第984話 リーザの好きな魔法具を買う事にしました



「ねぇねぇお婆ちゃん。あれはあるの?」

「あれかい? あるけど……さすがにいらないんじゃないかねぇ?」

「リーザ、イザベルさん。あれってなんの事ですか?」


 俺達が話している間、ティルラちゃんとおとなしく座っていたリーザが、イザベルさんの横に行って袖を引っ張りながら聞く。

 何やらおねだりしている雰囲気もあるが……あれってなんだろう?


「小さい光を出す魔法具さね。部屋の明りとして使うには弱いんだよ。ただ、安いから一部では人気があってね。タクミやクレア様が魔法具を揃える家なら、必要ないと思うんだけどねぇ。……これだよ」


 首を傾げながらも、小物っぽい物が入れられている箱を漁り、中から数センチ程の木でてきた物を出すイザベルさん。

 指の第一関節くらいの大きさで、先は丸く膨らんでいるように見えて、縦長でテーブルに置いた下部分は平らになっている……豆電球?

 いや、木でできているし、形がちょっと似ているというだけだけども。


「これはね、こうやって使うんだよ」

「リーザ、この光好きなの。暗くても安心できるから」

「私は初めて見ましたね。でも、小さい光が可愛くて綺麗ですね」

「そうですね……」


 テーブルに立てて置いた豆電球に似ている魔法具の先、丸い部分をイザベルさんが指先で触れると、ぼんやりとした白い光を放つ。

 照明が少なく、窓も塞がれている店内は薄暗いのだけど、その中でもおぼろげな光で直視できるくらい、ほんのり光っているくらいだ。

 喜ぶリーザに微笑みながら、可愛いと目を細めるクレアの言う通り、確かに綺麗ではあるんだけど……これじゃ確かに照明としては使えないか、ろうそくの火の方が明るいくらいだし。


「部屋のインテリアにはいいのかな? ……一部に人気って言っていましたけど、部屋の飾りとして使うんですか?」


 文字が読める程の明りでもないので心許ないけど、夜に使うインテリアとしてなら、ちょっとした雰囲気が出る物として使えるかもしれない。


「タイニーライトって魔法具なんだけど、ほぼ失敗作のような物で、そんな使われ方はしないさね。けど、魔法具を買えない人でも買える魔法具として人気なのさ。あとは、薪やろうそくすら満足に使えないのとかにね。こんなのでも、夜に何も明りがないよりはってのや、安心感があるって言うんで、よく売れるさね」

「確かに、真っ暗よりはマシですけど。成る程、この安さなら誰でも買えますね」


 しかし、イザベルさんは首を振って否定。

 値札を出しながら教えてくれる内容に、納得しながらも少し驚く。

 金額は、鉄貨五十枚……魔法具というより、木の値段がほとんどみたいな物のようだ。

 銅貨一枚ですらなく鉄貨で、大体五十円くらいなら誰でも買えると言えるだろう。


「タクミさん、リーザちゃんがこれを知っているって事は……」

「多分、スラムに住んでいた時にだと思う」

「そう、ですよね……」


 クレアが難しい表情で聞いてくるのに対して頷く。

 俺がイザベルさんの店にリーザを連れて来た時、タイニーライトの話をする事はなかったから、知っているのならそれ以前。

 リーザの反応を見るに、光を楽しむというよりも安心感を得るためみたいだし……ろうそくすら買えずに、一切の明りがない夜中の屋内では、それでも活躍したんだろうと想像できる。

 人って、完全な暗闇よりも少しくらいは光があった方が安心できるから。


「じゃあリーザ、それを買って帰ろうか?」

「いいの、パパ?」


 ジーっとタイニーライトを見ているリーザに、買おうかと提案する。

 スラムでの暮らしを思い出させる事になるかもしれないけど、レインドルフさんの事も考えると、まったく触れずにおくのもどうかと思う。

 タイニーライト自体は、辛い記憶とかよりも安心させてくれた思い出の方が強いみたいだしな。


「あぁ、リーザが好きな物みたいだしな。特に高い物でもないし……」

「よろしいのですか、タクミさん?」

「リーザの様子を見れば、多分大丈夫だと思うよ」

「……リーザちゃん、嬉しそうですね」


 首を傾げているリーザに頷いて、買う事を決める……鉄貨五十枚なら大した出費じゃない。

 小声で、隣に座るクレアさんから聞かれたのは、リーザを心配しての事だろう。

 同じく小声で答えてリーザの方を示すと、タイニーライトを手に取って喜んでいた。

 クレアはそれを見て、目を細めて微笑む。


「タイニーライトを買うのなら、こういうのもあるよ?」

「へぇ~、いろんな色の光を出せるんですね」

「綺麗ですね」

「おぉ~すごいです」

「リーザ、初めて見たー」


 イザベルさんが、さらに追加でいくつかのタイニーライトを取り出す。

 それぞれに指先を当てて光を放つと、紫、黄、緑等々……様々な色に発光した。

 感心する俺と、クレアやティルラちゃん、リーザも喜んでいる様子。


「クレア様達は、こういった物にはこれまで縁がなかったんでしょうねぇ。――で、どうだい? いくつか買って、並べてみるのもいいかもしれないよ?」

「商売上手ですね、イザベルさん」

「安物だから、褒められても微妙なだけさね」


 先程俺が、部屋に飾るって言ったからだろう、関心するクレア達を見て今並べて鑑賞したら綺麗じゃないか、と今思いついたんだと思う。

 売れそうだから、さらに数を売り込む……まぁ、数が売れても利益は合ってないようなものかもしれないけど。


「だったらそうですね……とりあえず持って帰れる分を、三つもらえますか?」

「姉様、私も欲しいです。買ってもいいですか?」

「ティルラは、お小遣いから買えばいいわね。私も買うわ、イザベル」


 色の違いがあるなら複数あっても見て楽しめると考え、三つ買う事を決める。

 ティルラちゃんやクレアも気に入ったようで、同じく購入を決める。

 というか、ティルラちゃんはお小遣い制だったんだな……。


「パパ、三つ買うの?」

「白以外にも違う色があるみたいだしな。それに、リーザと俺、レオでそれぞれ一つずつ持てば、お揃いだろ?」

「あ! パパやママとお揃い!」


 首を傾げるリーザに、複数買う意図を説明。

 白をレオ、青を俺、リーザを赤や桃色、みたいに別々の色を買う事もできるし、並べて発光させると楽しそうだからな……色はこれから考えるけど。

 皆でタイニーライトを持ってお揃い、ともできるしな……リーザは手を挙げて喜んでいた――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る