第1062話 リーザ達も欲しい物が見つかったようでした



 屋敷に住む人達用の家具、それらをセットでハインさんに注文。

 数は今作っている家の部屋数分だ。

 部屋が余ったとしても、後々誰かを新しく雇う事もあるかもしれないし、客室にも備え付けておきたいからな……客室用は、少し上等な物を頼んだけど。

 ただ、ドレッサーの数だけはまだ必要数がわからないので、数個の注文に留めておいた。


 俺もそうだけど、男性はドレッサーを使わない事がほとんどだからな……鏡くらいは欲しいけど、それくらいだ。

 キースさんに使うかと聞いたら、微妙な顔をされてしまった……。

 使用人さん達用の家具や、時計などの小物も含めて大量発注をした後は、俺やクレアが使うための物。

 俺は別に、先に見せてもらった物でも十分だと思ったんだが、他の人達と同じ物を使っていては主人として示しがつかない……との事で高級品から選ぶ事になった。


 クレアも同様で、先の見本を片付けた後ハインさんや店員さん達が改めて、別の者を持って来る。

 一本の木から伐り出して作った、椅子や机など、特別に育てた木を使っているらしく、丈夫さ以外にも手間暇がかかっているため、値段が高くなるようだ。

 物も良さそうだし、あちこちに意匠が凝らしてあって、一目で高い物だとわかる。

 他にも、総革張りのソファーなどもあったり……俺自身が不釣り合いなくらいの、家具を買う事に。

 ……高い物だから、レオやリーザが壊したりしないよう注意しておかないとな。


「ご用命、しかと承りました。ベッドも含め、ご用意でき次第ランジ村の方へ運ばせて頂きます」

「はい、よろしくお願いします」

「お願いするわね、ハイン」


 全ての注文を終え、見本品を片付けた後に恭しく礼をするハインさん。

 高級品も含め、多くの物が売れたから、嬉しそうな雰囲気が滲み出ていた。

 支払いに関しては、イザベルさんのお店でもそうだったんだが、大量の金貨が必要となるため俺達が直接持って来るのではなく、後日使用人さんが確認も兼ねて持って来る事になっている。

 持ち運びにはそれなりの労力が必要だし、貴族や豪商などが大量のお金と一緒に移動すると、それを狙う人達がいたりして危険だからとか。


 まぁ、レオやフェンリル達がいるから、防犯的な部分は大丈夫だとしても、馬車とは違って多くの物を運べないからな。

 そうして、ハインさんと話をしながら店の中を見て回っている、ティルラちゃんやリーザが戻って来るのを待った。


「パパー!」

「姉様、タクミさん、戻りましたー!」


 しばらくすると、元気よく部屋に入って来るリーザとティルラちゃん。

 二人共、両手で大きなサイコロ? を持っているから、気に入った物が見つかったらしい。


「おかえり、リーザ、ティルラちゃん。それはなんだい?」

「これ、凄いんですよ!」

「そうなの、パパ! これはね、箱なの!」

「箱?」


 興奮した様子で、木のサイコロを俺達に見せるティルラちゃんとリーザ。

 四角く六面体になっているそれは、言われなければただのサイコロにしか見えない。

 大きさは、縦横十五センチくらいでそれなりの大きさ……サイコロにしては大きいし、中が空洞なら確かに箱として使えそうだ。


「姉様、どうですか?」

「パパ、開けてみて―」

「私? わかったわ……あら……?」

「えーと……これ、本当に箱なのか?」


 ティルラちゃんがクレアに、リーザが俺にそれぞれのサイコロ型の箱を渡す。

 俺達はそれぞれ、渡された箱をいろんな角度から見たり、蓋を探してみたが……それらしい物は見つからない。

 本当に箱なのか? 見れば見る程、ただのサイコロに見えてきたんだが。


「それは、からくり箱ですな。仕掛けがしてあって、やり方を知らなければ開かないようになっています」

「からくり箱……」


 ハインさんの言葉に、寄木細工を思い出す。

 通常の箱とは違って、仕掛けを解かないと開かない仕組みで、見た目のユニークさもあって一部では人気だ。

 まぁ、簡単には開かない物が多いので、普段使いには向かないかもしれないけど。

 開けられない俺やクレアを見て、得意気な様子を見せるリーザやティルラちゃん。


 でもサイコロか……六面にそれぞれ、一個から六個の穴が開いている。

 細工をしてある事と、サイコロだという事がわかれば、開け方もなんとなくわかるな……けど。


「……うーん、わからないな。降参だリーザ。これはどうやって開けるんだ?」

「私も降参です。ティルラ、教えてくれるかしら?」


 チラッと、クレアと視線を合わせて二人で意見を統一。

 アイコンタクトというわけじゃないが、実は俺もクレアも、それなりに仕掛けを解くのに近付いていた。

 その手を止め、降参してリーザとティルラちゃんに戻して、解き方を聞く。


 ……クレアはきっと、からくり箱と聞いてこれまでにいくつか試した事があるんだろうし、もしかしたら他の物を持っているのかもしれない。

 俺はサイコロがヒントになって解き方がわかったんだが……リーザ達が得意気にしているのを、簡単にやってみせるのはちょっと大人げなさそうだったから。

 

「わーい、パパもわからなかったんだー! えっとね、これはこうして……」

「姉様にも教えますね。えっと……」

「おぉ、開いた!」

「凄いわね、ティルラ!」


 俺達に教えるように、楽しそうに説明しながらクルクルとテーブルの上で箱を回す、リーザとティルラちゃん。

 サイコロの目を、一から順番に上側にしていき、最後に六の目になったところを横にずらすと、ようやく中が覗けるようになった。

 つまり、箱を順番に回す事で内部の仕掛けが移動し、六の目を上にした時蓋をずらす事ができるようになっているんだな。


 顔を見合わせて笑い合い、同時に開いて楽しそうにするリーザとティルラちゃん……知らないふりをしていて良かった。

 ふと見ると、ハインさんやキースさんが俺達の様子を朗らかに見ていた。

 二人共、俺達が知らんふりをしていたのに気付いているんだろう。


「これにね、パパからもらったお小遣いとか大事な物を入れるの。そうしたら、簡単には取り出せないでしょ?」

「へぇ~そうなのか。まぁ、簡単には盗られなくなりそうだな」


 簡易的な金庫のような感じで考えていたようだな、屋敷には盗ろうとする人はいないが、防犯意識を持つのはいい事かもしれない。

 持ち出して破壊すれば中身が取り出せたりするが、それは金庫だって同じだしな……持ち出す難易度は、備え付けられていたり埋め込まれている金庫には敵わないが――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る