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第1123話 交通費も支給する事にしました
第1123話 交通費も支給する事にしました
「張り切るのはいいけど、無理はするなよ? あ、それと……移動距離も長くなるし、ニックも大変になるだろうから、給金も上げるからな」
「へ? 今でも十分過ぎる程貰っているんですが……いいんですかい!?」
「もちろんだ。やる事が増えるし忙しくなるのに、今と同じ給金なんて事はないぞ。まぁ、どれくらいかは後でになるけどな」
現状は、店員も兼任しているからから、カレスさんとの折半に近い感じになっている。
これはニックがある程度、店員としての接客を覚えてお店の役に立つようになってきた際に、カレスさんから提案されて承諾した事だ。
さすがに、俺が全部給金を払っているのに店員として扱い続けるのは……とカレスさんが言っていた。
最初に俺から押し付けられた時はどうなる事かと思っていたけど、意外にもニックがちゃんと働けていたのが一番の理由だな。
ただ、薬草運搬で忙しくなるので俺からの給金は上げるのが当然だし、働く比率が変わるので今以上に俺が多めに出すつもりではある。
「あぁそうだ。移動する際にも費用が掛かるだろうから、そこは前もって言ってもらうか後から言えば、だすからな」
「え、そんな部分までいいんですかい?」
「これまでは屋敷との往復だったのが、数日がかりになるからな」
食費とかもかかるだろうし……ランジ村では、建てた家に泊まってもらう事になるだろうけど、それ以外でもお金がかかるなら、俺が出そうと思う……交通費支給みたいなものだな。
まぁ、この世界では基本的にそういったものは払われないらしいけど。
その分、長距離を移動する取引には、色々と上乗せされたりするらしい。
「では、そうですな……給金の金額次第ではありますが、このくらいでどうでしょうか?」
カレスさんから、ニックの給金を支払う割合を提示される。
俺の方が少し多いと最初から提案されたけど、そう言いだすだろうと考えての配慮だろう。
だけど……。
「ここで店員をする日数が減るのでもう少しこう……」
「タクミ様の負担にならなければ、それでよろしいでしょう」
「はい、よろしくお願いします」
もう少し俺の負担を増やして……大体七対三の割合に近くしておいた。
俺が雇っているのもあるし、フェンリルに乗っての移動であってもカレスさんの店で働く機会が減るわけだからな。
それに、平均より高い給金だと考えれば、俺が言いだした事だし負担を増やすのも当然だろう。
「……目の前で、自分の給金が決まって行くのは複雑な気分でさぁ」
キースさんも、使用人さん達の給金の話をする時微妙そうだったけど、ニックも同じようだ。
まだ詳しい金額は決まっていないけど、確かに自分の評価とも言える給金の額を目の前で話されたら、落ち着かなくなる気持ちもわかるか。
まぁ、我慢してもらおう。
「細かい金額に関しては、こちらで相談してお伝えしますね」
「はい、畏まりました」
キースさんに言って、どれくらいの給金がいいか決めてもらう事にしよう。
割合に関してもその時はっきり決まるかな……多分、キースさんがカレスさんと直接話した方が早いだろうから、そちらは任せる方が良さそうだ。
俺は大まかに相談して、後で決定した事というかそれでいいかの確認をして許可をする、って方が滞りなく話が進むだろうと思う。
「それじゃ、ニックはこの後俺と一緒に」
「え、アニキと一緒にどこか行くんですかい?」
「あぁ。この後、ランジ村で雇う人達と顔合わせなんだ。ニックはラクトスにいるままだけど、顔くらいはお互い知っておいた方がいいだろう? アルフレットさん以外にも、雇う使用人も揃っているからな」
人相の悪いニックが、ランジ村に来ると皆が慣れるまで怪しまれる……というのは言い過ぎかもしれないが、お互い関係した仕事をするわけだし、挨拶をしておいた方がいいだろう。
「あと……スラムに関してだが、最近はどんな様子だ?」
「やっぱり、働きたいって言っている奴が多いですね。……言いにくいんですが、以前公爵のお嬢様が乗り込んできたでしょ?」
「乗り込んだというか……まぁ、傍から見たら同じか」
最近のスラムの事をニックに聞くと、状況としては以前とそう変わらないらしい。
ただ、何やら声を潜めてティルラちゃんがラーレに乗って、スラムに行った事を話し始める。
「それ以来、怯えているのもいるみたいで、公爵家に関わる仕事を避けるのもいるみたいです」
「って事は、街道整備の方には?」
「かなり減ったらしいですね。まぁ、悪さをする奴が減ったとも聞きますので、いい事なんでしょうけど」
「ふむ……」
悪さをするのが減ったというのは、確かにいい事だと思うけど……働く意欲がないというより、公爵家へ関わりたくないと考えているようで、あまり良いとは言えないかもしれないな。
もしティルラちゃんが、スラムに対してアクションを起こすにしても、今のままだと賛同する人が少なかったり、スラムの方で何かの反発が起こる可能性が考えられる。
まぁ、反発というのは大袈裟だけど。
「ニックの方から、公爵家は悪い事をしなければ、何もしない……というか、力で排除しようとかは考えていない。と伝えておいてくれるか?」
「へい、了解しやした! 全員が信じるかどうかはわかりやせんが、アニキの力になれるのなら!」
俺から頼んだからだろうか、嬉しそうに頷くニック。
スラムにいる人との窓口みたいになっているらしいから、こういう事はニックに頼むのが一番だろう。
以前であった、スラムを調べている密偵さんと協力して……と言いたいところだけど、あちらはエッケンハルトさんが手配した人だから、明かすのはクレア達に許可を取ってからだ。
「……俺と言うより、ティルラちゃんのなんだが。あ、そうだ。スラムに関してはティルラちゃん……公爵家の二番目のお嬢様、まだ子供だけどその子がこれから何かするかもしれないから、よろしくな」
「ティルラ……そういえば、アニキの所へ行った時に見かけた事がありやすね。大丈夫なんですかい?」
ニックの心配は、子供のティルラちゃんがスラムに関わって大丈夫か、とかそんな心配だろう。
「多分大丈夫だと思う。周りに優秀な執事さん達が付いているからな。それと、ラーレっていう鳥の魔物で……フェンリルにも劣らない従魔もいる事だし」
セバスチャンさんが、ティルラちゃんに危険な事をさせるわけがないから、なんとか補助してくれるはずだ。
それに、物理的にはラーレがいてくれれば、ティルラちゃんが危ない目に遭う事もないはずだ――。
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