第1036話 魔物を倒す準備をしました



 俺の言葉を聞いて、レオが察知した魔物の方を見て意気込んで鳴くフェンリル達……レオもだけど。

 トロルドはともかく、オークを倒せば食用肉になるから、狩りみたいなものと考えればいいだろう。

 ブレイユ村で何度も経験した事だし、結構慣れた。

 新鮮なお肉と聞いて、フェリーが特にやる気を出して鳴く……というか唸った、ハンバーグを期待しているのかもしれない。

 

「お、見えてきた。って、まだ遠いけど」

「ほんとだ―。なんだか向こうから来てるね、パパ」


 そうこうしている間に、遠くの方で何かがこちらに向かって来ているのが見え始めた。

 まだはっきりと、レオが言った通りのオークやトロルドかは判別しづらいが、そこは疑っていない。

 この段階で、フェリー達にもはっきりとわかったらしく、姿勢を低くしていつでも動けるように備えていた。


「そうだリーザ。リーザはクレアと一緒にリルルの後ろにいてくれ」

「パパ、私もママ達と一緒にお手伝いするよ?」

「んー、でも今は武器も何も持っていないからな。ほら、フェリー達もやる気になっているから、今回はそっちに任せよう」

「はーい、わかったー」


 散歩するだけだったから、俺もリーザも剣やナイフを持って来ていない……荷物になるからな。

 今回はフェンリル達に任せる事にして、リーザには後ろに下がってもらう事にしよう。

 若干、不満そうに頬を膨らませながら、萎れた二本の尻尾を引きずりながらクレアの所へ向かうリーザを見送る。

 ……屋敷に戻ったら、機嫌を直してもらうために遊んであげよう。


「キィー」

「タクミさーん、遠くから魔物が近付いて来ていますよー」

「お、ラーレとティルラちゃん」


 上空から見たのだろう、空から降りてきたラーレが鳴きながらレオの近くに降り立ち、背中のティルラちゃんから報せられる。


「大丈夫、レオが先に魔物がいるのを見つけたから。どうするか、今考えていたんだ」

「そうなんですね」

「タ、タクミ様……わ、私も魔物と……」


 姿勢を低くしたラーレから降りるティルラちゃんに、既に察知していた事を伝える。

 さらに、ティルラちゃんに手伝ってもらいながら、ヨロヨロと降りてきたのはヨハンナさん。

 大分、空を飛んで平衡感覚がなくなってしまっている様子だ……その状態で剣を抜くのは、危なっかしい。


「ヨハンナさんは、もしものためにクレアと一緒に。万が一もなさそうですけど、一応護衛としていて下さい」

「か、畏まりました~……」

「大丈夫かな? まぁ、あの状態で剣を抜かなければなんとかなるか」


 ヨロヨロしているので、抜き身の剣を持ったら危険そうだけど、クレアやリルルと一緒にいれば問題ないだろう、多分。


「私はどうしましょう?」

「俺と一緒に鍛錬の成果を……と言いたいけど、それは前に森でやったし、剣も持っていないから今回はヨハンナさんと一緒かな? あ、ラーレを貸してくれるかな?」

「はい、わかりました。ラーレ、タクミさんと一緒に魔物をお願いします」

「キィ!」


 ヨハンナさんの後姿を見送りながら、首を傾げるティルラちゃんも、今回は見学していてもらおう。

 ついでだし、安全に済ませるためにラーレを貸してもらう許可ももらう。

 鞍を付けたままのラーレは、片方翼を曲げて敬礼みたいにしているから、指示に従ってくれそうだ。


「って、なんだか俺が皆の司令塔みたいになっているけど……」

「ワフ。ワフ……」

「今更って言うなよ、レオ。まぁいいか……ふぅ」


 クレアにここは任せてみたいな事を言ったし、レオやフェンリル達に協力してもらう以上、俺が指示を出す役になるのは仕方ないのかもしれないけどな。

 溜め息を吐くレオをジト目で見た後、短く息を吐いて考える。

 とはいえ、レオやフェンリル達に任せれば十分過ぎるので、考え込む必要もないんだけど……どうせなら、皆で協力できるってところを見せたい。

 俺が見たいだけでもあるけど。


「グルゥ?」

「いや、もうちょっと待ってくれフェリー」


 右前足を上げて、やる気を見せるフェリーを止める。

 着実に近付いて来ている魔物達は、トロルド二体を先頭に、後ろからオークが五体。

 数が数えられるくらいの距離になっているけど、さすがにまだまだ遠い。


「……そうだな。ラーレ、あのトロルド達を押しとどめるってできるか?」

「キィ!」


 両の翼を広げて鳴くラーレは、簡単にできると言っているようだ。


「問題ないっと。それじゃ、俺がまずあいつらの動きを鈍らせるから、ラーレが押しとどめて、フェリーとフェンが飛びかかって止め。これでどうだ?」

「グルゥ!」

「ガウ!」

「キィ!」


 ちょっと試したい事があるので、先制は俺が引き受ける事にして、流れを皆に説明。

 それぞれ、やる気のある返事で頷いてくれた。


「ワフゥ?」

「あー、レオは……そうだな。もし魔物が漏れて俺達の所まで来たら、それを倒したり、逃げるのに備えていて欲しい」


 俺に向かって首を傾げるレオ。

 レオが行ったら、多分フェンリル達すら何かをする前に決着がつきそうだから、今回はお預けだ。

 とはいえそれをそのまま伝えたら、リーザみたいに拗ねてしまいそうなので、俺を守る役目という事にしておいた。


「ワフ……ワフワフ」

「ははは、確かに逃げる必要はないんだろうけどな。とにかくレオは一緒にいて、フェンリル達の頑張りを見守ろう」


 レオがいれば、もしこちらに魔物が来ても逃げる必要はないが、一応そういう事で。


「ワフ。……ガウ!」

「キィ!」

「グル!」

「ガウ!」

「こらこらレオ、あんまり強く言わなくてもいいんだぞ」


 俺に頷いた跡、ラーレ、フェリー、フェンに向かって吠えたレオ。

 それぞれ身を固くして返事をするラーレ達……レオが発破をかけたってところだな。

 ニュアンス的には、「力を見せつけろ!」と言っている感じだったけど、そこまで大袈裟にしなくてもいいだろうに。

 俺が見守ると言ったから、監視するみたいな気分なのかもしれない。


「さてさて、それじゃラーレとフェリー達はもう少し備えていてくれ。まずは俺が……」

「ワフゥ?」

「大丈夫、剣はもっていないから近付く気はないし、危ない事はしないよ」


 俺の指示通り、近付いて来る魔物達を見て備えるラーレ達。

 まずは先制をするため……というより試したい事を実施するため、レオ達の前に出て魔物の方を見据える。

 そんな俺を心配したのか、レオが後ろで鳴いたが大丈夫だ、剣も刀もないので近付いて戦闘をする気はない。

 試したい事と言っても、特に危険はないしある程度距離がある状態でできる事だからな――。



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