第1009話 レオが何やら隠そうとしているようでした



「レオ戻ったぞー。退屈してないか……って、何やってるんだ?」

「ワフ!? ワ、ワフ……ワフー、ワフー!」


 部屋の中では、退屈そうに丸まっているのかなと想像していたんだけど、レオは荷物などが入っている棚の一部に向かっている。

 俺からは、レオのお尻が見えるくらいで何をしているのかは見えないけど、鳴き声から焦っている様子なのは窺えた。


「レオ……?」

「ワ、ワフ! ワフワフ!」

「いや、まだ来ないでって言われても、何をやっているのか……」


 何をしているのかが気になって、レオの顔の方、棚がある場所へと近付く。

 レオからは来ないように鳴き声で言われるけど、どうしてそんなに焦っているのかという方が気になる。

 近付くと、レオが鼻先を棚の一つの引き出しに鼻先を押し込もうとしているのがわかる。

 俺やリーザの荷物があると言っても、そんなに多くないので棚の全てを使っているわけではなく、レオが何かをやっている引き出しは、使っていなかった所だ。


「……ん? レオ、それってさっき作ったゴムのおもちゃだよな、それを引き出しに……? というか、引き出しを開けるって器用だな。今更だけど」

「ワ、ワフ。ワフワフ、ワウ!」


 俺の言葉に、レオが満足したから収めようとした、みたいな感じの鳴き声。

 爪か牙でも使ったのか、レオの体に対してかなり小さいはずの引き出しを一つ、開けていた。

 意外と器用なのは、これまでも似たような事があったからともかくとして、その中に鼻を? と思ったら、作ったばかりのゴムおもちゃを鼻で押し込もうとしていたらしい。


 引き出しは、畳んだ服などが入れられるようになっている程度の大きさで、バスケットボール程はあるゴムおもちゃは入り切りそうにない。

 伸縮性があるから、無理すれば入るのかもしれないけど……形が変形してしまうぞ?


「おもちゃをしまっておこうとしたのか? 別に出したままでもいいのに……仕方ない、俺も手伝って……ん?」

「ワフ……」


 それなりに大きい物だけど、部屋も広いし特に邪魔になる物でもない。

 そこらに置いていてもいいのに、と言葉を掛けながら近寄って手伝おうとすると、引き出しの中がゴムおもちゃの隙間から見えた。

 すぐ横で、何やら気まずそうな鳴き声を出すレオ。

 これって……。


「……ちょっと、ゴムのおもちゃは後でだな。んー……?」


 見つかって観念したのか、押し込もうとしていたゴムのおもちゃから顔を離したので、その隙に取り出して引き出しの中を覗き込む。

 中には、折れた木の枝が数本、リーザが買って破れてしまった布切れ……これは昨日引っ張り合いをしたやつだな。

 他にも、まだ新しいのか腐っていない食べかけのソーセージや、何かの葉っぱがあった。

 ゴムのおもちゃが入らなかったのは、大きさの問題のほかにも枝が引っかかっていたのもあるんだろう。


 いつの間にこんなものを入れていたのか……。

 ちなみに何かの植物は、よく見ると俺が『雑草栽培』で作った薬草で、疲労回復薬草などがいくつか入っていた。

 もちろん、枯れていてもう効果はなさそうだけど。

 ラクトスに卸す薬草はないようだけど、そちらは作ってすぐ薬にするし、簡易薬草畑にある物は執事さん達が見てくれているから、持って来られなかったんだろう。


 疲労回復薬草とかは、もしかすると俺が作って持っておいた物か? 配ったりしていて作った数を正確に把握していないから、気付かなかった。

 一つ作っても複数の葉を採取できたりするから、ってのもある。


「ふむふむ、レオ……?」

「ワ、ワゥ……」


 覗き込んだ引き出しから顔を離し、横にいるレオを呼びながら視線を投げかける。

 レオはレオで、バツが悪いのか俯き加減ながらこちらを上目遣いするように見ていて、小さく鳴いた。


「……どうしてこんな物を、引き出しに入れていたんだ? 百歩譲って木の枝はまだいいとしても、さすがに食べかけのソーセージは駄目だろう。薬草もだけど」


 薬草は枯れただけで今のところ大丈夫そうだけど、ソーセージとか腐ったら変な臭いしそうだ……というか、そもそもに不衛生過ぎる。

 もしかしたらレオは大丈夫なのかもしれないけど、俺やリーザ、部屋を出入りするライラさんとかが、病気になったらどうするんだ。


「ワフ……ワフ、ワウワウ、ワフゥ」


 俺の問いかけに、レオがおどおどとしながら鳴き声で説明される。

 宝物を誰にも見つからないように、隠しておきたかったと言っているようだ。

 うーん、犬っておもちゃとか大事な物を隠す事があるらしいけど……小さかった頃のレオはこんな事しなかったのになぁ。

 シルバーフェンリルになって、考え方というか本能的な部分が変わっているからなのかもしれない。


 それか、周囲に人が多いからってのもあるのか?

 マルチーズの頃は、部屋にいるのは俺とレオだけで、他の人がいる事がなかったので、取られる心配もなかったからな。


「はぁ……なんにしても、引き出しだったらいつか見つかっていたと思うぞ? そのうち誰かが中を見るかもしれないし……」

「ワフ。ワフワフ、ワウワウ」

「まぁ、俺やリーザは棚に物を入れていたりするからな」


 溜め息を吐きつつ、レオに注意。

 言い訳するように鳴くレオによると、俺やリーザが物をしまっているのを見て、自分もと思ったのもあるそうだ。

 この部屋で寝泊まりし始めて日数が経ち、それなりに物が増えて来たから、引き出しを開け閉めしたりする事も多かった。

 それを見たレオが、自分も何かをと思ったのかもしれない。


「それにしてもなぁ、うーん……じゃあ、この引き出しはレオ専用でいい……かどうかは、後でライラさん達に聞くとしてだ。ソーセージとか、せめて生ものは止めなさい」

「ワフ……」


 自由に使っていいとは言われているけど、用途として想定外のような気がするので、許可は後で取るとしても、さすがに腐りそうな物は入れちゃ駄目だ。

 折れた枝は……なんで宝物なのか気になったけど、よく見ればレオと遊ぶ時に投げてキャッチさせた物のようだ。

 遊んで楽しかった物だから、って事かな? まぁ、枝くらいなら大丈夫……かな。

 コッカー達がいてくれるので、虫が付いている心配はほとんどないけど、一応定期的に点検する事にしよう。



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