第1106話 皆にうどんを実食してもらいました



「「「おぉぉぉぉぉ!」」」


 握手した俺達を見て、沸き立つ料理人さん達……中には、肩を叩き合って喜んでいる料理人さんもいる。

 皆、新しい料理の完成を歓迎してくれているんだろう。

 うどん程度で大げさかもしれないが、それだけ麺を作るのも苦労したって事でもある。

 ヘレーナさんと協力して作ったからか、仲間意識のようなものが芽生えている感覚……まぁ、俺はうどん麺に既存の物を適当に載せただけなんだけど。


「それでは、このうどんを今日の夕食にいたしましょう」

「麺の量は大丈夫ですか?」

「問題ありません。少々、パスタを作るよりも練る作業が大変ですが、それも作り慣れるためと思えば」


 練るというのは、こねる作業の事か。

 パスタとの違いは全部任せた俺にはあまりわからないけど、手順や力の入れ方とかいろいろあるんだろう。

 夕食まではそれなりに時間もあるし、麺ができれば茹でて盛り付けるだけのお手軽料理になるので、大丈夫そうだ。


「クレアがラクトスで食べた時、屋敷にいる時も食べたがっていたので、喜ぶでしょうね」

「クレアお嬢様が喜んで下さるよう、励みます」


 ラクトスにある、屋台のうどんもどきについてはヘレーナさん達に話してある。

 試作している時、ラクトスにまで行って味の確認とかをした人もいたらしい。

 とはいえあっちの麺はパスタが使われていて、そこから試作で単純にパスタを太くした物が作られたりもしたんだけど。

 とにかく、俺がヘレーナさんに頼んだのはパスタとは別の多分ちゃんとしたうどん麺……これで差別化はできるはずだ。


 まぁ、屋台はかけうどんで、こちらはぶっかけうどんの時点で、違うんだけど。

 ちなみに、味の研究のために料理人さんが屋台の人に何か聞き出すのかと思ったけど、そう言うのはご法度らしい。

 ただ、あちらはパスタ麺を太くしているのに、形が崩れたりしていないのが不思議なので、あれはあれで研究してみると、料理人さん達にある意味火を点けてもいた。

 聞き出そうとすれば、公爵家の関係者だから聞き出せるんだろうけど、向こうも商売だから、独自の味を真似されたら困るからとか。

 製法や企業秘密ってわけだ……企業じゃないけど。



「あ、そうだ。少し麺が長いので……レオやフェンリル達には」

「心得ております。短く切って、まとめておけば食べられるでしょう」

「ありがとうございます」


 レオ達はさすがに麺を啜る事はできないし、フォークを使ったりもできないからなぁ。

 パスタ料理の時はひと手間かけてくれていたんだけど、うどんにも同じようにしてもらうよう頼む。

 あとは、ネーギが日本にあるのとまったく同じ成分かわからないけど、リーザとレオ、フェンリル達のには使わないようにお願いした。

 ……リーザは獣人でほぼ人間と変わらないし、レオ達も多分食べ物に気を付けなくても大丈夫そうではあるけど、念のためだな。


 その他、こねる作業にはフェンリル達が気に入ってくれれば、食べさせる物の一つになるので、チタさんやシャロルさんにも手伝ってもらうよう手配する。

 その他に、俺が大根おろしなどを載せた以外にも、色んな物を使って味を変えることができる事も伝え、厨房を出た。

 うどん麺と醤油があれば、大体なんとかなるだろう……個人的にはとろろ昆布とか、天ぷらや天かすが欲しいけど。


 ちなみに、うどんは総称みたいな感じの扱いで、今回の料理に付ける名前は醤油ぶっかけになった……ほぼそのまんまだ。

 もちもちつるつるうどんの醤油かけ……という候補もあったけど、長すぎたので却下した――。



「あぁ……なんでしょう。パスタと同じ麺なのに、それとは別の柔らかさ。それでいて確かな噛み応えと食べ応えがあります。味もさっぱりしていて食べやすいですし……ラクトスで食べたのとは違いますが、私はこちらの方が好きですね」

「それは良かった」


 夕食後のティータイム、クレアが出された醤油ぶっかけを食べて、うっとりしている様子で感想を言う。

 特にクレアは、うどん麺そのものが気に入ったようだ……屋台のパスタうどん麺? はコシのない麺だった。

 ヘレーナさんが作ったうどん麺は讃岐うどんで、屋台の方は福岡うどんや伊勢うどんに近いか……モチモチ感も少ないから、スーパーで安売りしているうどん麺が一番近いかもしれない。

 あと、さっぱりしているのは醤油のおかげもあるけど、大根おろしの影響が大きそうだな。

 

「美味しかったよパパ! あれならいくらでも食べられそう!」

「ははは、いくら美味しくても、食べ過ぎたらお腹を壊しちゃうからな」


 リーザも気に入ったようで、さっぱりした物だからかおかわりまでしていた。

 とは言え、食べ過ぎてもいけないので程々にして欲しいかな。


「ワフワフ! ワフー?」

「あぁ、そうだな。レオは知っているか。また作る事があればやってみるよ」


 レオも気に入ったようだけど、やっぱりというかなんというか、肉類が欲しかったらしい。

 俺が食べるところを見ていて、肉うどんの存在も知っているからだろう。

 そういえば、肉うどんを甘辛く煮た物を載せても良かったなぁ……こちらもまたヘレーナさんへ提案行きだな。

 

「ワフー! ワフ、ワフワフワウ?」

「いや、さすがにそれはな……」


 何を思ったのか、ソーセージとハンバーグを一緒に載せたら? とレオが言っているけど、さすがにな……レオにとっては好物を載せた贅沢全部のせ、みたいな感覚なのかもしれない。

 合わせて特別美味しくなくなる事はないと思うけど、ちょっと欲張り過ぎだ。


「タクミ様、こちらの……この調味料ですが」

「醤油ですね」


 使用人さん達やフェンリル達も気に入ってくれたらしく、皆満足そうな表情をしている中、セバスチャンさんだけは器の底に残った、ほんの少しの醤油に注目していた。

 醤油の事を知らないわけではなく、仕入れている量が少ないのが気になったらしい。

 現状で仕入れられる量を仕入れている、というわけではないので、これからは量を増やす事やランジ村に行った際にも屋敷と分ける、という相談をした。

 とりあえず、醤油ぶっかけは貴重な調味料を使うので、食卓に並ぶ事になってもあまり頻度は多くなさそうだ……恋しくなったら、やっぱりラクトスの屋台に食べに行こうと思う、うん。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る