第981話 従魔はそれなりにいるようでした



 ラーレに関しては、レオが何度か諫めるように吠えていたからなぁ……まぁ、従魔になっているからというのもあるけど、ティルラちゃんを勝手にここまで連れてきたからって事だろう。

 後で、リーザやティルラちゃんと一緒に、慰めておこうかな。

 ティルラちゃんが慰められる側になっているかもしれないけど。

 ついでにここにいないフェリー達の事も聞いてみると、門の外でお昼寝タイムらしい……満腹になって、眠くなったんだろう。


「……それにしても、街の中に魔物って結構いるんですね」

「そうですな……あまり表立って目立つのは控える人が多いですが、ラクトスにも魔物を従えている者はいます。他の場所から流れて来る事もありますな」


 レオから降りて報告してくれるリーザをレオと一緒に撫でながら、門の内側の広場を見渡すと、数は少ないが魔物を見かけた。

 クレアの後ろにいたセバスチャンさんに聞いてみると、目立たないけど魔物を従えている人はラクトスにもいるらしい……こういった事を、あまり聞いていなかったなぁ。

 見た事なかったけど、大型犬よりもさらに大きい……ニホンオオカミのような見た目の魔物は、ウルフという魔物だと説明された。

 そのまんま、狼だな……魔物だから、魔力があるんだろうけど。


「何度もラクトスに来ていたのに、これまで見た事がなかったですね」

「あちらのウルフを見ればわかる通り、こちらはレオ様といる事が多いですからな。人間に従ているとはいっても、怯えて出てこようとしないのでしょう」

「あー、成る程……」


 レオの強大な気配とか、そういうものを感じるからなのだろう。

 近づこうともせず、怯えて姿を見せようとしなかったから、これまで見る事がなかったのか……もしかして、避けられているのかも。

 ウルフは広場に来てはいるけど、遠目からでもわかるくらい体を震わせ、尻尾を股に挟んで縮こまっている……まぁ、シルバーフェンリルだけじゃなく、フェンリルもいるから怯えるのも当然か。

 敵じゃないから、安心してくれー?


 そういえば、ブレイユ村で会ったフェムがシルバーフェンリルの匂いが俺からすると言っていたっけ……。

 匂いを嗅ぎ取って近付かないようにしていたから、レオがいない時でも街中で見かける事がなかったのかもな。


「でも、しばらく見ない間にウルフが増えたかしら? 他の魔物も少しはいるようだけど、ウルフを見かける事が多いわ」


 同じように、辺りを見渡して怯えるウルフ達を見ながら、クレアが呟く。

 他の魔物……大型犬程のサイズだが猫っぽいというか白と黄色と黒の波打つ模様が特徴的な、虎にしか見えない魔物もいた。

 ワニの見た目にエラを付けたような……カメレオンみたいな偏った形の魔物もいた。

 爬虫類のワニにエラって、エラ呼吸で水中でも活動できるとかだろうか?


 後で聞いたんだけど、虎の魔物はティガール、ワニの魔物はアリゲオンって言う呼び名らしい……ちょっとロボットっぽいと思ったのは内緒だ。

 ともかく、ウルフ以外の魔物がいるにはいるけど、やっぱり数としてはウルフが目立つ。

 まぁ、ウルフも含めて、広場にいる魔物全てがレオを見て怯えている様子だけど。


「ここにいるのは、今回手伝って頂いた方達の従魔となります。衛兵も混じっておりますな。ウルフが多い理由はおそらく、最近になってレオ様がご活躍だからでしょう」


 よく見れば確かに、他の衛兵さんと同じような服装の人もいて、ウルフなどの魔物を従えている人がいる。

 ティルラちゃんの捜索やラーレに対する警戒で、駆り出されたんだろう。


「レオがですか?」

「ワフ?」


 ウルフを従える人が増えた事にどう関係しているのか、レオと一緒に首を傾げた。


「……そういう事ね」

「レオ様とタクミ様……人間に従ってレオ様は動いております。おとなしく、暴れる事はせず人間に危害を加えない事は、ラクトスに住んでいる者達は理解しておりますからな。何者にも従わないシルバーフェンリルと人間が一緒にいる事で、触発されたのでしょう」

「いずれ、シルバーフェンリルをも従わせられるかも、と?」

「……そこまで考えている者は、少ないと思われますがな。これも、レオ様がご活躍なさっている影響なのですよ」


 すぐに理解して頷くクレアとは別に、セバスチャンさんからの説明を受ける俺とレオ。

 本来なら、従魔にする事は不可能と思われていたシルバーフェンリルが、実際に俺という人間に従っておとなしくしている、というのが原因だったらしい。

 さすがに、皆が皆シルバーフェンリルをとまでは考えないようだが、それでもとウルフを従魔にしたって事だろう。

 なんというか……人気とか流行とか、そんな感じだと思えばいいかな。


「ワフ……ワフワフ」

「あ、レオ?」

「ママ?」

「どうされたのでしょうか?」

「何か、気になる事でもありましたかな?」


 感心しながらセバスチャンさんの話を聞いていると、何を考えたのか……レオが急に俺達から離れて広場の中心辺りに向かう。

 レオの行動に、俺だけでなくリーザやクレア、セバスチャンさんも首を傾げている。

 ……広場に集まっている、魔物達の怯えは酷くなったけど。

 何を考えているのかわからないけど、レオが危害を加えようとしているわけじゃないから、大丈夫だと思うぞー?


「ワウー!」

「「「キャン!」」」

「おぉ、ウルフ達が整列した……」


 皆の注目を集め、ゆっくりと広場の真ん中に行ったレオは、顔を空へ向けて吠える。

 その瞬間、広場にいるウルフ達が従えている人の手を離れて、レオの前に飛ぶように移動して並ぶ。

 怯えているのか、体の震えはかわいそうなくらい顕著で、尻尾は股に挟んで項垂れている……鳴き声が悲鳴っぽかったのも、怖かったからだろう。


「ワフ、ワウワウ!」

「「「キャ、キャン!」」」

「今度はお腹を見せ始めましたね、タクミさん」


 整列したウルフ達を、お座り状態のレオが上から見下ろし、さらに吠えると今度は一斉にお腹を見せた。

 なんというか、強制的に従わせているように見えなくもない。


「パパ、皆ありがたいお言葉! とか言っているよ?」

「あぁ、成る程。フェン達と初めて会った時と同じような事か……」


 ウルフ達の鳴き声をリーザが通訳。

 レオが吠えた内容と合わせると、今回はご苦労だったと労うように声をかけ、ウルフ達が畏まっている様子……といったところだろう。

 フェンやリルルと初めて会った時も、お腹を見せるのに対し、レオが言葉をかけている感じだったっけ。

 レオなりに、ティルラちゃん捜索を手伝ってくれた事への感謝、なのかな?



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