第1038話 料理としてのお肉が食べたいようでした



「魔物に立ち向かうタクミさんも凄かったのですけど、ラーレもフェリー達も……やはりカッパーイーグルとフェンリルは、凄まじいのですね。なんというか、ただただ凄い、凄まじいという言葉しか出ません」

「そうだね……俺はいつもの事を危険がないようにやっただけだから、ともかくとして。ラーレもフェリー達も、凄いよ」


 戻ってきた時の余裕の表情や、ラーレの様子を見るに、皆まだまだ全力というわけじゃないみたいだし、とにかく自分の語彙力が情けなくなるくらい、凄いとしか言葉が出ない。

 ほとんど奇襲のような形だったけど、それでもあの一瞬でトロルド二体にオーク五体を全滅させられるなんてなぁ。


「そういえばフェン。どうして最初に使った火の魔法は、全然関係ない場所に放ったんだ? オーク達に当てれば良かったのに」

「ガウ? ガウガウ、ガウ……ガウーガウ!」

「すまんリーザ、なんて言っているんだ?」

「はーい。えっとねー……」


 火柱が立つ程の強力な魔法を使っておきながら、何故当てなかったのか気になっていた事を、フェンに聞く。

 首を傾げた後、何やら説明してくれるフェンだけど……さすがに何を言っているのかわからなかったので、フェリーとじゃれているリーザに通訳を頼んだ。

 それによると、魔法を使う瞬間にオークを食べる事を思い出し、当てないように逸らしたのだとか。

 ついでに、火で燃やすと近くにいる自分の毛も燃えそうだったから、とも。


 それで明後日の方向に火柱が立ったのか……周囲に被害が出てなければいいけど、遠目にも延焼している様子はなさそうだから、大丈夫か。

 でも、結局オークを食べるんだったら、ついでに焼いておけばとも思ったけど……しっかり処理をして調理したいオークの肉が食べたかったんだろう。

 すっかり、ハンバーグとか人間が料理した食べ物に慣れてしまったんだなぁ。

 これもある意味、シャロルさんの言っていた餌付けの成果、みたいなものかな?


「グルゥ、グルルル」

「ガ、ガウ……」


 フェンから事情を聞いた後、フェリーが唸る。

 こちらもリーザに通訳してもらうと、美味しくない状態で焼いていたら駄目だと言うように、叱ったらしい。

 新鮮なお肉とか言って、期待させていたからちゃんとした調理でなく、ただ焼かれただけのオークはお気に召さないのだろう。

 しょんぼりしてしまったフェンは、後でしっかり撫でておこうと思う。


「フェリー達は後で、ヘレーナさん達に美味しい料理を頼んでご褒美を上げるとして……えっと……?」

「もう魔物もいなくなったみたいですから、大丈夫ですよー?」

「あ、え……」

「ほぁ~……」


 リルルの後ろに行っていた使用人候補の皆さん、そちらの様子を窺うと、全員が呆然としていた。

 ティルラちゃんがヨハンナさんと一緒に、声を掛けたり顔の前で手を振ったりしても、気付く様子はない。

 というかヨハンナさん、顔色が良くなっているからラーレに乗った影響は、もう大丈夫なのか。

 長時間乗っていたわけじゃないから、すぐに回復したのかもしれない。


「まぁ、フェンリル達の動きに、驚いてしまったんでしょう」

「みたいだね。うーん……レオ、一度軽く吠えてくれるか? あんまり大きくなくていいから……それと、吠える方向は別の皆のいない所にな?」

「ワフ。……ガウー!」

「はっ!?」

「ひぃ!」

「な、何が!?」

「あ、新たな魔物が!?」


 苦笑しつつ、俺の横から使用人候補さん達の様子を見るクレア。

 確かに、初めて見るとフェンリル達の動きは凄まじかったから、呆然としてしまうのもわからなくもない。

 俺は、先にレオの動きを見たりしていたから平気だけど……鍛錬にも付き合ってもあったりしているからなぁ。

 ともあれ、そのままでにはしておけないので、レオに頼んで吠えてもらう。


 明後日の方向に向かって吠えたレオの声に、使用人候補の皆が体を大きく震わせた。

 新しい魔物じゃないですから、安心して下さいねー。


「フェリーもフェンも……ラーレも凄かったですね、タクミ様!」

「そ、そうですね」


 一番最初に、怯える気配すら見せずに正気に戻ったのは、チタさん。

 すぐにフェリー達の方に駆け寄りつつ、興奮した様子で声を上げた。

 呆然としていたのにすぐこれとは……まぁ、元々フェンリル達を怖がっていなかったからってのも、あるかもしれない。


「とにかく、魔物は倒したので後片付けを……というよりも先に、屋敷に戻りましょうか」


 フェリー達が倒した魔物の数は、全部で七体だから、さすがにここにいる人達だけで片付けるのは手間だ。

 運ぶにしても、部分的にはともかくあまり多くを運べないし……レオ達に咥えてもらったとしても、帰りに走ってもらう事を考えたら、ちょっと無理をさせてしまうからな。

 ……半分以上、カチコチに凍っていて冷たいだろうし。

 屋敷に戻って、任せるなり準備してから片付けるなりをした方がいいと思い、皆に声をかける。


「そうですね。後片付けは屋敷の者に任せます。それとタクミさん?」

「ん、どうしたんだい、クレア?」


 頷いたクレアだったけど、何やら俺を潤んだ瞳で見上げる。

 どうしたんだろうか?


「フェリーやフェン、ラーレに指示を出して的確に魔物を仕留め、私や他の者達に一切の被害を出させない指揮、見事でした」

「いやぁ……ほとんどフェリー達やラーレ任せだったから、指揮なんて大層な事じゃないけど……」

「いえ、フェンリル達がタクミさんに従ったのは、きっと指示が的確だったからでしょう。もしかすると、タクミさんは軍を率いる将の素質があるのかもしれません」


 確かに色々指示を出したのは俺だけど、さすがにクレアの誉め言葉は大袈裟過ぎる。

 オークやトロルドに対して、こちらのフェンリル達やラーレが戦力過剰だったし、将の資質なんてなくてもどうにでもなっただろうからなぁ。


「ワフ」

「パパも凄いよねー」


 クレアに対し、苦笑してしまう俺とは違って、なぜかレオが誇らしそうにしていたり、リーザが喜んでいた。


「多分、フェンリル達だったから……だと思うよ。誰が指示をしても同じ結果だっただろうから」

「そのフェンリル達が、タクミさんの指示に従っているのは、誇るべきだと思います。というよりです、タクミさん以外だとフェンリル達に指示を出す、という考えそのものが出てきませんよ?」

「そんなものかなぁ……?」

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