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第952話 フェンリルでの移動は利点ばかりでした
第952話 フェンリルでの移動は利点ばかりでした
「「「「「クレア様、皆様、村へのご訪問ありがとうございました。無事の旅路を祈っております!!」」」」」
ラクトスへ向かって移動を開始する俺達の後ろから、見送りに来てくれた村の人達が声を揃えて叫ぶ。
……屋敷だけじゃなくて、ここでも同じような見送り方なのか……もしかして、公爵領内での伝統なのだろうか?
まさか、この国ではそうする決まりというわけではないと思うけど……。
そうして、上空にラーレ、地上ではレオやフェンリル達が走り、ひとまずラクトスの東門を目指した――。
「やはり、馬よりも快適に走れますな。鞍や鐙がないので、多少不安定ですが……」
「そうね。レオ様やフェンリル達はふわっとした毛があるので、硬い鞍より疲れないわ。レオ様、痛くないですか?」
「ワフー!」
「全然大丈夫だってー!」
「ありがとう、リーザちゃん」
ラクトスへ向かっている途中、フェリーに乗ったセバスチャンさんが近付いて、フェンリル達と馬とを比べて感心している。
確かに、鞍や鐙がないので体が定まらずに不安定にも感じるけど、馬よりも揺れないし風も遮られているので快適だ。
俺の後ろからクレアがレオに声をかけたのは、多分レオの毛を掴んで体を安定させたりしているからだろう……俺も、揺れた時とかに掴んだりしているからな。
リーザが通訳してクレアに伝える。
レオもそうだけど、フェンリル達も多少毛を引っ張られる程度はなんともないらしい。
まぁ、シェリーがオークにはたかれても、怪我一つなかった事を考えればな。
それと、馬車程ではなくても硬い鞍に座っていたらお尻に痛みを感じる事もあるからなぁ……ふわふわなレオ達の毛に腰かけていれるのはかなり楽だ。
「キャウー!」
「ふふ、シェリーも楽しそうね。でも、危ないから立って動いたりしちゃ駄目よ?」
「キャウ!」
フェリーとは別の方から、ライラさんが乗るリルルが近付き、その背中で威勢よく鳴いているシェリーに、クレアが注意する。
揺れが少ないと言っても、走っているのだから落ちたら危ないしな。
ライラさんが後ろからそっと手を添えて支えているから、よっぽどの事がない限り落ちないとは思うけど、念のためだろう。
「しかし不思議ですな。馬より速度が出ているのは間違いないのですが、馬に乗っている時程風を感じません」
「あぁそれ、レオが言っていましたけど魔法で風を遮っているかららしいですよ? 完全に防ぐわけじゃないみたいですけど」
レオを真ん中に、フェリーやリルルと並んで走っていると、セバスチャンさんが不思議そうに呟いた。
以前レオから聞いた事だけど……風の影響を少なくするため、前方に魔法で風を遮るようにしているとかなんとか。
本来は速度を出すためらしいけど、乗っている俺達も快適になるのでありがたい。
試した事がある人はわかると思うが、強風を正面から受けている状態では、呼吸がしづらくなったりするから。
「ワフ!」
「グルゥ!」
「なんと、そのような事まで……レオ様だけでなく、フェリー達に乗っている私達もそうであるなら、フェンリルも使える魔法という事ですか。興味深いですな」
「多分、人間に使える魔法じゃないと思うわよ、セバスチャン。そう言っても、セバスチャンは気にしないだろうけど……」
俺がセバスチャンさんに伝えると、レオやフェリーがそうだと言うように鳴いた。
レオだけでなくフェンリル達も、それぞれ同じ魔法を使っているとわかって、何やら楽しそうなセバスチャンさん。
まぁ、知らない知識が知れるのは、楽しいよな……文献とかには載っていない事だろうし。
クレアの言うように、人間には使えなさそうだけどセバスチャンさんの興味は尽きなさそうだ。
そんな風に、馬より速く移動しているのに、快適に話ができる状況を楽しみながら、
――途中で昼食のついでに休憩をして、村を出発してから数時間で東門付近に到着。
懐中時計を見ると、出発から五時間くらい経っていた……馬で村へ向かった時は、休憩もそれなりにとって緩めの速度で走っていたのもあるが、一日かかったのを考えると想像以上に早い。
速度もそうだけど、休憩を多くとらないといけないのが、理由として大きいか。
「村へ行く時もそうでしたが、馬に乗るよりも疲労は少ないと思われますな。これは、移動時間が少ない影響もあるでしょうが」
「そうですね。移動時間が少なければ少ない程、疲労は軽いですし……馬は結構、乗っている方も力を入れないといけませんから」
東門が見える位置で止まり、全員がレオやフェンリル達から降りる。
感心というか、分析するように呟くセバスチャンさんは、駅馬でフェンリルとの協力を考えているからだろう。
馬で走ると休憩時間が多くなるけど、結局馬から振り落とされないように体……特に下半身に力を入れておかないといけない。
レオ達に乗る時はそれが全くないわけじゃないけど、毛に掴まれたり揺れや風が少ない分かなり楽だし、移動時間が短縮できるから多くの利点がありそうだな。
「お父様は、平気な顔をして延々と馬に乗っていますけど、私はさすがに馬車でないと厳しいわ。――レオ様、ありがとうございます」
「ママありがとう!」
「ワフ」
レオから降りながら苦笑と共に馬の辛さを語るクレアは、リーザと一緒にレオを撫でて感謝をする。
俺はフィリップさんの後ろに乗っているだけだったけど、それでもそれなりに疲れたから、女性のクレアは尚更だろう。
エッケンハルトさんと比べるのは、体力的に差があり過ぎるしな……なんて考えながら、俺もレオを撫でておいた。
「おっと、私は先に東門へ行って街道整備の様子を見て参ります。クレアお嬢様はティルラお嬢様の方を」
「わかったわ」
セバスチャンさんが思い出した様子で、ティルラちゃんの事を言って、東門へと向かう。
俺達がレオから降りた場所は、東門の目の前ではなく少し離れた場所だ。
ここから見る限り、街道整備のためなのか人が多く集まっているようなので、体の大きいレオやフェンリル達が一緒に走って行くと驚かれてしまうからだろう。
ちなみに、ティルラちゃんの方というのは、ここからラーレに乗っいるティルラちゃんは街を通らず屋敷へと真っ直ぐ向かうため。
ブレイユ村へ来る際にも同じように、西門側から森の上空を通って来たらしく、いい機会なのでもう一度という事らしい。
レオからのお叱りもあって、ラーレに任せてもティルラちゃんを落としてしまう事はないだろうし、特注の鞍もあるからな。
……ヨハンナさんには、頑張ってとしか言えないが――。
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