第1003話 ゴムらしき物を作る事ができました



「これは……あまり触り心地はよくありませんね……」

「ふむ、初めての感触ですな……」

「もう少し待って、完全に固まると俺が欲しかった物になると思いますよ」


 ゴムにも種類があって、何かを混ぜて固める物もあるらしいけど、ほとんどが空気に触れると凝固するらしい……と聞いた覚えがある。

 もちろん、製品として使えるゴムとは違うけど、『雑草栽培』の効果も加わっているなら、俺の想像通りの物になっていると思う。


「不思議ですね、ぐにゅぐにゅしますけど……少し待つだけで固まってしまいました」

「そうですな。元が白いネバネバした水のような物だったのに、今では握れる程です。ふむ……ほぉ……」


 少しだけ待つと、ほぼほぼ固体と言えるくらいまでになる樹液。

 クレアとセバスチャンさんは、それらを指先でつついたり握ったりして、感触などを確かめているようだ。


「両手で引っ張ったりしてみて下さい。あ、強くするとちぎれてしまうので、軽くです」


 固まったばかりだし、樹液だけだから弾性があると言っても、耐久性は俺の知っている物程じゃなさそうだから、力を入れ過ぎないよう言っておく。


「ほぉ、伸びてもまた元に戻りますな」

「あ、本当だわ。これが、タクミさんの言っていた弾性、でしょうか?」

「俺が知っているのは、もっと伸び縮みするんだけどね。でも、近いものだよ」


 固体化した樹液、ゴムを両手で軽く引っ張って離すを繰り返す二人。

 見ている限り、数センチは伸びているからちゃんとしたゴムのようだ。

 思っていた物ができた喜びもあるけど、一つ気になる事もある。


「スンスン……ワフ? ワフワフ」

「レオもそう思うか? 俺が知っているゴムと、匂いが違うんだよなぁ……」


 レオが近付き、匂いを嗅いで俺に甘い匂いがすると、鳴いて教えてくれる。

 特に騒ぐ様子ではなく、甘い匂いがするのを不思議がっているだけのようなので、危険はな物ではないだろう。

 レオが嗅いだ匂いは、俺も樹液が出た時から感じているんだけど……。


 ゴムって、独特な臭いがするはずなのに、俺が作った物の樹液はその匂いがなく、甘い匂いがする……どういう事だろう?

 似ている性質で、別物なのか? というか、この甘い匂いは知らない人が手に取れば、口に入れそうな……?


「ん? そういえばこの甘い匂いって、どこかで嗅いだ事があるような……?」


 どこだったか……単純な砂糖菓子のような甘い匂いというよりは、添加物の混ざったような甘い匂いだ。

 少なくとも、この世界に来てからは嗅いだ事がないと思うけど、だったら日本でとなる。


「うーん……?」

「タクミさん、これ感触に慣れると面白いですね」

「伸びたり縮んだりと、これほどまでに伸縮性に富んだ物は、他になさそうですなぁ」

「あ、そうだね。えっと、これはゴムって言って……」


 クレア達が伸ばして遊んでいるのを見て、また考え込みそうになるのを辞める。

 ゴムが新しい素材で、伸縮性があって色んな用途に使える事を教えた。


「ライラさん、すみませんけど厨房から鍋を持って来てもらえますか? できれば、使い古されたような……捨てても構わないのがあれば、助かります」

「畏まりました、少々お待ち下さい」


 ゴムの事を伝えた後、感心しながら引っ張って戻すを繰り返すセバスチャンさんを余所に、ライラさんに頼んで鍋を持ってきてもらうようお願いする。

 できるかどうかわからないけど、本当に『雑草栽培』の効果で俺が考えている物が作れたのだとしたら……。

 俺が知っているゴムが樹液を採取してからどう加工しているのか、詳細までは調べた事がないのでわからないけど、熱で溶ける性質があるはずだ……アイロンで溶かして、とかなんとなく聞いた事がある。

 まぁ、混ぜる物などにもよるんだろうし、直火に当てたりはできないけど。


「ワフ?」

「タクミさん、鍋なんてどうするんですか?」


 レオとクレアが、同じ方向に首を傾げて聞いて来る。


「液体を成形するのに使おうかと。できるかはわからないけど、試してみたいんだ。これができれば、レオのおもちゃもできるかもしれないぞ?」

「ワフ!? ワフワフー!」


 おもちゃと聞いて、尻尾を振りながら喜ぶレオ。

 もし考えた通りにできなくても、ゴムそのものはほぼできたようなものだから、色々と試せばレオ用のおもちゃもできるだろう。

 期待を外されてレオが落ち込ませる事はなさそうだ。


「グルゥ?」

「パパ、フェリー達も興味があるみたいだよ?」

「あぁ、もしレオのおもちゃができれば、フェリー達のも用意しないとな。順番になってしまうけど……」


 こちらを見ていたフェリー達が、いつの間にか近くまで来ていたようで、フェリーの鳴き声をリーザが通訳してくれる。

 どうやら、俺達が話している事は聞いていて、レオのおもちゃが自分達にも……と興味があるようだ。

 噛んで遊べる物が欲しいのは、レオもフェンリル達も一緒かな。


「さて、ライラさんを待つ間に……もっと作っておこう」

「大丈夫なのですか? 『雑草栽培』を使い過ぎたりは……見た事もない植物でしたし」


 ライラさんに鍋を取ってきてもらう間に、もっとゴムの樹……ゴム茎かな? を作っておこうと思い、しゃがみ込む。

 そんな俺に、クレアがゴムをむにゅむにゅさせながら心配そうに聞いて来る。

 ……ゴムの感触最初はちょっと微妙な感じだったのに、気に入ったのかな?


「断言はできないんだけど、多分大丈夫かな。感覚的な事なんだけど、これくらいなら無理じゃないって思うんだ」


 本当に感覚的な事過ぎて、絶対大丈夫とは言えないんだけど……『雑草栽培』を使い慣れたおかげなのかなんなのか、このくらいなら大丈夫、これ以上は過剰使用で倒れる危険がある……というのがわかるようになっていた。

 まぁ、ギフトを意識した時に、ちょっとした薄い膜が張られているような感覚で、それがあるとこれ以上は危ないんだな……程度のものなんだけど。

 だから、一度の使用で限界を超える場合はその感覚には頼れない。

 でもさっき使った時に、疲労回復の薬草を作った時のような感じだったから、連続で作っても大丈夫な気がするんだ……これも結局感覚頼りで、断言はできないんだけども。




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