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第1116話 おとなしく看病される事になりました
第1116話 おとなしく看病される事になりました
「ワフ、ワフ」
「ははは、そうだな。レオに頼める事があったら、支えてもらうよ。いつもありがとうな」
「ワフ~」
さすがにベッドに寝ている状態で、レオに支えてもらうわけにはいかないが……何かあればやっぱり一番頼りになる相棒だからな。
主張して鼻先を近付けて来るレオの、頬辺りをゆっくりと撫でておいた。
寝ていれば大丈夫そうだし、レオのお世話になる事はないだろうけどなぁ……。
「なんて思っていたんだけど、そうでもなかったか」
「ワッフワフ」
「ん、ありがとう」
水を飲んだせいというか、ただの生理現象……トイレに行きたくなってしまった際に、レオのお世話になる事になってしまった。
いや、本当は動けるし一人で大丈夫なんだけど、過剰に心配するクレアとライラさん、それとレオに負けてしまったからだな。
俺を支えてトイレまで連れて行こうとするクレアとライラさんに、さすがにちょっと恥ずかしさが勝ってしまったため、レオに運んでもらう事になった。
……それでも乗り降りの補助でクレアとライラさんが、トイレ前までついてきたんだけど、結局恥ずかしい事には変わらなかったな。
「あ、そうです。タクミさん、今日は何か食べたい物はありますか?」
「急にどうしたのクレア?」
「いえ、病の時は美味しい物、食べたい物を食べれば元気になれますから」
「確かに、美味しい物を食べたらそれだけで元気になりそうだ。でもうーん……食べたい物かぁ」
風邪の時は桃缶……というのはある意味定番ではあるけど、ここにはないからな。
食欲がなくなる程ではないし、いつも通りヘレーナさん達の作った美味しい料理でいいと思う。
……んだけど、何故かクレアが妙に期待している様子なので、何か食べたい物を言っておいた方が良さそうだ。
「それなら、昨日作ったうどんかな? 醤油が少ないから、あまり頻繁に食べられないと思っていたし」
「うどんですか、確かに昨日食べたのは美味しかったですし、あれなら弱っていても簡単に食べられそうですね!」
念のため胃に優しい物を、と考えるとすぐに浮かんだのはうどんだった。
体調を崩している時はやっぱり、消化にいい物を食べたいと思う物なのかもしれない。
「ではクレアお嬢様」
「えぇそうね、ライラ」
「ん?」
何やら俺が食べたい物を言った途端、ライラさんとクレアが声を掛け合い頷き合う。
「レオ様、ゲルダと交代しますのでしばらくタクミ様をお願いできますか?」
「ワフ!」
「ミリナちゃんや、リーザちゃんも呼んだ方が良さそうね。二人共心配しているだろうし、タクミさんの様子を見たいでしょうから」
「えっと……クレア、ライラさん?」
ライラさんが交代、という事は何処かに行くつもりなのはわかるんだけど……まぁ、ゲルダさんはドジさえしなければ大丈夫そうだし、交代する事に文句はない。
ミリナちゃんやリーザにも、一度大丈夫な様子を見せておきたいから、クレアが呼ぶのも問題ない。
けど、何で二人共どこかへ行く前提なんだろう? いや、疲れたとかなら自由に部屋を出て休んで欲しいけど、そんな感じじゃない。
「ではタクミ様、私とクレアお嬢様は夕食の準備を致しますので」
「ふふふ、さっきタクミさんがレオ様に乗って部屋を出た時、ライラと相談していたんです。頑張って、美味しいうどん……醤油ぶっかけでしたか。作って来ますね、タクミさん」
「あ、はい……よろしくお願いします?」
意気込みながらも、どこか楽しそうに部屋を出て行くライラさんとクレアに、言葉が疑問形になった。
二人が作ってくれるのかぁ……相談していたのは、俺がトイレに行っていた時だな。
あんまり長い時間ではなかったと思うけど、何かしたいという二人の気持ちなんだろうな。
「……レオ、ライラさんは大丈夫だと思うけど、クレアって料理できないって話じゃなかったっけ?」
「ワフゥ?」
以前、誰かから聞いたような気がするんだけど……まぁ、大丈夫だよな、ライラさんもいるし、厨房にはヘレーナさんを始めとした料理人さん達もいる。
俺の言葉に「はて?」と言うように鳴いて首を傾げたレオを見ながら、滅多な事にはならないだろうと信じて休む事にした。
なんとなく、少しでも体調を整えていた方が良さそうな気がしたからではないぞ、うん――。
少しして、部屋に入ってきたのはゲルダさんではなく、アルフレットさんとジェーンさんだった。
ゲルダさんは、ティルラちゃんとリーザの相手をして手が離せないかららしい。
最近きたアルフレットさん達よりも、リーザはゲルダさんの方が懐いているからな。
「タクミ様、お加減はいかがですか?」
「ありがとうございます。あまり変わりませんけど……無理をしていないせいか、少しずつ楽になっている感じはしますね」
ベッドに横になり、毛布を掛けて暖かくしているんだけど、少し汗ばんでいた額を水で濡らしタオルで拭いてくれたジェーンさんにお礼を言う。
こうしてお世話をされるのはなんだかむず痒い気もするけど、ライラさんと違って年が離れているせいもあるのか、素直に受けられる。
「それはようございます。はぁ……申し訳ありません、夫がバカな事をやろうとしてしまって……」
「いえ……まぁ、気にしていませんから」
溜め息を吐きながら、部屋の隅に視線をやるジェーンさんに、苦笑いで返す。
そこにはアルフレットさんがうずくまっていて、レオが鼻先でつんつんして慰めていた。
アルフレットさん、部屋に入って来た時にネーギを数本握りしめていた……それで何をするのかと思ったら、首に巻けば早く元気になるだろうと考えてだとか。
そういえば、初めて『雑草栽培』を意識して使う時、セバスチャンさんに借りてた本にネーギの薬効作用があったんだけど……それをそのまま信じていたらしい。
ネーギを片手に迫るアルフレットさんは、後からタオルなどを持ってきたジェーンさんに後ろから小突かれて、ようやく止まってくれた。
この世界ではロエやラモギのように、似ているだけで違う効果があるから、もしかして……なんて思いかけていた俺に、ジェーンさんがネーギに本で書かれているような効果はないと教えられる。
醤油ぶっかけの薬味に使った時、ネーギは日本の青ネギと見た目や味がほぼ変わらなかったから、あちらは同じ物なんだろう。
迷信というか、民間療法的な使い方が日本で言われていたのと同じなのは、もしかすると本を書いた人がユートさんのような、あちらの世界から来た人に聞いたとかかもしれない――。
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