第1079話 フェンリル達が親しまれる方法を考えました



「レオ様って、すごいのですね!」

「レオ様ー!」

「ここもおっきくなって、いつか国にしてくれるのー?」

「ママは凄いんだー!」

「ワ、ワフ? ワフー!」


 しばらく後、ヴォルターさんの話が終わった後、おとなしかった子供達がレオに群がっている。

 皆、先程の話でシルバーフェンリルが凄いと褒めているようだけど、当のレオはなんで急にそう言われているのか、戸惑っているようだ。

 ただ、途中でどうでもよくなったのか、誇らし気にお座りして胸を逸らしていたけど……あとリーザも自慢するようにしていた……楽しそうだからいいか。


「はぁ……想像より疲れた」

「お疲れ様です、ヴォルターさん。結構、話し上手なんですね。子供達が静かに聞いていましたよ?」

「タクミ様。まぁ、書物の物語はよく読んでいましたから。なんとか、色々混ぜて即興で話を作れました」


 やっぱり、即興で話を作っていたのか。

 本の虫で、色んな物語に触れている分、お話を作る事に向いているのかもしれない……執事の仕事とはあんまり関係ないかもしれないけど。


「シルバーフェンリルの事を世に伝える、良い方法なのかもしれません……」

「クレア?」

「クレアお嬢様?」


 レオの所に集まる子供達の様子を見ているクレアが、何やら思案顔で呟く。

 俺もヴォルターさんも、そんなクレアを不思議に思って声をかける。


「いえ、タクミさんご存じの通り、公爵家はシルバーフェンリルを敬っています。ですが、その公爵家が治める領内であっても、シルバーフェンリルに良い感情を持たない者がいないわけではないのです」

「まぁ……そうですよね」


 人の感情だから、強制はできない……思想の自由だとかそういう事ではなく。

 公爵家がシルバーフェンリルを敬っていても、あくまで魔物なのだから好ましく思わない人だっていておかしくないよな。

 魔物とは関係なく、犬や猫だって好きな人もいれば嫌いな人だっている……苦手な人も。


「これまでは、シルバーフェンリルと人間が拘わる事がなかったので、初代当主様にまつわる伝承としてあるだけでした。ですが、これからレオ様と接する人が増えれば……と考えてしまって。幸い、ラクトスでは受け入れられていますが、それが全てではないでしょうから」

「それは……そうだね。ランジ村やブレイユ村、これまでレオを見た人達には受け入れられてきたけど、それがずっととは限りならない」

「えぇ。それにもし、タクミさんの提案された駅馬が開始されれば、フェンリルの事もありますから。ですので、先程ヴォルターがやったようにすれば、多少は緩和できるのではないかなと」


 クレアが考えていたのは、全てではないにしても悪く思う感情の緩和を、という事かな。

 シルバーフェンリルの伝承って、俺が聞いた限りでは初代当主様……ジョセフィーヌさんに関する事以外では、最強だとかそういう事ばかり。

 まぁ、確かにレオを見ていれば強さとかはわかるけど、人間と親しくしたりなんて話はさっきヴォルターさんが即興で作ったお話くらいしかなかったからなぁ。


「……ここの子供達は素直だから、今のようにレオをただ凄いと褒めるくらいだけど……」

「そうですね。全員がシルバーフェンリルの話を聞いて、ただ敬うようになるわけではないでしょう。でも、少しくらいは変わるのかなと。それに、子供達の意識を変えれば少しずつでも影響は広がりそうです」

「それは確かに」


 子供達はいずれ成長するから、長い目で見ると大きな影響になるのかもしれないな。


「私達公爵家が無理に働きかける事はできませんが、話を聞かせて、少しでも意識が変えられるならと。そうすれば、フェンリル達も駅馬で活躍する場も増えそうです」

「まぁ、最初は皆怖がってフェンリルに乗りたがらなさそうだからね……ヴォルターさんみたいに」

「こ、怖がってなど……ですが、確かにフェンリルに乗る事を躊躇する人は多いでしょうから、クレアお嬢様の考えはわかります」


 クレアの考えを聞いて、頷きながらヴォルターさんに視線を送ると、目を逸らされた。

 否定はしていても、実際フェンリル達に乗ると怯えるからわかりやすいんだけど……しばらく再起不能状態になるし。

 ともあれ、ヴォルターさんも納得しているように、クレアが言いたい事はわかる。

 馬に乗るより速いです、もし魔物と遭遇してもフェンリルがいるので安全です……なんて言ったとしても、そのフェンリルを怖がる人が多ければ、乗ろうと思う人は少ないか、いないだろう。


 ある程度慣れてくれたり、ラクトスの人達の一部は大丈夫そうだから、少しずつと思っていたけど、クレアの考えなら利用者を増やす事にも繋がるかもしれないな。

 劇的な効果という程、見込めないとしてもだ。

 ヴォルターさんの話を聞いた俺としては、もうちょっと人間と親しくというか……レオとかシルバーフェンリルだけでなく、フェンリルの可愛さを出すような話の方がいいと思うけど。

 まぁでも、親しみを持ってもらうとっかかりとしては、悪くないのかもしれないな――。



「バイバーイ、またねー!」

「リーザちゃん、また遊ぼうねー!」

「うん! またねー!」

「また来ますねー!」

「ワフワフー!」


 日が傾き始めた頃、孤児院の入り口で見送りにきた子供達とのお別れ。

 それぞれ、楽しかったのを示すように笑顔で手を振っている……一部寂しそうな顔をしているのは、楽しかったからこそ、離れがたいからだろうな。

 リーザやティルラちゃんも、レオの背中から元気よく手を振り、レオも大きく鳴いて尻尾でバイバイしているようだった。

 空元気気味だったリーザや、スラム関係でちょっと落ち込み気味だったティルラちゃんも、屈託なく笑っているようなので、子供達と遊んで気分転換ができたようだ。


「それじゃ、あとは西門に戻って屋敷に戻るだけかな?」

「そうですね。屋敷に戻る頃には夕食の時間になっていそうです……いえ、少し早く戻れますかね?」

「まぁ、フェンリル達に乗るから、これまでより少し速そうだね」

「……うぅ」

「あとは戻るだけですから、我慢しましょうヴォルターさん」

「そうですよ。あんなに乗り心地がいいのに、怖がってばかりでは損ですよ?」


 孤児院を離れて、西門へ向かいながら話す。

 馬に乗り慣れているから、時間の計算が少しずれたんだろうな。

 俺達の後ろでは、屋敷へはまたフェンリル達に乗るため、ヴォルターさんだけは足取りが重いが……シャロルさんやチタさんに慰められてなんとか付いて来ていた――。



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