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第990話 リーザが買った物を見せてもらいました
第990話 リーザが買った物を見せてもらいました
「この布にね、地面に溜まったお水を乗せると、下から綺麗になった水が出てくるんだよ」
「え……それって……」
「お水を飲むために、お爺ちゃんに教えてもらったの!」
泥水を飲むための簡易的なろ過装置……みたいな感じか?
レインドルフさんから教えてもらったって事は、サバイバル知識みたいな物だろうか? 旅をしていた人らしいから、そういった知識は豊富そうではある。
けど……。
「リーザ、お水は外ならレオが出してくれるし、屋敷とかでも飲ませてくれるだろ?」
「うん……だけど、こういった備えは重要だってお爺ちゃんが言ってた。パパに買ってもらった服、汚したくないし……」
「あー、まぁ大事にしてくれるのは嬉しいんだけどな……」
以前、リーザはレオが出してくれた飲める水を飲んで、美味しいと言って感動していた。
その時に聞いたけど、比喩ではなく泥水を啜って生活していた時期もあったとか。
だから、備えとして水をいつでも飲めるようにするため、縫い目が細かい布を欲しがったんだろうけどなぁ。
「それから、これは火がつけられるの!」
「火打ち石、じゃないか。魔法具、なのかな?」
リーザが手に取って、嬉しそうに教えてくれるのは、二つで一組になった石。
二つを合わせると、キャンドルの魔法くらいの火が一瞬だけ出て、すぐに消えた。
一瞬火打ち石かと思ったけど、あれは石に火打ち金(ひうちがね)を打ち合わせて火花が出る物だし、石が二つってわけじゃないはず。
「家庭の生活で火を起こす際、魔法を使う方も多いですが、こうした魔法具を使う方もいるので、商品として置いております。値段も安いので誰でも買い求めやすいのですよ」
火花どころか、火が出た事を考えると、魔法具っぽいと思って首を傾げていると、ハインさんが教えてくれた。
キャンドルの魔法は、セバスチャンさんが見本として見せてくれた事があって、生活などにも使われている話を聞いたけど、魔法を使わなくても簡単に魔法具で火を付ける人もいるらしい。
これも、タイニーライトみたいに安く買える物らしいので、それなりに人気商品みたいだ。
「そ、そうですか……うーん」
なんだろう、リーザの欲しがる物がサバイバル方面に偏り過ぎている気がする。
もしかして、スラムで生活していた経験から、なのか?
「駄目だった、パパ?」
おっと、渋い顔をしてしまったせいか、リーザが窺うように見ている。
「あ、いや、そうじゃないんだ。ちょっと予想外だっただけで……リーザが好きな物を買っていいんだし、そのためのお小遣いだから」
欲しい物を買っていいと言ったんだから、よっぽどの事でなければ怒ったりはしない。
そのよっぽどの事というのは、考えておきながらリーザが買って来る想像はできないんだけど。
「良かった……パパに怒られるかと思った。ティルラお姉ちゃんやライラお姉さんも、リーザが欲しい物を買えば、パパ怒らないって言ってたけど」
「そうなんだ?」
「はい、リーザちゃんがジッと見ているだけだったので、誰も怒らないから好きに買っていいんだよって言いました」
「リーザ様は、タクミ様からもらったお金を本当に使っていいのか、悩んでおられましたから」
リーザが買い物をするのを、ティルラちゃんやライラさんも応援してくれたらしい。
二人に聞いてみると、もらったお金をどうするか悩んでいるリーザの背中を押してくれたみたいだな。
店員さんだけだとこうはいかなかっただろうから、ついて行ってもらって正解だった。
ティルラちゃんは、自分が欲しい物も買えて嬉しそうだし。
「あれ? そういえばまだ袋の中に入っているようだけど?」
「あ、これはね……」
空いている袋から中身がチラッと見えて、袋とは違う色……白い何かが見えた、まだ買った物の紹介途中だったようだ。
リーザに聞いてみると、すぐに取り出して見せてくれる。
「傷を負った部分を保護したり、固定する時に使う布のようですね」
「んー……包帯?」
「えっとね、こっちのお水のための布と違って……」
袋から出てきたのは、白くて縫い目が荒く、細長い布が細い棒に巻かれている物だった。
クレアがそれを見ながら、用途を教えてくれるけど……見たまんま包帯だった。
よく薬局とかでも売っている物、そのままだ。
首を傾げる俺に、リーザが包帯の端を引っ張って伸縮させながら、説明してくれる。
水をろ過するための布はそれ専用で、包帯は怪我をする事が多かったけど、これまで服の端切れとかを使っていて綺麗な物が欲しかったから、だそうだ。
初めて会った時もそうだったけど、生傷が多かったからなぁ……傷を保護するのに使いたかったんだろう。
今では、日常で怪我をする事なんてほとんどないのに。
「ナイフは前にパパが買ってくれたから、今リーザが欲しい物はこれだよ」
「そ、そうか……やっぱり、これまでの経験が原因なんだろうなぁ」
嬉しそうに言うリーザに頷きながら、小さく呟く。
想像では、ティルラちゃんのようなウルフをかたどった物とか、アクセサリーとかを買うのかと思っていた。
まぁ、女の子だからって先入観があるからだけど。
ともかく、サバイバルをするかどうかはともかくとして、リーザはスラムで必死に生きていたのだから、その時の事が心の奥底にあるんだろう。
すぐにどうこうできるわけじゃないし、こういうのは、時間をかけてゆっくりと新しい趣味に目覚めてもらえばいいか。
「あ、二人共。お小遣いは足りたの?」
「はい、大丈夫です」
「うん、リーザも大丈夫だった。パパ、はい」
考え込む俺とは別に、クレアが二人にお金が足りたのかを聞く。
二人共頷いたので、大丈夫だったようけど、リーザがスカートのポケットから何かを取り出し、俺に差し出してくる。
「ん?」
「買った後に、残ったお金だよ、パパ」
リーザが出したのは、銅貨が十枚程……まだポケットが膨れているから、おつりはまだあるようだ。
「これは、リーザにあげたお小遣いなんだから、リーザが持っていればいいんだよ」
多分、リーザは好きな物を買っても、おつりは返さないといけないと思ったんだろう。
お使いを頼んだと言わけじゃないのだから、おつりを返す必要はないんだけど、リーザには小遣いは自分の物で自由に、という考えがないのかもしれない。
これまで小遣いをもらった事がなければ、わからないのも無理ないか。
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