第1095話 風呂場の事を考えました



「グルゥ~」

「あ、あっちも大丈夫そうだ。気持ち良さそうにしているな」

「そうです、洗っている時よりも優しくゆっくり。毛の間にある小さな汚れを落とすためです」

「これはこれで、少し力加減が難しいですが……」

「綺麗な毛だから、自分の髪を梳かしている感覚に近いですね」


 レオの毛を梳かしながら、フェリーの方を見るとそちらでも気持ち良さそうな声を出して、野生の欠片もなくなったフェンリルが一体。

 ライラさんが、手本を見せて教えているようだ……レオを風呂に入れるのを担当してくれるようになってから、ブラッシングもやってくれているからな、手慣れたものだ。

 アルフレットさんは少し苦戦しているようだけど、シェーンさんはさすが女性と言うべきか、すぐに要領を掴んだ様子。


 ちなみに、結局この後水で流すのでブラッシングする効果は汚れを落とす効果以外になく、また毛を乾かした後にもう一度ブラッシングするので、二度手間にはなってしまう。

 けど、手間を惜しむ程忙しいわけでもないし、レオ達も喜んでいるし、お世話できている感覚があるからか、ライラさんもブラッシングをしてあげるのが好きなようだ。

 俺もやったりはするが……喜んでいるレオを見ながらのブラッシングは確かに楽しいし、心が休まる感じがする。


「シェリーはお風呂も好きですが、これをねだるために入ろうとする事があるんです」

「へぇ~、そうなんだね。やっぱり、ブラッシングは共通で皆気持ちいいんだ」


 クレアも微笑みながら、手慣れた様子でブラッシングをしている。

 シェリーは結構クレアに甘える事が多いから、ねだる様子がすぐに想像できるな。

 ブラシを口に咥えて、クレアにおねだりする様子を思い浮かべると可愛い。


 そうそう、毛をブラシで梳かすのは犬にとってマッサージ効果もあるらしいので、レオ達も同じような感じなんだろう。

 人によって力加減とかが難しいと感じる事もあるようだけど、フェリーも気に入っているようだし、恒例行事にするのも悪くなさそうだ――。



「よし、水をかけて……離れますよー!」

「はーい」


 ブラシで綺麗にした後は、もう一度水で洗い流す。

 その後、皆に声をかけて先程と同じように距離を取り、体ブルブルをするレオやフェリーからの被害を減らす。

 ……相変わらず、リーザとティルラちゃんは楽しそうに近くで受けていたけど。

 意外と、やっていて楽しくなったのか、クレアが明るく返事をしているのが可愛く思ったりもした。


「次はフェンとリルルか……それまで、リーザとティルラちゃんはお湯につかって温まるように」

「「はーい」」


 レオとフェリーの仕上げを終え、風呂場の外でタオルを持った使用人さん達に拭いてもらい、再びブラッシング。

 そちらはライラさん指揮の下、チタさん達使用人候補さん達など次のフェン達の時に交代する人達が担当してくれる。

 俺達は、水で濡れて冷えた体をお湯で温めつつ、束の間の休憩。

 耳から尻尾まで、全身ずぶ濡れになっているリーザや同じような状態のティルラちゃんは、特に体を温めるため、湯船に浸かっていてもらう。


 レオ達を洗っていたのが水だから、特に冷えているだろうから。

 フェン達を連れて来る使用人さん達には、ついでにリーザ達用の着替えも頼んでいるので、来たら着替えてもらうつもりでもある……まぁ、また濡れるんだろうけど。


「ふぅむ……」

「どうしたんですか、セバスチャンさん?」

「何を考えているの?」


 フェン達を待つ間、水を浸かって冷えた手足をお湯に浸して温めていると、セバスチャンさんが何やら考えている様子。

 気になった俺は、クレアと一緒に声をかけてみた。


「タクミ様やクレアお嬢様が、ランジ村の新しい屋敷に住まう際、ここと同じくらいの風呂場が必要かと思いましてな?」


 屋敷かぁ……今いる屋敷ほど大きくなくて、俺は家と考えていたけど……規模からすると確かに屋敷と呼んだ方がいいかもしれない。

 それはともかく、確かに今回のようにレオやフェンリル達を同時に風呂に入れる場合は、大きな風呂場が必要になるだろう。

 レオが入る予定はあったので、ある程度大きく作るように話していたけど……さすがに二体同時に入ったり、今回のように多くの人が一緒に入る余裕はない。


「まぁでも、今回のような事はめったにないですし、その時は別々に入れるようにすればいいと思いますよ?」


 別に、必ずしも一緒に入れないといけないというわけじゃないとからな。

 多少の汚れは、フェンリル達も気にしないようだし、少し待ってもらって交代で洗えばいいだろうし、そもそも今日みたいに汚れる事は滅多にないはずだ。


「確かに……一度に済ませてしまおうと考えない方がよろしいですか」

「でも、これからシェリーも大きくなると考えたら……」

「リーザとか、一緒に入りたがりそうだね」


 セバスチャンさんも納得して、思考を打ち切ろうとしたところでクレアの意見……リーザとか、今日の事もあってレオだけでなくシェリーも一緒に入りたいって言いだしそうではある。

 フェンとリルルの子供なのだから、当然成長すれば同じくらいの大きさになるはずのシェリー。

 今はまだ中型犬と大型犬の間くらいまでしか成長していないけど、いずれはあの大きさになるはずだ。

 リルルは雌だからか、少しだけフェリーやフェンよりも体が小さいけど、誤差の範囲……あれくらいの大きさになったら、レオと一緒には入れないだろう。


「ふむ、今ならギリギリ変更も間に合いそうですが……部屋数を減らして、風呂場を広げる方がよろしいかな?」


 部屋の多くは、俺が今この屋敷で使っている部屋のように、誰かお客さんが来た時に寝泊まりする場所でもある。

 確かに、少し多めに作る予定でそこを減らせば調整できるのかもしれないけど……。


「多分、そこまでしなくてもいいんじゃないかなと」

「そうですか?」

「えっと……」


 必ずしも、体を洗うのは風呂場でなくてもいい。

 わざわざ風呂場を使う人間は、体を洗う際に裸になるのを見られないためだとか、お湯を溜める必要があるからだ……多分。

 フェンリル達はレオと同じく、洗う時に水で良さそうだしお湯を溜める必要がない。

 だから場合によっては、レオも同じく外で洗えばいいんじゃないかなと思った――。


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