第1092話 フェンリル達の入浴会を開催しました



「よし、皆を風呂に入れるぞー!」

「おー!」

「はーい!」

「ワフゥ……」

「グルゥ!?」


 フェンリル同士の戦いはさておき、汚れてしまったフェリー達、ついでにレオを風呂に入れるため裏庭に集まった皆に声をかける。

 手を上げて呼びかける俺に賛同して、楽しそうに声を出すリーザとティルラちゃん。

 対してレオは避けられない事を悟っているのか、しょんぼりした風で鳴き声をあげ、フェリー達は驚きの声。

 フェンリル達は、戦闘跡の片付けをしている間にレオから風呂の事を聞いていたみたいだからな……レオからは、ひたすら我慢する苦行のように伝えられていたけど。


「タクミ様、こちらの準備はできております」

「ありがとうございます、ライラさん。……ゲルダさん、最近はリーザやレオを風呂に入れてくれているので、慣れているとは思いますけど……滑るので気を付けて下さいね?」

「は、はい!」

「私も頑張ります、師匠!」

「うん、ミリナちゃん。お願いするよ」


 俺の下に集うリーザとティルラちゃん、その他にライラさんとゲルダさんとミリナちゃん。

 ライラさん達は、使用人候補の人達にレオ達の入浴時の注意点なんかを伝えて、準備してくれていた。

 風呂場は床が濡れて滑るので、ゲルダさんのドジが少し心配だ……滑って転んだら危ないからなぁ。

 まぁ、最近はレオの事も任せたりするので、軽く注意しておくだけで大丈夫だと思う。


「タクミさん、こちらも準備できました」


 屋敷の出入り口から、クレア達が出て来て声を掛けられる。

 以前レオの洗い方を教えた時と同様、今回もクレアは参加を表明し、さらにセバスチャンさんや他の使用人さんも数名程。

 レオだけじゃなく、フェリー達も含めたら……馬ほどの巨体を持つのが、五体になるから人数は多めの方がいい。

 フェンリル全ては無理でも、風呂場は大人数が入れる余裕もある事だしな。


「今回は、私も参加しますかな。フェンリルを洗う経験、しておいて損はないでしょう」

「クレア、セバスチャンさんも。……逆に、経験して得する事もなさそうですけど」

「ほっほっほ、こういった経験も得難いものですよ。それだけで、良いものです」


 クレアの後ろから、やる気十分で楽しそうな表情をさせているセバスチャンさん。

 特に他で役に立ちそうにない経験ではあるけど、セバスチャンさんにとってはそういう事は関係ないようだ。

 まぁ、駅馬でフェンリル運用の事を考えたら、知っておいた方がいいのかもな。


「それにしても……」

「どうかされましたか?」

「あ、いや。なんでもないよ……」


 準備をしてきた……濡れても良さそうな服に着替えてきたクレア、正確にはクレアを含めた他の皆を見る。

 クレアからは、どうしたのかと不思議そうに尋ねられたけど、今回考えている事を知られたくなかったので、首を振って誤魔化しておいた。

 考えていた事というのは、クレア達の服装。

 前回は濡れてもいいという条件の下、薄手の服だったけど、今回は少し厚めの服を皆が着ている……多分だけど、前回濡れて透けてしまった事への対策だろう。


 特に女性は、重ね着をしているようだ……まぁ、男女混じっているから、気を付けるのも当然か。

 決して、決して残念だとは思っていないぞ? クレアの服が透けて見えるなんて、他の男性使用人さん達に見せられないからな。

 ……うん?


「ヴォルター、貴方も早く来なさい! これもフェンリルに慣れるため、必要な事です」

「うぅ……」


 俺の考えを打ち切るように、セバスチャンが声をかけた先には、とぼとぼと着替えたヴォルターさんが俯きながらこちらへ向かっていた。

 セバスチャンさん、やっぱりこちらにも参加させるのかぁ……まぁ、外を走るより危険は少ないから、嫌がっている事以外は問題ない、かな。


「タクミ様、まずはどういたしましょう。さすがに全員でお風呂場に入るわけにもいきませんし……」

「そうですね……まずは、レオとフェリーからにしましょう。それから……」


 セバスチャンさんとヴォルターさんの方を見ていると、ライラさんから振り分けを聞かれる。

 意気込んで皆の準備が整ったとしても、さすがに全員が一度に入れるわけじゃないからな。

 とりあえず、二体入ったうえで洗う人間が入れるくらいはなんとかなりそうなので、レオとフェリーにする。

 それが終わったら、次はフェンとリルルだな。


 クレアやセバスチャンさん、俺とライラさんは二組両方とも参加し、他の使用人さんは交代制だ。

 リーザとティルラちゃんは、ほとんど遊びに参加する感じだろうからこちらも両方参加だな。


「それじゃ、レオとフェリー行くぞー!」

「ワウゥ……」

「グ、グルゥ」


 まず最初の組、レオとフェリーを呼んで風呂場へ連れて行く。

 レオは以前よりマシにはなったけど、どうしても風呂は好きになれないらしく、項垂れたまま。

 フェリーはレオから聞いていても、風呂その物を知らないのでよくわかっていない事もあるようだけど、レオが萎れているのを見てちょっと警戒している様子でもある。

 クレアから聞いた話では、シェリーは最初だけ戸惑って今は風呂好きだそうだから、フェリーも大丈夫そうなんだけど。


 まぁ、こういうのはそれぞれの好みもあるか……同じフェンリルだからって、フェリー達が気に入るかはわからない。

 というか、俺達のやり方次第ってとこだろう。

 レオのように風呂嫌いにならないよう、注意しないとな……小さかった頃のレオを風呂に入れる時、最初は俺も不慣れだったから、結構大変な目に遭わせてしまったからなぁ。

 ……風呂嫌いの原因は、俺なのかもしれない。



 レオ達を連れて、ゾロゾロと風呂場に入り、それぞれが用意された風呂桶に水を溜めて持つ。


「ワウ!」

「グル?」


 観念したレオが強く目を閉じれば、それを見てフェリーが首を傾げた。


「フェリーも、レオと同じように目を閉じてた方がいいかもしれないな。――それじゃ、水を掛けますよー」


 水を掛けるだけなら大丈夫だろうけど、洗う時になると目に洗剤が入っちゃいけないから、目を閉じていた方がいいだろう。

 フェリーに声をかけた後、クレア達も含めて皆がレオとフェリーそれぞれに別れては位置に着いたのを確認し、号令を出した――。



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