第1131話 無理をしないようお願いしました



「そうだ、ガラグリオさん、リアネアさん。二人共、調合の方で雇うようにしていましたけど……体が治ったなら、畑の方でも構いませんか?」

「もちろんです! タクミ様のお役に立てるのであればこのガラグリオ、どんな仕事でも体が動く限り働かせてもらいます!」

「わだじもでず……わだじも、よろごんではだらがぜで……」

「リアネアさんは、とりあえず泣き止んで下さい……ははは」


 何はともあれ、これで無事に畑で働く人員を二人確保……大丈夫だと見越していたから、入ってきた時に座る場所はミリナちゃんのいる、調合係の方にしていたけど、畑の方で考えていたんだけど。

 ただまぁ、ガラグリオさんが言うように体が動く限り働かせるとか、そんなつもりはない。

 恩を売って無理矢理働かせよう、なんて事は一切考えていないので、本人達には他の人と同じく無理をしないように働いて欲しい。


「さて、少し落ち着きましたか……んんっ! 今見せたように、『雑草栽培』というギフトのおかげで、苦もなく薬草を作り出す事ができます。詳細はまたになりますが、これで品質や量には心配がない事がわかったと思います」


 リアネアさんが落ち着き、元の椅子に戻って座り直したのを確認し、咳払いをして皆に話し掛ける。

 この場では『雑草栽培』を使ってどういう風に、という説明は長くなるので割愛……それはまた今度だ。

 とにかく、薬草を作るうえでの心配事はほぼなくなっただろうと思う。


「……確かに、あれ程簡単に薬草を作り出せるんであれば。先程の物以外にも?」

「はい。まぁ多少制限みたいな事があって、作れない物もあるんですが……大体の薬草なら作れます」

「ですがそれならば、私達は必要ないのではないでしょうか? タクミ様一人で、薬草を作ってしまわれるわけですし……」

「確かにそう考えられますね。けど、それにも限界があるんです。そちらもまたになりますけど……俺一人で大量に、そして無限に薬草が作れるというわけではないんです」


 使い過ぎると倒れるとか、『雑草栽培』で作っておいた薬草を増やすとかだけど、それには俺一人だけではとてもじゃないけど手が回らない。

 こちらも詳細は後で、といった内容に含まれるのでとりあえず濁しておく。

 それぞれ、考えたうえで質問されるのに答えていく……質疑応答が始まってしまったけど、皆クレアの事やこれまでの緊張した空気は忘れているようだ。

 リーザで和んで、『雑草栽培』を見ての驚きで色々吹き飛んでしまったのかもな。


 クレアやセバスチャンさんは、苦笑して俺や皆の事を見ていたけど。

 ともあれ、『雑草栽培』を見た事でギフトを持っている事は信用してもらえたようだな。

 ある程度の事は伝えたし、お互いの紹介や顔見せも終わった。

 ただ最後に一つだけ、俺個人として皆に伝えておきたい事がある。


「えぇと、皆さん。やる気になってくれているようで安心しました」

「公爵様方と関りがあり、あんなすごい物を見させられたら当然ですよ、タクミ様」

「ははは、そうかもしれませんねペータさん。ただ一つだけ、これだけはお願いします」

「「「「?」」」」


 俺の言葉にペータさんが応え、皆が頷く……ジェーンさん達使用人の人達も同様だ。

 アルフレットさんとライラさんは、横にいるので見えなかったけど、多分こちらも頷いてそう。


「決して、無理をして働かないで下さい。給金に関しては、伝えてある労働日数に対して多くしてありますが、それは先程のギフトを含めた守秘義務などがあっての事です。体調が悪いなどの事があれば、すぐに休む事。無理をして働く事を、俺は望みません。特に……ガラグリオさんと、リアネアさんは気を付けて下さいね?」

「は、はい……!」

「わ、わかりまし……た?」


 改まって何を? という雰囲気になった皆に、これだけは絶対大事な事として伝える。

 ガラグリオさんとリアネアさんを名指ししてしまったけど、なんというか……後遺症を治してからずっと、キラキラした目で見られていて、無茶な事をしそう予感があったからな。

 以前日本で働き詰めだった俺だから、自分も含めて皆に無理をして欲しくはない。

 仕事をするために仕事をし、精神的にも肉体的にも追い詰められる、誰かを追い詰めたりなんかはしたくない。


 幸い、ギフトのおかげで余裕はあるし、クレア達公爵家の人達にも協力してもらえるおかげで、切羽詰まったような状況にはならないだろう。

 いつでも、とまではいわないけど疲れたら休める環境を整られるわけで、無理をして働き続ける事はないようにしたい。

 正直なところ、倒れる程無理に働く過酷な労働環境で働かせるのは、俺にできそうにないし、そうなると俺自身も無理してそうだってのもある。

 目標は、皆でお茶を飲みながらのんびりしつつ、薬草の数を増やして広く行き渡らせ、困っている人を助ける……だ!


 あくまで俺だけの希望で、多くを望み過ぎなのかもしれないとは思いつつ、レオやリーザ、それからクレア達とゆっくり過ごしたい……今は、ライラさんやアルフレットさんとか、使用人さん達も含まれるけど。

 まぁ、ここで言わなくても使用人さん達が見てくれているだろうし、俺もちゃんと見るつもりだからよっぽどの事はないと思う。

 でもなんとなく、決まり事ではないけどちゃんと言っておかないといけないかなと……所信表明というか、言葉にするって大事だ。


「身命を賭して働けとか、言われると思ったんじゃがのう」

「タクミ様はそんな事言いませんよ、ペータお爺ちゃん。お優しい人ですから」

「まぁなぁ……確かに、村に来た時も護衛さん達を連れていながら、何か命令するような事はなかったしな」


 言いたい事を言って、一旦解散。

 一応、軽くヴォルターさんは薬草園ではないけどランジ村にいるからと伝え、カナートさんはクレアや俺に改めて挨拶もした。

 ブレイユ村組は、リラックスした様子で話しながら退場……その他の皆は、入って来る時以上にガチガチに緊張した様子で、部屋を出て行く。

 この後は、しばらく休憩をした後レオとの対面だからな。


 それを伝えると、「話に聞く伝説のシルバーフェンリル……」なんて、一部を除いて皆に再び緊張が沸き上がっていたようだ――。



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