第1008話 ゴムの使用は考える事が色々ありそうでした



 全員のチューインガムお試しが終わって、噛んでいた物を回収。

 ある程度噛み続けると、味がなくなって行くのは俺が知っているガムと同じだった。

 ただ、回収する時口から物を出す……という部分でクレアを始めとした女性達が、激しく抗議。

 一度口に入れた物、しかもしばらく咀嚼した物を出すというのは、恥ずかしい事だという認識からだ。


 まぁ、そりゃそうか。

 ガムの回収は布だとなんとなく嫌だったので、A4くらいの紙を持って来てもらい、小さくちぎってそこに出してもらう。

 抗議していた女性達には、誰にも見られないよう隠れて出してもらう。

 嫌がるからといっても、飲み込むよりはいいと思う。


「砂糖を使う菓子の代用品、と考えればそれなりに需要はあるかと思いましたが、厳しいかもしれませんな?」

「そうですね。あと、噛んだ後のガムは何かに包んで捨てるのが一番なんですが……布にしても紙にしても、何かを使いますからそちらに費用が掛かります」


 クレア達が噛んだガムを、恥ずかしそうにしながら紙に包み、メイドさんが集めて捨てに行くのを見つつ、セバスチャンさんと話す。

 噛んだ後のガムは、包み紙とかがなければべったりとくっ付いてしまうからなぁ……マナーの悪い人とかは、そこらに吐き出して地面にくっ付き、剥がすのに苦労するとか、日本でもよく問題になっていたし。

 もし販売するなら、包み紙などに包んで売ればいいとは思うけど、それはそれで費用が掛かる。

 技術の発達か、上下水道のような誰かの知識か、紙や布はそれなりに安い物ではあるんだけど、当然タダじゃない。


 印刷技術とかもそれなりにあるようなんだけど、それでも数百ページからなる本一冊は、銀貨一枚……つまり日本だと一万円とかする物だってあるらしい。

 プレミア価格とかではなく、それが平均的な価格だそうだ。

 布を多く使う服とかは、ピンからキリらしいけど大量生産する技術があるらしく、オーダーメイドのように手縫いで仕立てる物じゃなければ、新品でも安いけど。

 それでも、全身を買い揃えると銀貨が必要だし、一般家庭では中古品を買ったり自分達で繕ったりして長く使うのが一般的だとか。


「あと、『雑草栽培』で作った物ですし、感覚的な事なんですけど、大量に作るのはあまり向きませんね。ラモギとかを作るより、ギフトに対する力を使っている気がします」

「ギフトに関しては解明されていない事が多いですから、使える方の感覚が大事ですからな。タクミ様がそう仰るのであれば、無理はすべきではないでしょう」

「はい。まぁ、現状だと販売用の薬草を作りながら、レオに作ったおもちゃが一つか二つ作れるくらいだと感じています」

「ふむ……菓子の代用品として売るにしても、品薄であれば売れれば価格が上がってしまいますな」

「そうなりますね」


 包み紙などもそうだけど、大量に作れないのなら販売して人気が出ても、品薄になれば価格上昇してしまいかねない。

 代用品なのに、本来の砂糖を使ったお菓子とかよりも高くなってしまったら本末転倒だ。


「では、チューインガム、でしたかな? それは一般への販売はしないで置いた方が良さそうです」

「はい。売れるかどうかは別ですけど、その方がいいですね。あと、ゴムには色んな用途が期待できますけど……」

「そちらは、ランジ村での薬草畑に期待しましょう」


 『雑草栽培』で作る植物で、中くらいの力を使う……この世界にないかもしれず、俺が思い浮かべた効果や植物。

 疲労回復薬草や、身体強化薬草、安眠薬草とかもそうなんだけど、屋敷で試験している簡易薬草畑では数を増やす事ができなかった。

 ラモギなどの薬草と違って、こちらは栽培した後放っておいた場合、単純にそのまま枯れてしまうだけ……一応、栄養を吸いきる事はないようで、土が砂漠化する事はないみたいだけど。

 数が増やせないなら、俺が実際に作るしかないわけで……量産するには向いていない。


 薬草畑ができれば、一日で使う『雑草栽培』のリソースを他に割けるので、ゴム茎を作る数を少しは増やせるだろうが、あんまり多くない

 土が悪いとか環境が変われば、という望みもあるのでランジ村の薬草畑でも、試してみるつもりだけどな。


「とりあえず、余裕がある時に少しずつ作って量を溜めて行こうと思います。劣化しづらい物のはずです。まぁ、他に用途があるかを調べながら、ゆっくりやっていきますよ」

「畏まりました。ですが、くれぐれもご無理はなさらず。タクミ様が倒れられたら、レオ様やリーザ様、クレアお嬢様が心配しますからな。もちろん、私も」

「ははは、気を付けます。もう、あの時のような感覚は味わいたくありませんから」


 あの視界が狭まって行く感覚……気を失っている間はともかく、失う瞬間の恐怖は二度と経験したくない。

 レオやクレアさん達にも心配をかけてしまうし、今はリーザもいる。

 無理しないように気を付けよう。


 そうして、とりあえずゴム茎の樹液を溜めて量を少しずつ増やしながら、ほんの少しだけ性質を調べたりなどをする事に決まった。

 チューインガムの方は、今は一般的に販売できそうにないので保留……リーザやティルラちゃんに、絶対飲み込まないよう気を付けてもらいながら、おやつ代わりにするくらいか。



 裏庭でのゴム製作が終わり、夕食やティータイムを終えて、ティルラちゃんとの素振りを終えたあと、風呂で汗を流す。


「はぁ……今日は朝からティルラちゃんに、ラクトスでの注文する物の話、スリッパとかゴムとか、色々あって少し疲れたかな」


 気疲れの方が強い気もする中、風呂から出て温まった体を冷ましながら、部屋へと向かう途中に呟く。

 交代でリーザが風呂に入っていて、今頃ライラさんやゲルダさんに、洗われているだろう。


「そういえば、執事さんが来るのは明後日だったっけ。今日じゃなくて良かった。おっと、早く部屋に戻らないとな、レオだけだと退屈してそうだし」


 俺が雇うかどうかを見定める、本邸からの執事さんが来るのが明後日なのを思い出しつつ、レオが待つ部屋に戻るのを急ぐ。

 色んな事が重なった一日だったけど、執事さんが来る日にちと重ならなかった事だけは良かった。

 もし今日だったら、対応できたかどうか……できても、ゴム茎を考える余裕はなかっただろうな。

 なんて考えつつ、自分の部屋のドアを開けて中へと入った。



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