第1063話 大きめのからくり箱を買いました



「こういったからくり箱は、他にもあるんですか?」

「えぇ、ございますよ。意匠を凝らした物もあって、中々見応えがありますな。あまり人気とは言い難いのですが、職人達が木材加工を練習する一環で作っており、よく店に置いてくれないかと持ち掛けられます」

「そうなんですね」


 あくまで、細工をしたからくり箱は練習用だから、値段もそう高くない物のようだ。

 サイコロの箱は、リーザの残ったお小遣いでも買える値段だった。

 練習とはいえ、せっかっく作ったんだから職人達のちょっとした小遣い稼ぎにもいいんだろう。

 からくり箱か……ちょっと面白いな。

 俺も、大事な物を保管するための箱とか、これから必要そうだし……。


「少し大きめの物とかはありますか?」

「ございますよ。持って来させましょうか?」

「すみません、お願いします」


 大金を保管するには向かないが、少量の貨幣や大事に保管しておくには良さそうなので、ハインさんにお願いして大きめの物をお願いする。

 しばらく待って、ハインさんが持って来てくれたのは、縦三十センチ横五十センチくらいの長方形で、こちらは見た目から箱だとわかる物だった。

 ただし、からくり箱だけあって仕掛けがしてあり、簡単には開かないようになっている。


「ふむふむ、成る程。これはこうして開くんですね」

「はい。意匠も仕掛けを隠すのに役立っており、一筋縄ではいかない物ですな」


 箱には全面にびっしりの模様が掘られており、なんとなく見ただけでは仕掛けがわからない。

 模様がダミーにもなっており、上下がわかりづらい……というより、逆さに見られるようになっていたり、左右から下、上と抑えるポイントがあって、サイコロ同様に動かしながら順番に押す事で、ようやく開く仕掛けだ。

 これだけ凝っていたら、見た目にヒントがあるサイコロとは違って、初めて見る人は開けないだろう……俺も、ハインさんに聞いてようやく開ける事ができた。

 重い物を中に入れておけば、持ち出されづらそうでもあるな、まぁ、その時は仕掛けを解くのも箱をひっくり返したりする関係上、面倒になるが。


「では、すみませんけどこれもお願いします」

「ありがとうございます。すぐ、お屋敷の方へ届けるよう手配いたします」


 買う事に決め、さすがに持って運ぶには大きすぎたので、ハインさんに配送してもらうよう手配する。

 中身が入っていないから、重さとしてはそこまでではないけど、レオ達に乗る事を考えると持って来てもらう方が助かる。

 支払いを済ませ、ハインさんにお礼を言ってクレア達と一緒に、からくり箱を持ってご機嫌なリーザやティルラちゃんを連れてお店の外へ。


「ほらほら見て、ママー」

「見て下さい、レオ様」

「ワウ?」

「ふふふ、本当に楽しそうですね」

「仕掛けを自分達で解けるのが、楽しいのもあるんだろうね」


 外で待っていたレオと合流してすぐ、リーザとティルラちゃんはからくり箱を自慢するように見せる。

 首を傾げるレオに、二人が仕掛けを解いて箱を開けて見せたりと、楽しそうだ。


「では、チタさん、シャロンさん。お願いします」

「はい、畏まりました。お荷物お預かりします」

「フェンリル達の事は、お任せ下さい」


 リーザ達の様子を見ながら、待ってくれていたチタさんとシャロンさんに、買った荷物などを渡す。

 キースさんとチタさん、シャロンさんはそろそろお昼の時間なので、屋台などで食べ物を買い、フェンリル達に昼食をあげるために西門へと向かってもらう。

 俺を含めて、残った他の皆はまだ用があるので、こちらはこちらで昼食を取る事になっている。

 リーザやティルラちゃんも、存分にレオ相手にからくり箱を自慢したので、同じくチタさんに預けた。


 昼食後は一度屋敷に戻り、荷物を置いてからまたラクトスで合流する。

 その間に俺達は、孤児院以外にもう一か所行く場所があるので、そこで用を済ませておく。

 リーザやティルラちゃんも、チタさん達と一緒にと思ったんだけど……孤児院にも行くから、子供達と遊ばせてあげたいし、こちら側だ。

 孤児院はともかく、もう一か所はあまり連れて行きたくないんだけど、ティルラちゃんが行くと言って聞かなかったのと、リーザにも関係する事だから……。



 昼食のため、以前エッケンハルトさんと来た時に利用した、オープンカフェのような場所で外に出してあるテーブルについて食事。

 食べる物は、屋台で俺が食べたい物を買ったり、カフェで作られた物が色々あって、種類が豊富な代わりに統一感はない。

 レオは、リーザやアロシャイスさんと一緒に、ソーセージや串焼きになった肉などを食べて楽しそうだ。


「まったく、ティルラは強情なのだから」

「私が、この目で見るのも重要なのだと思いました。まだまだ知らない事が多いのです!」

「ははは、こういう所は、エッケンハルトさんに似ているね。いや、クレアにも似ているかな?」

「もう、タクミさん……」


 溜め息を吐くように呟くクレアに、ティルラちゃんは絶対に譲らない様子で主張。

 苦笑する俺に、同じく苦笑するクレア。

 話しているのは、これから孤児院に行く前に行こうとしていた場所の事……スラムだ。

 リーザにとって、あまりいい思い出がない場所かもしれないし、あまり女の子を連れて行くような場所じゃないとは思ったんだけど……ティルラちゃんが見に行きたいと言った事でもあるからな。


 誰かに見に行ってもらって、その話を聞くというだけでは満足できないうえ、やると決めた事はやり通す意志の強さは、親譲り、姉譲りといったところだ。

 スラムに行く目的……それは、ティルラちゃんがスラムの実情を知らない事。

 なんとなくは知っていても、実際にどんな生活がなされているかはよくわからない……アロシャイスさんなど、スラム出身の人から話を聞いても、別の街の話だし、今の状況を知るために見たいと、ティルラちゃんは強情だった。

 ……クレアが溜め息を吐きたくなるのも、わからなくもない。


 当然ながら、セバスチャンさん達は反対したんだけど、またラーレに乗って強行されたら困るので、条件付きで承諾。

 条件は、護衛を連れて行く事、レオも連れて行って絶対に傍から離れない事などだ。

 さらに、スラムに詳しくこの街の事も知っておきたいからと、アロシャイスさんも一緒について来る事になっている。



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