第1094話 体ブルブルは距離を取って直撃を避けました



「よーし、それじゃ石鹸を水で洗い流しましょう。――リーザもティルラちゃんも、顔にはかけないようになー?」

「「はーい。……ざばー!」」


 完全に石鹸を洗い流すため、皆に声をかけて水をレオとフェリーにかける。

 リーザとティルラちゃんは、声を揃えて返事をした後、水をかける音を声で表現していた。


「さて……はーい、皆さんこっちですよー!」

「タクミ様?」

「早くこっちに来ないと、大変な事になりますよー!」

「は、はい……」

「畏まりました……?」


 何度か水をかけて、フェリーとレオの石鹸を洗い流した俺達。

 そろそろ我慢の限界かな? と察して、手を上げて皆に聞こえるように声を出しながら風呂場の端へと誘導。

 チタさんやアルフレットさんなど、初めてレオ達を風呂に入れる人は、いきなりどうしたのかと不思議そうに俺を見る。

 それでも、ちゃんと従ってくれるのはありがたい。


 クレアやセバスチャンさん、ライラさんなどの経験がある人達はそそくさと俺のいる方……レオやフェリーから離れた場所へと移動。

 リーザとティルラちゃんは……まぁ、こっちはレオの傍にいるままだけど、こちらの意図は察しているようだ。

 まぁ、遊びに近い感覚だろうし、冷えて風邪を引いたりしなければ問題ないか。


「レオー、そろそろいいぞー。一度思いっ切りやってくれー」


 大きいと言っても、風呂場の中で限界はあるので完全ではないけど……ともあれ、数メートルも離れればこちらがずぶ濡れになる事はないだろう。

 そう判断し、リーザ達以外の避難が済んだのを確認してレオに声をかける。


「キューン……っ!」

「グルゥ!? グルルルル……!」

「きゃー!」

「にゃー。ママとフェリー、凄い勢いだねー!」


 すると、口を開けずに返事をしたレオが、思いっ切り体を震わせて毛が吸っていた水分を飛ばした。

 さすがに、体が大きいだけあって水滴が飛ぶというよりもはや、桶から水を飛ばすくらいの勢いだな……近くにいるフェリーも急な水しぶきに驚き、その反動か同じように体を震わせた。

 一番近くにいて巻き込まれたティルラちゃんと、リーザの声も聞こえるが……こっちは楽しそうに叫んでいるから大丈夫だな。


「ふわ~、凄いです」

「……タクミ様と一緒に移動しなければ、あれが近くで」

「これだけ離れても、結構濡れていますが……近くだと水を浴びるのと差はないでしょう」

「以前から、これを何度か近くで受けましたけど、全身がびしょびしょになりますよ」


 それぞれ、レオ達の様子を見て声を上げるチタさん達。

 こちらにも多少水しぶきが飛んできてはいるけど、ずぶ濡れになるほどじゃない。

 油断して、何度もやられたからなぁ……シェーンさんが言うように、頭から水を浴びるのとほとんど変わらないし、横から水滴が飛んで来るので少し痛かったりもする。

 まぁ、レオが申し訳なさそうにするから、痛いというのは言わないし、ほんの少しだけだからな。


「前回は、これで私達も濡れてしまったのよね。今回は備えて来たから濡れても大丈夫だけれど……」

「私もあれはさすがに恥ずかしかったですね……」


 レオの体ブルブルの洗礼を受けた事のある二人、クレアとライラさん。

 二人が話すのを聞いて、思わずあの時の光景を思い出しそうになったけど、頭を振って追い出した。

 変な事を思い出している場合じゃなくて、今はレオ達を洗ってやらなくちゃな。



「ワフ、ワフー……」

「グルゥ……」

「ははは、レオもフェリーもお疲れ様」


 体を震わせて一度落ち着いた後は、お腹など他の場所。

 それが終わると、顔を洗う……こちらはさすがに、初めてのフェリーでも結構堪えたようで、全てを終えた後びしょ濡れのまま、お座り状態でぐったりしている。

 まぁ、目や鼻に石鹸が入らないように、じっと耐えてもらっていたけど、それでも鼻で息くらいはするからなぁ……石鹸が鼻に入ると、刺激が少ないとはいってもやっぱり痛いだろうし。

 お腹を洗った後、背中の力だけで飛び上がって空中で姿勢変更、スタッと着地するもはや芸とも言える事を、レオと一緒にやっていた時は、フェリーも元気だったんだが……。


「ともあれ、レオもフェリーも、これからお楽しみの時間だぞー?」

「ワフ! ワフ!」

「グルゥ?」


 レオ達を労っていると、ライラさんがスッと差し出してくれる物……ブラシだ。

 人間が使うには大きく、最初は馬用かなと思っていたけど、レオ達用に作ってくれていたらしい。

 それを持った俺を見て嬉しそうに尻尾を振るレオと、首を傾げるフェリー。

 まぁ、フェリーはブラシで毛を梳かれた事がないから、見せてもわからないか。


「こらこら、レオ。まだ濡れているんだから、尻尾を振ると皆に……リーザ達が喜んでいるからいいか」

「きゃっきゃっ!」

「おー、結構遠くまで水が飛びますねー」


 濡れたままの尻尾は、当然振られれば水を飛ばしているけど……リーザとティルラちゃんはそれを浴びて喜んでいる。

 水遊びしている気分なんだろうな。

 クレアや他の皆は、尻尾の方にはいないから大丈夫そうだし。


「グル、グルゥ?」

「あぁ、これはな……」


 鼻先を近付けて、俺の持つブラシをクンクンしようとするフェリー。

 レオが喜んでいるし、どういう物なのか興味があるんだろう。

 とりあえず簡単に説明しつつ、使用人さん達皆にもブラシを持ってもらって、最後の仕上げに取り掛かった。


「えぇと、まずゆっくり通すようにブラシで梳かしてあげて下さい。あまり力を入れる必要はないので……もし、絡まっている毛に引っかかっても、そのままだと引っ張ってしまうのでそれを優しく解すように……ブラシが駄目な場合は、手で解いてもいいと思います」

「ワフ、ワフ~」

「レオ様、気持ち良さそうですね」


 ブラシでレオ達の毛を溶かす方法を、簡単に説明しながら手本を見せる。

 チタさんも、他の皆も一緒にレオの様子を見て感心しているようだ。

 初体験のフェリーはともかく、レオにとっては至福の時間……ブラシで毛を梳かされるのが好きらしく、マルチーズだった頃から気持ち良さそうにしていたからな。

 さて、フェリーの方はどうだろうか……?



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