第982話 ラクトスの街を回る事になりました



「レオ様から、王の風格が漂っている気がするのは、気のせいでしょうか?」

「確かに、威厳はあるように見えるね……」


 まぁ、誇らし気にしているレオは、俺から見ると可愛いと思ってしまうんだが……王の風格とか、俺にはよくわからないし。

 あと、レオの前に等間隔で並ぶへそ天状態のウルフ達を見れば、ほのぼのする光景にしか見えなかったりもするからな。


「ママすごーい!」

「さすがレオ様です!」

「レオ様はシルバーフェンリルですからな。フェリー達を見ていてもそうですが、ウルフを従えるのも当然でしょう」

「ワフゥー!」


 繰り広げられる光景に、喜ぶリーザとティルラちゃん。

 セバスチャンさんは頷きつつ、感心しているようでもある。

 レオに慣れている屋敷の人達はともかく、ウルフを従えていた人達や他にも広場に集まっていた人達は、驚いていたけど。

 誰の従魔だとか関係なく、レオが吠えただけで整列してお腹を見せたら、驚くのも無理はないか――。



 ――少しして、レオがウルフ達に声をかけて解散させ、セバスチャンさんが使用人さん達と一緒に、周囲へ説明。

 とは言っても、レオの事を見た事ある人が多く、シルバーフェンリルがウルフ達へ声をかけただけという、見たままの説明だったけど。

 その後は、セバスチャンさんやヨハンナさんなど、一部を残して西門に集まった使用人さん達は屋敷へ戻った。

 後詰めの使用人さんが持って来ていた馬車は、帰りに使うため残し、レオとシェリー以外のフェンリル達も一緒に屋敷へ。


「では、参りましょう」

「えぇ、そうね」

「はい」


 セバスチャンさんを先頭に、歩きだす。

 残った俺達はこの機会にと、ラクトスの街を見て回る事になった。

 ラーレに関しては解決しているけど、公爵家の娘であるクレアや、レオが何事もなく街中を歩く事によって、大きな問題ではなかったと住人を安心させるためとの事。

 レオはラクトスの人達もよく見知っているので、さっさと帰るよりも姿を見せてからの方がいいらしい。


「先にカレスの店の様子を見た後、イザベルと雑貨屋へ行くのが良さそうですな」

「ここから近いですからね」


 まずは西門から一番近い、カレスさんの店へ向かう。

 ついでに薬草を持って来ていればと思ったが、元々ニックが屋敷に来る予定ではない日だし、在庫が残っているだろう。

 イザベルさんの店と雑貨屋に関しては、現在ランジ村で建設中の家に関する買い物だ。

 もう少し後でもいいんだけど、ついでだから品物を見ておこうとなった。


「少し、人通りが少ないかしら?」

「そうですな。まぁ、ラーレが飛んできたので……あまり出歩かないようにしているのでしょう」


 カレスさんの店に向かいながら、辺りを見回して話すクレアとセバスチャンさん。

 許可を取っていない魔物……空からだから許可も何もないけど……ラーレが街に入った事で、不用意に出歩かないようにという報が出されたため、すれ違う人が少ないようだ。

 俺達がラクトスに到着してから、安全だという報せも広まっているはずだけど、様子見をしている人が多いんだと思う……それでも、お店は平常通り営業しているみたいだけど。


「私のせいで、お店にお客さんが入っていません……」

「んー……まぁ、これも影響とか騒ぎの結果だね。反省して、次からはしないようにしなきゃいけないよ?」

「はい……」


 リーザと一緒にレオに乗っているティルラちゃんも、キョロキョロとしながら、店に人が入っていない事を確認し、呟く。

 外出する人が減ったら、お店に行く人も減るのは当然だからなぁ。

 ラーレが原因という事は、ティルラちゃんが原因でもあるわけで……慰めようと否定するのは嘘になるので、苦笑しながら認めつつ、頭を撫でて反省を促す。

 ちょっと先走るだけで頭のいい子だから、きっと同じ事はやらないだろう。


「これはこれは、クレアお嬢様にティルラお嬢様。タクミ様やレオ様達も……」

「カレスさん、こんにちは」

「ワフ」

「カレス……やはり、ここも人が少ないようね?」


 カレスさんの店に来ると、外に出ていたカレスさんに迎えられる。

 俺やレオに続いて他の人達も挨拶。

 クレアが言うように、カレスさんの店も他と同じく人があまり入っていない様子だ。

 昼前はいつもなら、それなりに人が入って賑わう時間なのになぁ。


「先程、屋敷の使用人が来られまして、今回の詳細を窺いました。クレアお嬢様方が直接解決なさったので、昼過ぎくらいから徐々に客足も戻るでしょう」

「ごめんなさい、ティルラが迷惑をかけたようで」

「ごめんなさい……」

「いえいえ、これくらい大し事はありません。商売としては少しの痛手ではありましょうが、昼に雨が降った時程ではありませんから」


 カレスさんには、使用人さんから直接知らされていたらしい……まぁ、領主貴族直営店とも言えるから、それも当然か。

 今は住人も様子見をしているだけと、カレスさんは笑っていた。

 この地域は、夜の皆が寝静まる頃に雨が降る事が多いんだけど、それでも昼間に絶対降らないわけじゃない。


 探せば傘もあるのかもしれないが、外套を使う事が多いので昼に雨が降ると、ほとんどの人が家や宿にこもるのだそうだ。

 まぁ、どうしても外せない用事だったり、食べ物がないとかでなければ、無理に外出する事はないか……店を閉める所も多いらしいし、強い雨だと屋台も出すのもなぁ。

 それに比べれば、大きな問題にならずに解決したので、昼以降に客足が戻るのであればマシな方なんだろう。


「聞き覚えのある声が……? あ、アニキじゃないっすか! 薬草を持って来て下さったんですか?」

「あぁ、ニック……いや、今回は薬草を持ってきたわけじゃなくてな」


 カレスさんと話していると、店の中からニックが出て来る。

 俺を発見するやいなや、嬉しそうにしながら駆け寄って来るのはいいんだけど、ちょっと微妙な気分でもある。

 とりあえず、俺よりも先にクレアやティルラちゃんへあいさつした方がいいと思うぞ? カレスさん、ジト目で見ているから。


 薬草ではなく別の用で……とニックに話すついでに、スラムでの事を説明。

 俺だけでなく、ティルラちゃんやクレアもスラムをなんとかしようと、真剣に考えているとわかり感涙する一幕もあった。

 騒動としては解決したが、一応様子を見るくらいはした方がいいかもと、出身者で詳しいニックが請け負い、その場を離れた――。



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