第1114話 レオは以前から不調に気付く事があったようでした



「大丈夫、頭痛とかはないしちょっと熱があるくらいだから。レオも心配してくれたんだな、ありがとう」

「ワフワフ……」


 ライラさんに注意されて、一緒にしょんぼりするクレアとレオ。

 安心させるように笑いかけながら、鼻先を近付けてきたレオを撫でる。


「スンスン……ワゥ」

「なんだ、気付かなくてごめんって? まぁ俺自身気付かなかったんだから、レオが気付かないのも仕方ないさ」

「ワウゥ……」


 俺の顔付近でスンスンと匂いを嗅ぐレオは、不調に気付けなかった事を謝るように小さく鳴いた。

 自分でも寝不足なだけだと思っていたくらいだから、レオが気付かなくても仕方ないと思う。

 ……そういえば、犬とかって人間の雰囲気や声の調子だけでなく、匂いとかで感情や体調を察知する事があるって、どこかで聞いた事があるなぁ。


「クゥーン……ワウワフ、ワゥ」

「そうだったのか。そういえばそんな事もあったなぁ。あれはそういう事だったのか……」


 レオが心配そうにしながらも、何やら伝えている……どうやら、日本にいた時にもよく俺の不調に気付く事があったと言っているようだ。

 高校を卒業して、仕事を始めてから特に多かったけど、なんとなく疲れがたまっているとか、風邪気味だって時に限って、レオが妙に甘えてくるような寄り添うして来る事があった。

 マルチーズの時から、俺の体調に気付いて気を遣ってくれていたのか……。


「あ、もしかして……この世界に来る前の夜、妙に俺に甘えようとしたり、吠えたりしたのもそうなのか?」

「ワフ!」


 頷いて肯定するレオ。

 あの日は確かに、寄っているわけではないのに歩いていて安定しないというか、フラフラしてしまうくらいだったから……それに気付いて心配してくれていたのか。

 ソーセージをあげた時は、そちらに夢中になっていたけど。


「レオ様だけでなく、私も心配していますよ? タクミさん。けど、レオ様と何を話していたのですか?」

「ほんと、大丈夫だから。ほら……って、動くのは止めておきます、はい。レオが言っているのは……」


 ようやく知る事ができたあの日の真相、という程深刻な事ではないけど、もうずいぶんと昔の事のように思うこの世界へ来る直前の出来事を思い出して懐かしんでいると、クレアが拗ねた様子。

 口を少し尖らせているのが可愛い……という脱線は置いておいて、平気さをアピールしようとしたら、座っている俺を支えてくれているライラさんに睨まれてしまったので、止めておく。

 おとなしく、レオと話していた事だけを伝えよう。


「一番近くにいて、一番信頼し合っているからこそ、わかるのかもしれませんね。タクミさんも、レオ様と話せる事以外にも、すぐにどうしたいかに気付かれていますから」

「そう、なのかもしれませんね。こいつは、一番の相棒ですから」

「ワフ、ワフ~」


 クレアに微笑まれて、ちょっと面映ゆいけど……最初からレオの事を相棒と紹介していたのは、俺自身だからな。

 そこは素直に認めよう。

 俺の言葉にご満悦のレオ……さっきまでの心配していた様子は、なくなったようだ。


「クレアお嬢様、レオ様。そのあたりで。話続けているとタクミ様に負担をかけてしまいます。――さ、タクミ様横になって下さい」

「そうね、ごめんなさいタクミさん」

「ワウ」

「はい……クレアもレオも、気にしなくていいから。本当に大丈夫なんだけどなぁ……」


 ライラさんに再び注意され、話を中断するクレアにレオ。

 レオやクレアと話していても、特にしんどくなる様子はないから大丈夫だと思うんだけど、また叱られてはいけないのでおとなしく、促されるままベッドに寝転がった。


「いけませんよ、今はタクミ様のお体が一番大事なのです」

「ライラはすっかり、タクミさんの使用人ね」


 ライラさんの甲斐甲斐しい、というのだろうか? ともかく、真剣に俺を気遣う様子にクレアは苦笑しながら言う……多分だけど、場を和ませるための冗談も混じっているんだろう。。


「もちろんです。メイド長にも抜擢されましたし、今の私の主人はタクミ様ですから」

「タクミさんにライラを取られてしまったわ……」

「あはは……」


 主人と言われると、使用人に馴染みのない生活をしていた俺は別の想像をしてしまうが、確実に俺が考えている事とは違う。

 雇用主とか、そういう意味だろう。

 最終的に、クレアの苦笑が俺に向けられて、こちらからも苦笑を返すしかなかった……まぁ、クレアが使用人として雇っていたのを、俺が引き抜いた形だからなぁ……。


「失礼します。タクミ様、とりあえず屋敷に保管されている、熱病に効く薬草や薬を集めて参りました」

「セバスチャンさん」


 今度はセバスチャンさんが部屋に入ってきた。

 手には布に包まれた何かを、いくつか持っているのでそれが薬草や薬なんだろう、瓶に液体が入っているのも持っている。


「とりあえず、タクミ様の様子がどうなのかを診てみましょう」

「セバスチャン、ティルラやリーザちゃんは?」


 持ってきた物を机に起きつつ、寝転んでいる俺の顔を覗き込むセバスチャンさん。

 医者ではないけど、セバスチャンさんに診てもらえるなら安心かな。

 俺の瞼を開いて瞳を覗いたり、口を開いて喉の奥を覗いたりと、診察してくれるセバスチャンさんにクレアが聞く。


 そういえば、こういう時クレアやレオ並みに飛び込んできそうな、子供達がまだ来ていないな。

 屋敷内にいたクレア達にキースさんが報告したから、裏庭にいるリーザ達が知るのが遅れているのかな?


「ティルラお嬢様方は、ラーレやコッカー達、フェンリル達と一緒にいるよう言ってあります。病床のタクミ様のお部屋を、騒がしくしてはいけませんからな」

「病床って言うのは大袈裟だと思いますけどね?」


 ティルラちゃんやリーザは、ちゃんとおとなしくしてくれるとは思うけど、人数が増えればそれだけ騒がしくなるのは確かだから、セバスチャンさんが気を遣ってくれたんだろう。

 皆に心配をかけているなぁ……ただ、病床と言われたら本当に病人になった気分になってしまうから、止めて欲しい……いや、病人なのかもしれないけど。


「……ごめんなさい、私が既に騒がしくしてしまったわ」

「……ワゥ」


 部屋に飛び込んできたりと、既に騒がしくしてしまっていたクレアとレオは、ちょっと体を縮こまらせていた――。



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