第1037話 協力して魔物達を倒しました



「……そろそろ、かな? まだ明るいから大丈夫だろうけど……レオ、ラーレ達も、ちょっとだけ目を閉じていてくれ! ライトエレメンタル・シャイン!」


 大体、五十メートルくらいまでトロルド達が近付いて来るのを待ち、後ろにいるレオ達に叫びながら、魔力を意識。

 試したい事を実行するためのポーズをしながら、使い慣れてきた魔法を発動。

 ちなみにポーズは、両手を自分の顔くらいの高さで前に突き出し、手の平を内側にして手首を合わせる。


 ちょっと歪だけど、日本で見たアニメや漫画のポーズ……かめなんとか波を撃つ時の恰好だ。

 ……小学生の時、同級生と真似をして遊んだなぁ。


「ギュアアアア……」

「ギャアアアア……」

「効果はてきめん、とは言いづらいか。明るいからなぁ」


 光を放つ魔法、それは今も俺の手から放たれて、こちらに向かっていた魔物達を照射している。

 本来、光の球を作り出して周囲を照らしたり、剣などの物に宿らせたりするものだが、今回は俺が取っているポーズのおかげで、周囲ではなく魔物に向かって集中的に光が当たっている。

 とはいえ、やはり昼間の明るい時間のため、効果は薄そうだ……。

 一応、魔物の方から驚きや戸惑いの混じった、人ならざる叫び声が聞こえたし、走る速度が遅くなっているように見えるので、効果自体がなかったわけではなさそうだが。


「とりあえず、向かって来る速度は遅くなったし……ラーレ! 押しとどめてくれ!」

「キィ!」


 確実に走る速度は遅くなっているので、光の魔法を消しつつ、ラーレに指示を出す。

 翼を大きく広げて、大きく声を上げたラーレが、その翼を一度羽ばたかせる。


「キィー!!」

「うぉ!? っとっと……凄いな」


 両翼を羽ばたかせたラーレから、突風が放たれ、さらに日の光を反射してキラキラと輝く、銅色の羽根。

 それらが凄まじい勢いでトロルドやオークに向かって行き、完全に足を止めた……というより、前に進む事ができなくなっている。

 むしろ、少し後ろに下がっているようだけど……勢いが凄まじいので、俺にまで及ぶ風の影響を足を踏み留まらせて耐え、収まるのを待つ。

 羽根が舞っているのを見るに、もしかしてスラムで気絶していた人に、これを向けたのだろうか?


 というかこれだけ勢いがある突風を出せるなら、俺が光の魔法を使って、魔物達の勢いを弱まらせる必要があったのかは……あまり考えないようにしよう。

 一辺倒な戦い方で相手を怯ませて隙を作るやり方だけど、俺にはこれが今一番慣れたやり方だし、参加して見たかったんだ。

 ……ブレイユ村で、何度も狩りを経験して好戦的になっているのかな? いや、それだったらもっと火の魔法を使ったりとかだろうけど。

 攻撃的な魔法、まだ知らないしなぁ……まぁ、基礎は教えてもらえたので、言葉の組み合わせで使えるのかもしれないけど、さすがにぶっつけ本番ではやりたくない。


「よし、足は止まったな。フェリー、トロルドをやっつけてくれ! フェンはオークだ!」

「グルゥ!」

「ガウ!」


 頭の中で俺が魔法を使う必要性について、誰にともなく言い訳をしているうちに、ラーレの発生させた突風と羽根の乱舞とも言える現象が収まる。

 魔物達の足が完全に止まっているのを確認して、今度はフェリーとフェンに指示を出した。

 両方、頼もしい鳴き声を発しながら、俺の後ろから一瞬で魔物達の所へ……レオのように、目にもとまらぬ速度というわけではないけど、それでも十分に速い。

 一応目で追う事はできたけど、風のような速さと言えるだろう。


 その後は、圧倒的な速さと力強さで次々と魔物達が動かなくなっていく。

 フェリーがトロルドの一体に噛み付いて咥え、振り回してもう一体のトロルドにぶつけ、さらに追い打ちとして、前足の爪で仲間のトロルドをぶつけられた方を斬り裂いた。


「グルゥアオォォォン!!」


 咥えていたトロルドを斬り裂いたトロルドの上に、首を振って投げ、大きく吠えて魔法を発動……遠目から見ていてもわかる程綺麗な氷像が出来上がった。


「ガウゥ! ガウ! ガウガウ!」


 一方、フェリーやトロルドの後ろ、オークの方に向かったフェンは、何度も吠えながらオークに噛み付いたり、爪を振るったり、火柱が立つ程の魔法を発動させ……あれ、魔法はオークに当ててないのか?


「ガウゥゥゥゥ!!」


 火の魔法を使ったにも拘らず、全然関係ない場所で火柱を立てているのはともかく、オークを後ろ足で蹴り飛ばしたり、フェリーのように咥えて振り回したりしつつ、大きく吠えて今度は氷の魔法。

 さすがにオーク達が散らばっていたので、全てではないけど、半分程……なんとか動いていたオークを凍らせて、フェンリル以外が動かなくなった。


「やっぱり、フェンリルは凄いなぁ……あっという間だ。足止めしたり、目つぶしみたいな事をする必要、なかったかな?」

「ワフ……ワフワフ?」

「ははは、まぁレオだけでもできるんだろうけどな」


 ラーレも凄かったけど、フェンリルの動きは魔法も連動させる戦い方のようで、離れて見ている俺自身圧倒されてしまっていた。

 チームワーク的な事を試したかったとは言え、最初からフェリーやフェンだけで良かったのかもな。

 なんて考えていると、後ろにいたレオが俺の横に顔を出し、あれくらい自分でもできると主張したので、撫でておく。


「グルゥ~」

「ガウ~」

「お疲れ様、フェリー、フェン。凄かったなー。もちろん、ラーレも凄かったぞ!」

「キィ!」


 言葉はわからないが、「終わった~」と言っている雰囲気の声を出しながら、尻尾を振りつつ戻って来るフェリー達。

 そんなフェリー達を撫でて褒めながら、ラーレも褒めて労う。

 それぞれ、誇らし気に胸を逸らしたり、尻尾をブンブンと振ったり、嬉しそうだ。


「タクミさん、終わったみたいですね」

「うん、もう大丈夫だと思うよ。――だよな、レオ?」

「ワフ!」

「パパー、凄かったねー!」

「そうだなぁ、フェン達もラーレも凄かったなぁ」


 フェリー達を撫でていると、後ろからクレアがリルルの傍を離れて近付いて聞いて来る。

 レオに確認すると、他に魔物がいないと保証するように頷いてくれた。

 クレアと一緒に、リーザも来てフェリーに抱き着きながら、あっという間に魔物を倒したのを喜んでいるのを見て、ブンブン振られている二本の尻尾を見ながら、目を細めて微笑む――。



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