 元々ガラグリオさん達はそれぞれ別の場所だけど、魔物に襲われたり、馬車での事故だったりで怪我を負ったらしいんだけど、農家だったらしい。


 ただ、足や腕がまともに動かないと畑仕事は難しい。

 村を追い出されたとか、そういった事ではないけどなんとか自分にできる仕事はないかと探していた時に、今回の薬草園での募集がきたと志望動機的な事が書かれる部分にあった。

 一応、それぞれ体を動かさなくてもできるちょっとした事はやっていたらしいけど、そちらは子供達の手習いのような事でもあるらしく、人手は足りていたから自分が邪魔なんじゃないか……というように感じていたとか。

 これは、リストを見た俺が気にするかもと、先回りしてセバスチャンさんが調べていてくれた事だけど。


 これまでできていた事ができなくなり、まだ若いはずの二人は周囲の人にとって重荷になっていないかと、不安になったりネガティブになってしまっていたんだろう。

 それならと、新しく募集している薬草園……そこでは薬の調合など、体を動かさなくてもできそうな仕事があるかもとダメもとで応募したんだとか。

 とはいえ調合も結構、肉体労働的な部分がないわけではないので悩んだんだけど、ちょうどフェルの後遺症を治したロエもどきが使えるんじゃないかと考えた。

 正確には、俺じゃなく実験したり効果の事を聞いた、ヴォルターさんの提案だ……。


 そこから急遽アルフレットさん達と相談し、デモンストレーションとして二人を雇い、承諾してくれるなら治った後は畑の方で雇うようにしようとなった。

 ウィンフィールドさんから、怪我の後遺症を治せば忠実な働き手が手に入る……なんてちょっと黒めの発言があったりもしたけど。

 結局、『雑草栽培』の事は皆に話さないといけないわけで、実験とかデモンストレーションで皆に見せるのは良い事とは言えないかもしれないけど、集まったこの場で試す事に。

 ――なに、これまで満足に動かなかった体が動くようになるんです。衆目の中でなんて事、本人達は気にしませんよ――なんて言ったのもウィンフィールドさん。


 結構、黒めの発言をするんだな……これも、元貴族家の血筋だからとか? 関係ないか。

 そういった役目は、なんとなくアロシャイスさんだと思っていたから、ちょっと驚いたりもしたのは余談だな。


「……綺麗になりましたね。どうですか、動かせますか?」

「こちらも終わりました。さぁ、立ってみて下さい」

「は、はい……あ、動く。動きます。痛みも何も感じません! それに、傷跡も綺麗になくなって……!」

「お、俺もだ……足が動く。痛みはもう感じなかったが、不自由なく立ち上がれる!」

「良かった、二人共怪我の後遺症はもうなさそうですね」


 実験は成功。

 二人共、動かせない、もしくは動かしづらかった足や腕が治って、嬉しそうだ。

 ロエもどきの事を知らない人達も、喜ぶ二人を見て感心……いや、感動している様子だ。

 デリアさんなんて涙ぐむリアネアさんに釣られてか、目に涙をいっぱいに溜めていた。


「ありが、とう……ありがとうございます! タ、タクミ様! このご恩は決してわずればぜん……!」

「なんとか働けると思ったら、まさか足が治るなんて……どう感謝すればいいのか!」

「ははは、まぁ二人共これで、気兼ねなく働けますね」


 簡単に動くようになった足を使い、俺の前に来て膝まづくガラグリオさんとリアネアさん。

 そこまでしなくても……と俺は思ってしまうけど、これまでどうしようもなかった体が動くようになったんだから、それくらいするものなんだろう。

 特に女性のリアネアさんは、体にあった痛々しい傷跡がなくなったのもあってか、涙だけでなく鼻水まで……傷跡がなくなっても女性としてちょっと、な事になっているが、これくらいは仕方ないか。

 それだけ、喜んでいるって事だろうし。


 それに、さすがにここで気にしないでなんて言えないし、上に立つ事になって皆の目があるので一応それなりの態度にしておく。

 ……表情は苦笑が漏れてしまっていたかもしれないけど――。



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