第983話 イザベルさんのお店で相談しました



「ツルツルな人、泣いてたね?」

「泣いていましたね」

「ワフワフ~」


 カレスさんの店から、イザベルさんの店へと向かう途中で、ニックを見ていたリーザとティルラちゃんが、レオの背中で話している。

 二人共、大人の男性が泣いているのが珍しかったんだろう、というかツルツルな人って……確かにニックはスキンヘッドだけども。

 レオも話に参加……ではなく、こちらは散歩気分で声が漏れているだけだな。


「どこか痛かったのかな?」

「どうなんでしょう? お腹が痛かったのかもしれません。でも、男の人が泣くの初めて見ました。男の子ならよく、泣いている……? 泣かされている? のを見ますけど」

「ははは……二人共、ニックはどこか痛かったわけじゃなくてね、感動して泣いていたんだよ」


 首を傾げ合う二人に、笑いながら痛みで鳴いているわけじゃない事を教える。

 ティルラちゃんが言っているのは、孤児院とか子供達が集まった時に見た事だろうけど……ティルラちゃんやリーザが男の子を泣かせてしまうのを想像してしまった。

 二人共オークに勝てるくらい活発だからなぁ、理不尽な事で泣かせたりはしないだろうけど。



 リーザとティルラちゃんに、ニックが泣いていた理由などを話しているうちに、イザベルさんの魔法具商店に到着。

 相変わらず怪しい雰囲気を放って、周囲の建物からは一線を画すお店に入り、イザベルさんに挨拶。


「すみません、イザベルさん。急に大勢で来てしまって」


 俺やリーザ、ティルラちゃんやクレアにセバスチャンさんやライラさんと、大勢で来た事をまず謝った。

 レオやシェリーは外でヨハンナさん達と待機だけど、さすがに少しだけ店内が手狭に感じる。


「構やしないさね。店を構えているんだ、客としてくる分には多い方がいいだろうからね。……ティルラ様はリーザと仲良さそうだねぇ?」

「はい、リーザちゃんとは一緒に遊んだりしています!」

「うん。ティルラお姉ちゃん、リーザと一緒にいてくれて楽しいよー!」

「そうかそうか、良かったねぇ」


 リーザやティルラちゃんが仲良さそうにしているのを、目を細めて嬉しそうに見ながら、イザベルさんは歓迎してくれる。


「相変わらず美味しいねぇ。――それで、今日はどうしたんだい?」


 ライラさんがお店の奥を借りて、イザベルさんのも含めて皆のお茶を入れてくれる。

 そのお茶を飲んでから、イザベルさんがリーザを見ながら聞く。


「今日は、新しい家に備え付ける魔法具の相談に来たの」

「新しい家ですか? そうですか……ついにクレア様も。おめでたい事です。お相手はやはりここに来ているタクミですかねぇ?」

「イザベル、何を勘違いして……」

「私も感慨深いですな……」

「いや、セバスチャンさんもそっちに乗らないで下さい」


 クレアが答えると、勘違いしたイザベルさんがうんうんと頷いた後、俺へと視線をやる。

 新しい家と言ったので、新居からの連想で結婚……なんて想像をしたんだろう。

 勘違いを正そうとしたクレアの言葉を遮り、セバスチャンさんまで目を閉じて頷いている……わざと勘違いを助長はしないよう、注意しておく。


「とにかく、そうじゃなくて……ランジ村で暮らすために、家を作っているんです」

「なんだい、違うのかい……」


 話が逸れそうなので、本題を切り出すために用件を簡単に伝える。

 このまま続けても、どういう事か気付き始めたクレアが顔を赤くし始めているし、収拾がつかなくなりそうだからな。

 イザベルさんは少し残念そうだけど。

 というか、薬草畑の事は以前にも話したはずなんだけど……多分、セバスチャンさんと同じようにわざとなんだろう。


「で、どんな魔法具が必要なんだい? 新しい家という事は、色々必要なんだろう?」

「そうですね……」

「あ、あれも欲しいですよね」

「一人二人ではなく、多くの者が住みますし、訪ねて来る者もいますからな……」


 本題に入り、イザベルさんと俺、クレアとセバスチャンとで魔法具の相談を始める。

 新しい家に必要な魔法具、それは生活用品というか家具と似たようなもので……わかりやすく言うと、生活家電とかかな。

 照明とかもそうで、それなりに裕福な家庭では魔法具の家具を使う事が多いそうだ。

 照明……屋敷では人が集まる場所や広い部屋ではシャンデリアがあるけど、実はあれも魔法具。


 ろうそく型になっている魔法具を取り付けたもので、電球の代わりに光を放つようになっている。

 魔法具にも色々あるらしいけど、使われる事の多い家具の魔法具は、定期的に……大体一日おきくらいに、魔力を注ぐ事で効果を発揮するとか。

 屋敷では、使用人さんがやってくれている。

 仕組みはわからないけど、電気の代わりを魔力が補ってくれているんだろうと思う。


「厨房に関しては、ヘレーナに聞いた方がいいですね?」

「そうだね……厨房には何度も入った事があるから、少しはわかるけど。でもさすがに、日頃から料理を作っているわけじゃないから……」


 厨房の器具にも魔法具があるみたいだけど、さすがにそこは専門家に聞いた方がいいため、後日また相談する事にした。

 厨房の魔法具では、調理する際の火を出す魔法具がある。

 コンロみたいに火力調節を細かくできたりはしないんだけど、強火用や弱火用とかもあるらしい。

 ブレイユ村では薪を使った竈で、屋敷にもあるんだけど、薪という燃料を消費しない分魔法具の方が燃費がいいのだそうだ……まぁ、魔力さえ注げば火が点くんだから、燃料費なんてないような物だからな。


 ただ、魔法具そのものの値段が高いので、導入できる家も一部だけらしい。

 金貨二十枚前後とか……日本円だと二百万くらいだ。

 それを強火と弱火で分けて幾つか買うとなれば、なおさら手が出にくい物だろう。

 魔法具は簡単に大量生産できる物ではないため、値段が高くなるのは仕方ない……使えば便利だろうけど。

 

「いくつかはこの店に在庫として持っているけど、さすがに規模が大きいからねぇ。一度に全部は用意できないよ?」

「それはわかっておりますよ。まだ家が完成してもいませんから、とりあえずの相談です」


 相談中、眉根を寄せて言うイザベルさんに、セバスチャンさんが言う。

 魔法具は色んな種類があるらしいけど、数を用意するのには時間がかかるから、何度か相談する必要がある事を見越して、今回の訪問だ。

 本当は、俺が雇う執事さんが決まってから、一緒に来る予定だったりしたんだけど……皆でラクトスに来たいい機会だったから、ついでにとなった。

 ひとまず、必要な物の最低限を相談や確認して、見積もりを頼んで詳細は後で考える、って感じだな。



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