第964話 皆で遊ぶ事になりました



「キュウ、キュウ!」

「あらあら、寝ていたと思ったら遊びたいの? 仕方ないわね……」


 クレアに抱き上げられて、ようやく俺からも見えるようになったシェリーは、尻尾を振りながらアピール。

 昼寝の後は遊びたい様子で、クレアは溜め息を吐きながら仕方ないと言った風。

 だけど、その表情は先程と違い笑顔だ。


「ははは、シェリーのおかげで元気になったようだね。まぁ、さっきの事は偶然違う案を俺が出せただけだから、あまり気にしないでいいと思うよ。それに、ニックと話したりエッケンハルトさんからの手紙がなければ、俺も似たような事を考えていたからね」

「タクミさんもですか?」

「うん。案を出す発想力というものは人それぞれかもしれないけど、どういった事を考え付くかは、きっかけや状況によってだと思う。もしかしたら、エッケンハルトさんからの報せをクレアが受け取っていたら、さっきの案を考え付いたのは俺じゃなくてクレアだったかもしれないからね」

「……私では、先程の案は考え付きそうにありませんが……タクミさんが言うのなら、そうだと信じる事にします」


 発想なんて、考え方やきっかけ次第でもある……と俺は思っている。

 岡っ引きの事を知っていたからというのもあるから、本当にクレアが思いついたかはわからないけど、今回の事は本当に偶然だ。

 それに、俺の案だってエッケンハルトさんと相談した結果、却下される事だってあるんだからな。


 とりあえず、考え込んだり落ち込んだりせず、今はシェリーと楽しく遊んでくれたらと思う。

 先程まで積極的に会話に参加していたセバスチャンさんは、ライラさんと一緒にシェリーや俺とクレアのやり取りを朗らかに見ていた。


「遊びとなったら、皆起きるんだな」

「ワフ、ワフ!」


 話を終え、シェリーの要求に応えるためにクレアとテーブルを離れたくらいで、リーザとティルラちゃんが起きた。

 遊びの気配を察知したのかもしれない。

 レオは元々起きていたが、朝に続いて遊べるとあって、尻尾を振って嬉しそうだ。


「クレアお姉ちゃんも一緒に遊んでくれるの?」

「えぇ。シェリーがそうしたいようだから。リーザちゃんは私と一緒でいいの?」

「うん、皆で一緒に遊ぶと楽しそう! ね、ティルラお姉ちゃん!」

「姉様も一緒です!」

「ふふふ……」


 リーザが聞くと、微笑みながら頷くクレア。

 ティルラちゃんも楽しそうで、クレアも思わず笑いが漏れている。


「タクミさん、どうやって遊ぶんですか?」

「そうだね……さすがにレオやシェリーと一緒に走り回る事はできないから……そうだ。俺が屋敷に来てすぐの時、ティルラちゃんを乗せたレオと遊んだ事を覚えてるかな?」

「えーと……確か、枝を投げてレオ様が取って来ていました」

「うん、それなら、クレアもレオ達と一緒に遊べると思う」


 シェリーだけならともかく、レオやフェンリル達……ラーレまでいるから、どうやって遊ぶのかクレアがわからず聞いて来る。

 俺やティルラちゃんなら、鍛錬のついでに走ったりするのもいいんだけど、クレアに付いて来いというのは酷だからなぁ。

 と考えて、以前の事を思い出した。

 枝を投げるくらいなら、誰でもできる事だと思うしそこまで疲れないから、クレアにもできるだろう……多分。


 それに、レオが期待する目で見ているから、ただじゃれ合うだけでは済まなさそうだしな……リーザもか。

 枝を投げると聞いて、フェンリル達は首を傾げていたけど、よくわからないながら面白そうだと感じているのか、尻尾は勢いよく振られていた。

 レオもそうだけど、あまり尻尾を振り回すと砂埃が舞うだけじゃなく、風が吹いてスカートを履いているクレアやメイドさん達が大変そうだから、少し落ち着こうな?


「えーと……」

「タクミ様、こちらをどうぞ」

「あ、ありがとうございます。ライラさん、ゲルダさん」

「いえ、拾って集めておいた物を持ってきただけですので」


 最近は裏庭を使う事が多いので、初めて屋敷に来た頃みたいに枝が落ちていない。

 食事を裏庭で、という事も増えたから使用人さん達が掃除をしてくれているんだろう……『雑草栽培』のお試しをしたり、ティルラちゃんやリーザが走り回っているからな。

 とりあえず木々がある場所まで探しに行こうと思ったら、いつの間に拾って来ていたのか、ライラさんとゲルダさんが、大量の枝を抱えて持って来てくれた。

 どうやら、掃除をした時に集めた枝らしい。


 乾燥させて薪と一緒に使う予定だったのかもしれない。

 ありがたく使わせてもらおう。


「それじゃクレア、この枝を……できるだけ遠くに放り投げるといいよ。初めてで一度に投げるのは大変だから、順番に一本ずつ」

「これをですか……わかりました!」

「ワフ……」

「キャゥ……」

「ガウ? ガウ」

「ガウゥ……?」

「グルゥ?」


 持って来てもらった枝の中から、あまり太くなく、一メートルくらいの手頃な枝を数本クレアに渡す。

 以前レオにやったように、一度に投げる荒業は初めてだと難しいので、一本ずつできるだけ遠くに投げられるように指示。

 受け取ったクレアが意気込んで返事をするのに対し、臨戦態勢というかやる気を見せるように声を出すレオとシェリー……こちらは、何をやるかわかっている組だな。

 シェリーは、ティルラちゃんが遊ぶ時に同じような事をやっていたか。


 フェンやリルル、フェリーは、枝を見てはいるがどうすればいいのかわからず、首を傾げている。

 フェンだけは、何やら頷いたので理解したのかもしれない……もしくは、レオに付いて行こうという考えか。

 とりあえず一度クレアに投げてもらって、レオやシェリーが走ればやる事がわかるだろう。


「って、リーザも走る気なのか?」

「うん!」

「リーザちゃん頑張って!」

「……まぁ、リーザがやりたいならいいけど……レオ、フェン達もだけど、間違って接触して弾き飛ばしたりしないようにな?」

「ワフ!」


 クレアが、渡した枝の一本を右手に持ち「この枝を遠くへ投げる、遠くへ……」と呟いて準備しているのを眺めていたら、リーザも走る準備体勢になっている事に気付く。

 聞いてみると、楽しそうな返事が返ってきたけど……こちらに顔を向ける事無く集中している様子で、やる気みたいだ――。



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