第1007話 ゴム茎の樹液は慣れ親しんだ物でした



「もしかしたらなんだけど……ガムかもしれない」

「ガム、ですか?」

「ガム……ゴムと名前が似ていますな?」

「正式には? チューインガムって言うんですけど……」


 確かチューインガムって、噛むやゴムって意味だったはず。

 ゴムの種類の中で、樹液に甘味料や香料とかを加えて味や噛む事を楽しむお菓子、と言っていいのかな。

 まぁ、飲み込まないからお腹の足しにはならないし、それで合っていると思う。

 噛む事で、空腹を誤魔化す事はできるだろうけど。


「そういえば、リーザは甘くて美味しいって言っていたし……この匂いからすると、最初から甘味料が加わっているのか?」

「タクミさん、チューイガム? はどういう物なんですか?」

「チューインガム、だね。えっと、これは……」


 クレアの質問に対し、皆にチューインガムについて説明する。

 セバスチャンさんが興味を持つのは予想通りだったけど、リーザやティルラちゃんも目を輝かせながら聞いていた。

 多分、甘い物だからかもしれない。


「噛むだけで、飲み込まない。それは、お菓子と言えるのでしょうか?」

「うーん、一応甘いからお菓子の分類だと俺は考えているけど……お腹にはたまらないね」


 噛むだけ、ただそれだけの単純な物と説明すると、皆微妙そうな表情。

 基本的に、口の中に入れて噛んだりする物は食べ物で、食料について考える機会の多いから、腹の足しになる物の方に興味が持たれるんだろう。


「なぜそのような物が。いえ、何か他に効果があると? 例えば、甘さを感じる事で幸福感を得るため………身体能力を上げるとかですかな?」

「そんなに強い効果はないですよ。まぁ、幸福感はあるかもしれませんけど」


 口に手を当てて難しい表情で考えるセバスチャンさん。

 なんとなく言い方とかが、危険な物っぽくて嫌だけど……甘味を感じるから幸福感は得られるけど。

 どちらかと言うと嗜好品だからな。

 

「一応、効果として眠気覚ましとか、集中力を上げるとかは多少あると思います」


 日本ではあんまり歓迎されないけど、噛む事でそういった効果があると聞いた事がある。

 まぁ、ガムじゃないといけないわけじゃないんだけど。

 あとは、歯を食いしばる時に歯に対する負担を和らげる効果がある……なんて言われていたりするけど、本当に効果があるのかはわからないんだっけ。

 顎を鍛えるとかにも、いいだったかな?


「眠気覚ましと、集中力ですか……」

「噛んだからと言って、必ず効果が実感できるほどはっきりした物じゃないと思うけどね。まぁ、基本的には甘い物ならその甘味を味わうだけと思っていいと思う」

「ふむ。菓子の代用品のような物と考えれば、わからなくもありませんね。砂糖は高級品なので、その代わりでしょうか」

「……そう考えていいかもしれません」


 まぁ、甘いガムには本来甘味料を使うから、砂糖が入っているんだけどね……一部の砂糖不使用ガムとかを除けばだけど。

 リーザの言う通り甘いのなら、ゴム茎の樹液を噛めば砂糖を使わない代用品になるかもしれない。


「タクミさん、試してみたいのですけど……」

「そうだね……さすがに地面に落ちたのはあれだから、新しく作って皆で試してみようか」

「本当ですか!? やったー! リーザちゃんが美味しいって言っていたから、気になっていたんです!」


 お菓子の代用品とか、甘い、と聞いたからだろう、ティルラちゃんが少し申し訳なさそうにしながらも、興味深そうにチラチラと地面のゴムを見ながら聞いて来る。

 ゴム茎は一本からそれなりの量の樹液が取れるみたいだし、それくらいなら『雑草栽培』を使ってもまだ大丈夫だろう。

 両手を上げて喜ぶティルラちゃん以外にも、クレアやライラさん、ミリナちゃんも喜んでいたが……代用品でも、甘いお菓子に釣られたんだと思う。

 セバスチャンさんは、新しい物が試せるからの喜びっぽい。


 レオやフェンリル達、ラーレやコッカー達は興味がないどころか、いらないみたいだ。

 多分、おもちゃでもないし食べ物でもないからだろう。

 ……ガムを噛んで、口をモゴモゴさせているレオ達っていうのもなんか嫌だし、あっちはおもちゃで十分だろう。


「パパ、私はさっき食べちゃったけど……」

「大丈夫、リーザにもちゃんとあげるから。ただし、絶対に飲み込まない事! 噛んで味がなくなったら、飲み込むんじゃなくて口から出して捨てるんだ」


 さっき俺が注意したのと、自分だけ食べた……というか噛んだので、こちらを窺う感じになっているリーザ。

 頭を撫でながら、リーザにもちゃんと試させると約束しつつ、飲み込まないようにと全員に伝える。

 喉に詰まる事だってあるし、これはちゃんと注意しておかないといけない事だからな。



 手っ取り早く、『雑草栽培』でゴム茎を一本だけ作り、さっき使った鍋を洗ってその中に状態変化で樹液を投入。

 熱したらまたゴム特有の匂いが出て、変質してしまうので、そのままで固まるのを待つ。

 ゴムの臭いが出る物を、口の中に入れるのは躊躇われるし、甘い匂いとかがなくなっているのでチューンガムとは別物になっているんじゃないかなと思う。

 ともかく、固まったゴムは熱した物と違い簡単に千切れるので、それぞれ人差し指の第一関節くらいにちぎって、この場にいる人達に試してもらった。


「モゴモゴ……これは確かに、美味しいですね」

「グムグム……このような噛み心地は初めてですな」

「クチャクチャ……ほんとだー、リーザちゃんの言う通り美味しいです!」


 クレアは口を開けないように、セバスチャンさんも同じくだけど、噛む感触を確かめるようにしながらも甘味のおかげか、皆顔を綻ばせている。

 ティルラちゃんは、豪快に口を大きく動かして噛んでいて、甘さや美味しさに喜んでいるようだ。


「ははは、皆楽しそうに噛んでるなぁ。 んー……成る程、添加物の混ざった甘い匂いっぽかったのは、こういう事か」


 他の人もそれぞれ試しているのを眺めながら、俺自身もチューインガムらしき物を口の中に入れて確かめてみる。

 最初に噛んだ瞬間も柔らかいのは、表面をコーティングしていないからだろう。

 味の方は、俺がよく知っているガムその物だった。

 砂糖の甘さではなく、虫歯にならない甘味料とよく聞くあの味だけど、少し甘味が強いかな?


 確かあれって食品添加物だし、嗅いだ事のある匂いだったんだろう。

 甘さと添加物っぽいというのを、別に考えていたのは、こちらの世界にある物じゃないとおもっていたからかもしれない――。



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