第1108話 使用人さん達を選びました



「ジェーンさん、無理をしないよう頑張ってください……まぁ、色々と」

「まだまだ経験不足なので、ぜひご指導を」

「はい、畏まりました。タクミ様達に不自由をさせないよう、お世話させて頂きますね」

「よろしくお願いします」


 俺に続いて、ライラさんも一声かける。

 旦那さんの様子が原因だろうけど、楽しそうに笑うジェーンさん……結婚する前は、アルフレットさんと衝突する事が多かったようだけど、今はジェーンさんの方が強そうだ。


「最後に……」


 使用人さんの指名は、次で最後になる。

 それを聞いて、ジェーンさん達で和んだ雰囲気が一気に引き締まった。

 特に、まだ指名されていないアロシャイスさん、ジルベールさん、エミーリアさん、シャロルさん、チタさんの表情が強張っている。

 ヴォルターさんは……あっちは先に今後についての話をしているからか、平気そうだ。


「チタさん」

「は、はい!」

「チタさんはフェンリル達の事を主に頼もうかと思います。大丈夫ですか?」

「畏まりました! あんなに強くて可愛いフェンリル達のお世話ができるのなら、喜んで! あ、もちろんタクミ様達のお世話もですが……」

「あはは、はい、よろしくお願いしますね」

「はい!」


 最後に呼んだのはチタさん。

 ほぼ最初から、フェンリルに対して恐怖心よりも興味とか好奇心が勝っていて、仲良くしている様子だから、俺というよりもフェンリル達のお世話役になってもらおうと思っている。

 前に出たチタさんは、喜んでいる様子だ……ちょっとリアクションが過剰だったのか、すぐに恥ずかしそうにしていたけど。


「それじゃあチタさん、フェンリル達の事をよろしくお願いします。何かあれば俺かレオに。これまでほとんど不満とかを言われた事はないですけど、一緒にいたら何かしら出て来るかもしれませんから」


 フェンリル達とはこれからも直接話したりはするつもりだけど、レオがいるから俺よりもお世話をするチタさんが間に入ってくれた方が、フェンリル達側も要望を上げやすいだろう。

 全ての要望や我が儘をかなえてあげられるわけじゃないけど、不満は溜め込まない方がいいからな。


「不満なんてそんな……レオ様やフェンリル達のお世話ができるなら、不満なんて……」

「いえ、フェンリル達が何か不満を訴えたら、なんですけど……」

「はっ!? す、すみません。舞い上がってしまいました!」


 勘違いしたチタさんは、恥ずかしそうにしているけど……少しそそっかしいところがあるのかもしれない。

 まぁ、その辺りはゲルダさんで慣れているし、張り詰めているよりはいいだろう。

 フェンリル達も、離れた場所でこっちを見ながら尻尾を振っているようだし、仲良くやってくれると思う。


「さて……」

「あのう……タクミ様、少しよろしいでしょうか?」


 使用人候補の指名が終わったと、息を吐きながら締めようとした時、おずおずと手を挙げたシャロルさんに声をかけられた。


「どうしましたか、シャロルさん?」

「いえその、タクミ様の決定に不満を申し上げるわけではないのですが……私や残りの者達は、使用人として不十分だった、という事でしょうか?」


 選ばれなかったのだから、当然そういった考えも出て来るか。

 でも、俺はここにいる人達が使用人として未熟だとか、俺が雇うには不十分だとかは考えていない。

 状況や能力、人となりを考えて合いそうな人を選んだだけで、元々公爵家の使用人なんだから能力が足りないなんて事はない。


「そんな事はないですよ」

「では、どうして……」


 見れば、シャロルさんだけでなく、アロシャイスさん、ジルベールさん、エミーリアさんもこちらを窺っている様子。

 自分が選ばれなかった理由は、やっぱり気になるよなぁ。

 平気そうなのはヴォルターさんくらいだ。


「そうですね……セバスチャンさん、後を頼んでもいいですか? 俺はシャロルさん達と話します」

「畏まりました。では、選ばれた方はこちらに……おや、レオ様もいて下さるのですね?」

「ワフ! スンスン……」


 理由を話すにしても少し長くなりそうだったので、アルフレットさん達の事はセバスチャンさんに任せる。

 レオは、俺が使用人として決めた……という状況がわかっているからだろう、アルフレットさんやジェーンさんに鼻先を近付けて匂いを嗅いでいた。

 それぞれの匂いを覚えておくつもりなんだろうけど、あんまりやり過ぎると嫌がられるから、気を付けるんだぞー?


「えっと、それじゃあここにいる人達を選ばなかった理由ですけど……」

「はい……」


 セバスチャンさんに連れられて、離れる使用人候補……いや、俺が選んだ使用人さん達を見送って、こちらはこちらで理由の説明。


「まず前提として、皆さんの能力が足りないとか、そういう事ではありません」

「そう、なのですか?」

「はい。そもそも本邸で使用人として働いていた皆さんが、不十分だなんて思いませんし、見ていてもそうは感じませんでしたから。シャロルさん」

「は、はい!」


 能力が足りないわけではない、と念を押しつつシャロルさんを呼ぶ。

 緊張した様子で気を付けをしたシャロルさん……いや、そんなに緊張する事じゃないんですけど。


「俺が選ばなかった人達は、この屋敷で使用人をしてもらう事になりますが……シャロルさんにはここでフェンリル達を見ていて欲しいんです」

「ここで、ですか? でも、フェンリル達はタクミ様に付いて行くのでは?」

「まだ全てを決めていませんが……フェンリル達はランジ村とこの屋敷とを、行ったり来たりする事が多くなると思います。それに、駅馬の事もあって他のフェンリルが来る事もあるでしょう」


 俺やレオがランジ村に行くからって、全てのフェンリルが一緒に移動するわけじゃないからな。

 シェリーはクレアと一緒だろうけど、群れのリーダーであるフェリーや駅馬を手伝ってくれるフェンリル達は、この屋敷に来る事が多いはずだ。


「チタさんとシャロルさんには、フェンリルのお世話をして欲しいなと考えた時、二人共ランジ村に行くよりも分けていた方がいいと思ったんです」

「成る程……そういう事ですか。タクミ様の考え、理解しました。微力を尽くし、誠心誠意公爵家とフェンリルに仕える事をお約束いたします」



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