第1107話 正式な使用人を決定しました



「さて、では始めますか」

「はい」

「ワフ」


 うどんを作った翌日、少し寝不足なのを自覚しながら、屋敷の裏庭で集まった皆を確認していたセバスチャンさんに促され、頷く。

 隣にいるレオも、お座りした状態で頷いた。

 俺とレオ、リーザが並んでおり、向かいには使用人候補の皆さんが整列している。

 ライラさん、ゲルダさん、ミリナちゃんは俺達の後ろ、セバスチャンさんが間に立ち、クレアやティルラちゃん、フェンリル達は少し離れたところからこちらを見ていた。


 客間でも良かったんだけど、レオだけでなくフェンリル達やラーレなどにも見せておいた方が良さそう、という考えから裏庭が発表の場に。

 まぁ、場所は別にどこでもいいんだけど、屋内よりも外だと俺の方が緊張し過ぎなくていいな。


「えーっと……それでは、俺の使用人として雇う人を発表します」

「「「はい!」」」


 一歩だけ前に出て、発表会? 指名会? とにかく、正式に雇う使用人さんの指名をする事を伝える。

 声を揃えて返事をする使用人候補の皆も、それぞれが緊張した面持ちだ。

 ある程度決まっていたし、少し話したりもしたけど、昨日の夜中にレオやリーザが寝た後にじっくり考させてもらった……おかげで寝不足なんだけど。


「指名されたからと言って、それに必ず従わなければいけないわけではありません。もし、俺に雇われるのが嫌な場合は、拒否する事もできます」


 ほとんど全員の意思確認はしているけど、強制ではない事を前置きとして伝える。

 さて、ちょっと緊張するけど……人を多く雇うので、これから先こうやって人の前で話す事が増えるだろうから、慣れないとな。


「まず最初に、アルフレットさん」

「はい!」


 俺に名前を呼ばれて、少しほっとした表情をしながら一歩前に出るアルフレットさん。

 安心しているという事は、指名されて喜んでいるという意味でもあるので、俺の方も安心だ。


「アルフレットさんは、執事長として男性使用人をまとめる役割を担ってもらいます」


 執事長としてアルフレットさん、使用人候補さんの中で一番執事をしているのが長い事、能力としては平均的に全ての能力が高い、という評価だ。

 ……能力に関しては、セバスチャンさんや屋敷の執事さんに聞いた事だけど。

 俺一人じゃ、執事としての能力の評価なんてできないからな。


「はい、畏まりました。微力を尽くし、誠心誠意タクミ様にお仕えいたします」

「よろしくお願いします。とは言っても、本邸やこの屋敷よりも人の数は少ないですし、気楽にやりましょう」

「はい!」


 恭しく礼をするアルフレットさんに、こちらからもこれからいっぱいお世話になるだろうと考えながら、声をかける。

 一言伝えるのは、セバスチャンさんから推奨されていた事で、こうすると気持ちが引き締まるらしい。

 叱責とか理不尽な事ではなく、上司などから直々に期待しているというような事を言われて、やる気になるというのはわからなくもない。

 ……ほとんど経験ないけど。


「次は……執事として、ウィンフィールドさん」

「はい!」

「執事長のアルフレットさんの下で、存分に働いて下さい」

「畏まりました。考えはあれど、誠心誠意お仕えいたします」

「はい、よろしくお願いします。村の人達と触れ合い、俺の事も見て、先の事をよく考えて下さいね。俺は、ウィンフィールドさんの考えを否定しません」

「ありがとうございます!」


 次はウィンフィールドさんを指名、下がったアルフレットさんに代わり、こちらも一歩前に出て恭しく礼をしている。

 貴族とかの話で、ウィンフィールドさんは一番悩んだんだけど……俺が雇う事にした。

 クレアもランジ村で暮らす事で、エッケンハルトさんとの繋がりが屋敷よりも強くなるだろうと考えた。

 他にも、近くにいる事でまた知らない所で反感のようなものを持たれないようにすると共に、俺が貴族に興味ない事も知って欲しいと思ったからだ。


「三人目、キースさん」

「はい!」

「キースさんには、お金や商売に関する事を期待しています。他の人とも協力して、俺を助けて下さい」

「畏まりました。私の知識をお役に立ててご覧に入れます」

「よろしくお願いします。薬草や薬は基本的に公爵家に卸しますが、販売額や市場価格など相談する事が多くなると思います。あと、報酬とかもですかね」

「はい、タクミ様が損をされないよう、尽くします」


 キースさんは、ラクトスに行った時相場に詳しかったのを評価。

 基本的にはお金関係というか経理担当……早い話が金庫番だな。

 まぁ、赤字になる予想は俺以外にも、この場にいる誰もが想像できない事らしいので、少々損をするくらいならいいんだけど……とにかく頼らせてもらおう。


「四人目……を発表する前に、ライラさん」

「はい」


 男性の使用人としては、キースさんで最後だ。

 次に女性の使用人、メイドさんの指名の前にライラさんを呼んで俺の隣に並んでもらう。


「ライラさんは女性使用人側で、メイド長をしてもらいます」

「若輩者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」


 使用人候補の皆に向かって礼をするライラさん。

 アルフレットさんやジェーンさん夫妻には話していたけど、初耳の人もいるので少し驚いている人もいるようだ。

 シャロルさんやチタさんは年齢が近い……というより、俺やクレアも含めて同い年だったりするんだけど、全体で見ればまだ若いライラさんがメイド長だから、驚くのも当然か。


「そして……ジェーンさん」

「はい!」

「ジェーンさんは、メイド長でなくて申し訳ありませんが……アルフレットさんと協力して、支えて下さい」

「畏まりました。もういい年ですから、旦那には頑張ってもらって、早く子供の事も考えないといけませんから。メイド長は若い人にお任せします」

「お、おい!」

「ははは……」


 俺に向かって礼をした後、笑いながら言うジェーンさんに、アルフレットさんは驚き俺は苦笑する。

 皆の前で子供が……とか言われたら、アルフレットさんとしては恥ずかしいかもな……横にいるヴォルターさんやアロシャイスさんに、肘でつつかれていたりする。

 でもジェーンさん、結構な高齢出産になると思うけど、子供作る気なんだ……体に気を付けて頑張って欲しい。

 何か、妊娠出産に良さそうな薬草とか、作れないかな? というのは後で考えよう――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る