第1002話 久しぶりに『雑草栽培』で新しい物を作りました



「ふふふ、何か思いついたのですね? タクミさんが考え込む時は、私達では成せない何かを考えている時が多いので」

「適当な事を考えている時もあるけどね……できるかどうかわからないけど、試してみようかなって」


 結構、益体もない事を考えているのが多いと思うけど……今回に限っては確かに、クレア達じゃできない事を考えていた。

 まぁ、俺にできるかどうかは、試してみないとわからないけど。


「ふむ。では試してみましょうか。夕食までの時間もありますからな」

「せ、セバスチャンさん!? いつの間に……」


 微笑むクレアに苦笑していると、ひょこっと俺の後ろから顔を出したセバスチャンさん。

 こういう時のセバスチャンさん、嗅覚なのかなんなのかいつの間にかいる事が多い……侮れないな。

 もしかして、面白そうな事に対するレーダーみたいな物が付いていたり……? 


「タクミさんが考え込んでいる間に、屋敷から出て来ていましたよ? タクミさんは、考え込んでいて気付いていませんでしたけど……」

「そ、そうなんだ」


 俺が思考に没頭して気付かなかっただけらしい。

 教えて欲しかったと思うけど、考え込んでいた俺が悪いな。


「それで、何を試すおつもりで?」


 ニコニコしていて、面白そうな表情をしているセバスチャンさん。


「『雑草栽培』でちょっと。できるかどうか……できない可能性の方が高そうですけど、試すだけならすぐできるのでやってみようかなと」

「成る程。『雑草栽培』でしたら、タクミ様にしかできない事。私達は結果を待つのがよろしいですな」

「そうですね。――レオ、できるかどうかわからないけど……ちょっと待っていてくれ」

「ワフワフ! ハッハッハッハ……」


 まずはできるかどうか試した方が早いだろうと、セバスチャンさん達に言って、レオにも声をかける。

 レオは、期待するように目を輝かせて尻尾を振り、舌を出している……そんなに期待されると、失敗した時に落胆されそうで、ちょっとやりにくいんだがなぁ。


「えーっと……」


 皆から少し離れた所で、目を閉じて意識を集中。

 こういう物があれば……というイメージを始める。

 俺がレオ達から離れた辺りで、何かを始めると思ったんだろう、リーザ達やフェンリル達もこちらを見て様子を窺い始めた。

 ……あんまり注目しないで欲しいが……仕方ない。


「『雑草栽培』は、植物その物の形を知らなくても、新しく作り出す事ができる」


 シェリーが瀕死の重傷を負っていた時の事を思い出す。

 あの時は、この世界にすら存在しているのかもわからない植物を作り出した……見た目はロエそっくりだったけど。

 ともかく、疲労回復薬草もそうだけど、効果を思い浮かべる事でもギフトが発動する。

 ゴムが樹から採れる樹液でと知っていても、実際の樹がどんな物か俺は知らないので、効果をイメージして『雑草栽培』を使えばもしかしたら……というわけだ。


 特殊な効果があるわけではなく、この世界にもあるとわかっている物でもあるので、シェリーの時のように過剰使用で倒れる事はないと思う、多分。

 まぁ、作り過ぎなければ大丈夫のはず。


「よし……」


 頭の中で考えるのは、俺が知っているゴム製品。

 それらの原料となる物……樹液だから、液体を出す植物……その液体が固まれば弾性のある、ゴムになるような物……。

 詳しくないせいか、曖昧な想像だけどこれまでの経験から何かしらの結果は出ると信じる。

 まぁ、ゴムの樹に人の手が入っている植物だとしたら、栽培できないんだけど……その時はその時で、栽培できないという結果が出るって事だ。


 雑草ではなく樹だから栽培できない可能性もあるけど、人の手が入っている植物の可能性もあるわけで。

 それなら、どこかで大々的に作られているのだから、いつかどこかで見つける事もできるかもしれない……前向きに考えればだけどな。

 ともあれ、頭に思い浮かべたまましゃがみ込み、地面に手を付いて『雑草栽培』を使う。


「お……?」


 地面に付いている右手から、土が盛り上がるような感触。

 それと共に、一本の植物が生えて来る……これは成功かな?


「……考えていたのと、少し違うな。けど、想像通りにできたのなら、これがそうなのか」


 十秒ほどで、俺の手を持ち上げながら成長した植物は、考えていたような樹ではなく、一メートルくらいある茎だけの植物だった。

 葉っぱも枝もない、茎だけが空に向かって伸びている……太さは、指二本分ってとこかな。


「成功したのですかな?」

「タクミさん、何を作ったんですか?」


 植物の成長が止まったのを見て、立ち上がる俺。

 それを見たからか、セバスチャンさんとクレアが近付いて聞いて来る。


「思っていたのとは違うんだけど……多分、成功かな? とりあえず、やってみるよ」

「……初めて見る植物ですな?」

「葉を付けない植物というのは、珍しい……のかしら?」


 茎だけの植物を見て、首を傾げるセバスチャンさんとクレア。

 二人が観察している植物を、地面から引き抜く……根っこもないのか。

 茎だけが地面に付き刺さっていた感じなんだな、実際は地面から生えてきたんだけど。


「これを、『雑草栽培』で状態変化を……あ」

「あら?」

「白い液体ですか?」


 茎を手に持ち、いつも薬草に対してやっているように『雑草栽培』での状態変化。

 植物が効果を示す最適な状態にするはずだけど、今回は思い浮かべていたのが曖昧だったせいなのか、茎その物は特に変わった様子はない。

 だけど、その茎全体から白い液体が出て地面に落ちる。

 樹液だとしても、もっとジワッと滲み出る感じだと思ったんだけど……もしかした状態変化のせいかもな。


「……一本で結構な量が採れるんだな。えーっと……うん、考えていた物に近い。セバスチャンさん、クレア、ちょっと持ってみて下さい」


 地面に落ちた樹液……樹じゃないけど面倒だから樹液としておこう。

 白いミルクのような液体は、俺の手を濡らした以外にも、地面に落ちて小さな水溜まりになっている。

 空気に触れたからか、徐々に固まっているようだったので、しゃがんで端の方を触れてみるとぶにゅっとした感触。

 固まり始めている部分から数センチ分を両手に取り、空気を混ぜながら固体化した物を二人に渡した――。



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