第1129話 『雑草栽培』を見せる事にしました



「ほ、本当にギフトをお持ちなのでしょうか?」

「はい。そうですね……ただ持っていると言うだけだと、本当かどうかわかりませんし、どういう能力かもわかりづらいでしょう」


 クレアとかが関わっている以上、ほぼ嘘なんて事はないんだけど、それでもギフトがなんなのかある程度知っている人からすれば、すぐには信じがたいようだ。

 このあたりは、アルフレットさん達が屋敷に来た時の反応もあり、ある程度予想していた事でもある。

 なので、実践して見せるのが一番手っ取り早いんだけど……。


「えっと、ガラグリオさんとリアネアさん」

「は、はい!」

「わ、私ですか!?」

「はい。お二人共すみませんが、前に出て来てもらえますか? ジェーンさん、ウィンフィールドさん」

「「畏まりました」」


 畑仕事に従事する人達が並ぶ場所に、他の人達と一緒に座っていた二人を指名。

 ジェーンさんとウィンフィールドさんに手伝ってもらって、支えられながら前に出てもらう。


「あ、足が……?」


 前に出てくるとき、支えられながらも少し動きがぎこちない事で、他の皆も二人の事に気付いたみたいだ。

 入場の時や、立ったり座ったりするときにもたついていた二人。

 ガラグリオさんという男性は、左足がほとんど動いていないようで真っ直ぐ伸びたままになっており、歩く際には引きずっている。

 リアネアさんという女性の方は、ガラグリオさん程ではないけど右足が少し動かしづらそうで、右腕を全く動かしていない。


 実は応募者のリストの中にいた二人で、最初から注目していたんだ。

 だから名前も覚えていたんだけど、それはともかく……二人共、馬車での事故や魔物に襲われて、体の一部が不自由になったらしい。

 その事は書類に書かれていて、そういった人が十分に働けるかどうかという可能性を考えて、相談した人は難色を示していた。

 けど、そういった後遺症が残ってしまった怪我に対し、治した経験があったので採用する事を決めた。


「アルフレットさん」

「はい。こちらになります」

「……え、土の入った器?」

「一体何が……?」


 アルフレットさんに言って植木鉢を用意してもらい、前に出てきた二人の近くに置いてもらう。

 突然土が盛られた器……植木鉢が出て来て、二人だけでなく多くの人が困惑している様子だった。

 やろうとしている事は簡単、実際にフェルの足を治した時のロエを『雑草栽培』で作り出し、二人の怪我を後遺症と一緒に治すだけの事だ。

 さすがに、『雑草栽培』を使えばどこでも植物を作れるとはいえ、建物の床を使うのは気が引けたので植木鉢を用意してもらう事になった。


 ……つまり、二人には悪いけどこれから俺のギフトを皆に見せるための、パフォーマンスとして利用させてもらうって事だな。

 もちろん治った後も、薬草園で働きたいのであればそのまま雇うつもりだけど。

 ちなみに、ロエと同じ物なのかという疑問だが、実際にセバスチャンさんと相談しながら試したところ、別物と判明した。

 ロエは致命傷以外の傷を治す効果があるけど、怪我が自然治癒した後に残ってしまった後遺症には効果がないと、書物の記述にあったらしい。


 逆に、俺が作り出したロエ……ロエもどきは、今現在血が流れるような怪我には一切効果がなく、後遺症や残った傷跡を消す効果があるというのが、わかっている。

 ロエもどきは書物などに記述が一切なく、ある程度試してわかった効果で、つまりは『雑草栽培』で新しく作り出した物のようだ。

 鍛錬していた時にできた擦り傷に当てたら、ただ沁みるだけだったからなぁ……あの時は痛かった。

 まぁおかげでロエもどきには傷を塞ぐ効果はなくて、シェリーを助けた時の物とは違うとわかったんだけど。


「では、ちょっと見ていて下さいね。あまり驚かない……は無理かもしれませんけど」


 皆に一声かけて、ちょっとだけ集中……ミリナちゃんとデリアさんが、凄い期待した目で見ているのがわかる。

 二人共、『雑草栽培』の事を知っているからだろうな。

 とにかくロエではなく、後遺症とかを治す薬草と考えて植木鉢に手を触れさせる。


「っ!!」

「なっ!」


 植木鉢の土からロエもどきが顔を出し、見る間に伸びて形作って行く。

 初めて『雑草栽培』を見た人達は、前に出てきた二人を含めて驚きで目を見開いていた。

 ミリナちゃんとデリアさんが何故か、得意気な顔をしていたのはなんでだろうとは思うけど、まぁ気にしないでおこう。

 というか、ミリナちゃんは屋敷で俺が『雑草栽培』を使うところをよく見ているはずなのに。


「よしっと。アルフレットさん」

「はい」


 二つのロエもどきが完成したのを確認し、アルフレットさんに渡すとすぐに引き抜いて、ナイフのようなもので皮を剥ぐ。

 内部のゼリーのようになった部分を露出させ、椅子に座らされていたガラグリオさんとリアネアさんを補助している、ジェーンさんとウィンフィールドさんに渡す。


「動かしづらいのは、右腕と右足ですね?」

「は? えっと……はい」

「貴方は左足ですね。失礼します」

「あ、は……?」


 驚きのまま固まっているリアネアさんにジェーンさんが、ガラグリオさんにはウィンフィールドさんが声を掛ける。

 さすがに服を全部脱がせるわけにはいかないので、怪我の後遺症が残っているらしき箇所を捲った。


「……っ」


 あらわになる傷跡を見て、俺も他の人達と同じく絶句。

 裂傷の跡というか、二人共はっきりとした傷跡が残っており、こちらでも様子を見守っていた人達が息を飲むのがわかる。

 リアネアさんは右肘から手首にかけてと、右足のふくらはぎの部分にギザギザの傷跡があった……多分刃物ではなく、中途半端に鋭い物で斬ってしまったんだろう。

 傷口自体は薄皮で塞がれているけど、筋肉にまで達していそうなくらいその部分だけ削ぎ落されているような感じだから、痛みも伴ってほとんど動かせないのか。


 ガラグリオさんの方は、左足の太ももの表から斜めにふくらはぎの後ろ、アキレス腱まで細い傷跡が残っているのがわかる。

 こちらは多分何か鋭い物に斬り裂かれたんだろう……腱にまで達しているようだし、それなりに深そうだから左足がそもそもに動かせないのか。

 なんにせよ、二人共痛々しい傷跡がはっきり残っていた――。



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