第1122話 顔合わせ前にニックの事を相談しました



 変な雰囲気……というより、俺とクレアがひたすら恥ずかしがる馬車内の空気に耐え、ラクトスに到着。


「それじゃクレア、また後で」

「はい。先に行っていますね」


 馬車などを預ける広場で、クレア達とは一旦別れる。

 フェンリル達は馬と一緒に待機だけど、俺とレオとリーザ、それからティルラちゃんはカレスさんの店に、そしてクレアと使用人さん達は、場を用意するため先に役所へ向かう予定になっていた。

 カレスの店に行くのは、ニックと会うためだな……給金の相談もしなきゃいけないし、一応連れて行かないといけない。

 役所の方では、ラクトスの代表のソルダンさん主導で準備が進められているらしいし、クレアが行く必要はないんだけど、さすがに着飾っているクレアを連れ回すわけにはいかない。


 ティルラちゃんは後々挨拶をする予定ではあるけど、役所内に入れないレオと一緒にカレスさんの店でお留守番だ。

 全員の顔合わせや話が済んだら、場所を移してレオやティルラちゃんとも挨拶をする事になっている。

 さすがに、ラーレは驚かれそうだし直接薬草畑には関係ないので、屋敷で留守番してもらっているけども……フェンリル達との面通しに関しては、レオを見た時の反応次第ってところだな。

 使用人さん達も、アルフレットさんとライラさんだけが俺と一緒に来て、他の人はクレアと役所へ、一応護衛としてニコラさんも一緒だ。


「失礼します。あぁいたいた……カレスさん」

「これはこれはタクミ様。ようこそおいで下さいました。ご用件は伺っております。――おーい、ニックを呼んで来てくれ!」

「畏まりました!」


 レオ達を外で待たせ、アルフレットさんと一緒にカレスさんの店に入る。

 迎えてくれたカレスさんには話が通っているので、すぐにニックを呼ぶよう他の店員さんに声をかけてくれた。

 ニックの給金についてとか、ランジ村での薬草畑の事とか、事前に連絡はしてある。


「カレスさん、こちら新しく雇った執事長のアルフレットさんです」

「執事長ですか、成る程成る程……タクミ様との繋がりが増える程、会う機会も増えるでしょうな。私はカレスと申します。公爵様やクレアお嬢様より、ラクトスでの店全般を任されております」

「アルフレットと申します。カレス殿のお噂はかねがね伺っております……相当なやり手と認識しております」

「いえいえ、それ程でもありませんよ。私はタクミ様とも繋がりができ、大変運が良いだけの事です」


 ニックが来るまでの間、カレスさんに初対面のアルフレットさんを紹介。

 執事長だから、この先も薬草を卸す相手としてこれからも連絡を取り合ったりするだろうからな。

 アルフレットさんの方は、カレスさんの事を知っていたようだ……公爵家の運営するお店の店主だから、当然か。


 本邸から離れた街の店を任せられているんだ、エッケンハルトさんから信頼もされているだろうし、アルフレットさんが言ったようなやり手というのもわかる。

 俺が卸している薬草も、順調に売り続けているようだし、クレアの相談にも乗っているくらいだからな。


「アニキ!」

「あぁニック」


 奥からやってきたニックの声に答え、こちらにもアルフレットさんを紹介。

 使用人を雇う事から、俺が貴族になったかのように接し始めるニックに苦笑しつつ、これまで通りでいいと話て本題。


「ランジ村との往復を考えると、少し日数が必要ですね」

「そうですね……」


 まずはニックが今屋敷に薬草を取りに来るのと同じく、ランジ村とラクトスを往復して運ぶかどうかの相談。

 ニックはやりたがったんだけど、カレスさんが少し難色を示すような反応……理由としては街と村を往復していると、店員としての働きが期待できないからとの事だ。

 ラクトスとランジ村は、馬で移動して大体二日から三日かかる。

 一日は休むとして多く見ても七日……ラクトスに戻ってさらに一日休むとすれば、翌日にはまたランジ村に向かわなければいけなくなってしまう。


 となると、店員としてカレスさんの店で継続して働くのは、ちょっとどころではなく難しいだろう。

 店員としてのニックは、それなりにちゃんとして来ているようで、わざわざニックにあれこれ聞くお客さんもいるらしい……ちょっと意外、と思うのは頑張っているニックには失礼かな。

 あと、スラムにいる人達からの相談窓口のようになっている部分もあるらしく、そういった意味でニックが薬草の運搬専属にするのは厳しいとか。


「それなら、多分なんとかなります。まぁ、ニック次第ではありますけど……ニック、レオはもう怖くないな?」

「へい! あ、いや……不味い事やアニキに迷惑を掛けたら、踏みつぶされそうではありやすがね。でも、怖くて近寄れないなんて事はありやせん」

「それなら、なんとかなるかな」

「ほぉ、どんな方法があるのですか?」


 ニックが薬草の運搬専属にならない方法……まず第一に、運ぶ薬草の量を増やす。

 これは、ラクトスに持ち帰ってもすぐに売り切れず、ランジ村に再び来るまでの日数を増やすためだな。

 さらに移動は、馬ではなくフェンリルに乗ってもらう事で、そうすれば往復二日で行き来ができるから、様々な余裕ができるようになるはずだ。

 ニックがやりたがらなかったり、フェンリルに乗るのを忌避するようだった別だけど、レオが大丈夫ならなんとかなるだろう。


「フェンリルを……成る程。セバスチャンさんから聞き及んでおります。フェンリルの協力のもと、人や物を運搬する方法を」

「駅馬ですね。まぁ、まだまだ実施段階ではないんですけど……街道の整備も終わっていないようですし。ともあれ、ニックが乗れるのならですけど、試す意味もあります」


 駅馬でフェンリル達に乗れるようになる前に、人を乗せて移動ができる事の証明にもなる。

 それに、フェンリル達にとってもいきなり始まるよりは、ニックを乗せて定期的に動いて試しておいた方がいいだろう……もちろん、ニックを乗せるフェンリルは毎回変わる事になるだろうけども。


「それならば、少し調整をすればやれそうですな」

「はい。――どうだニック?」

「フェンリルって言うと、レオ様みたいのに乗るって事ですよね? ちょっと気後れというか、不安にはなりやすが……アニキの期待に応えられるよう、やってみせますぜ!」


 カレスさんが頷き、ニック次第でランジ村からの薬草運搬も担ってもらう方向になった。

 本人はやる気十分だろうから、ほぼ決定だな。

 あ、そうだ、これも伝えておかないと――。



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