第953話 ラクトスでは街道整備の準備が進められているようでした



「……レンガが積み上がっているけど、そちらで整備するようにしたんだね」

「はい。石を敷き詰める方が、費用などは安いのですが……まず初めにという事もあって、惜しまずやる事にしました。お父様が、特に意気込んでいるようですから」

「ははは、エッケンハルトさんなら面白そうだと言って、笑いながら取り掛かりそうですね」


 旋回して上空に留まっているラーレに合図を送り、降りて来るのを待つ間、セバスチャンさんの向かった東門を見る。

 そちらでは、街道整備に使うためだろう、レンガが大量に積み重なっているのが見えた。

 馬車道とか、馬が通る道を平らに保つ事で、既存の移動手段でも少しくらいは時間の短縮ができるか……という試みなんだけど、今は資材を集めている段階といったところか。

 クレアが言うには石畳の方が費用が安いらしいが、レンガの方が平坦な道を作れると、そちらを選んだらしい。


 レンガの方が脆いから、メンテナンスもしなきゃいけないだろうけど……最初から費用をケチるよりも、やってみて考えて行こうって事かな。

 エッケンハルトさんが、面白そうに笑って多くの費用を出す姿が想像できる。

 まぁ、さすがに何も考えず、莫大な費用を出したわけじゃないと思いたいが。


「レオ様に姉様ー! タクミさんにリーザちゃーん!」

「キィー」

「ワフワフ」

「ティルラお姉ちゃーん」


 積み重なっているレンガを見ながら話していると、ラーレが地上に降り、背中からティルラちゃんに呼びかけられる。

 後ろで固まった状態のヨハンナさんはともかく、空の旅はティルラちゃんにとって快適だったようだ。

 最初は、落ちそうな恐怖で泣いていたのになぁ。


「ティルラ、このままラーレに乗って屋敷まで向かうのだけど……大丈夫?」

「はい、大丈夫です。ラーレも疲れていないようですから」

「キィ!」


 ずっとラーレに乗ったままだから、少し心配な様子のクレアに対し、ティルラちゃんは元気が有り余っている様子。

 ラーレも、翼をバサバサと動かして疲れていない事をアピール。


「それに、ここから屋敷まではラーレだったらすぐですから」

「そうね。私達が街を抜けるまでには、屋敷についているくらいかしら? でも、気を付けて行くのよ?」

「はい! レオ様、リーザちゃん、タクミさんも、先に屋敷で待っています!」

「ワフワフ」

「ティルラお姉ちゃん、また後で」

「うん、また後でね。――あ、ヨハンナさん……これを……」

「……これは、疲労回復の薬草……ですか……?」

「はい。セバスチャンさんがラーレに乗った時、少しは役に立ったようなので」


 ラクトスの東門から屋敷まで、ラーレなら直線で移動できるし、大体三十分くらいで到着できるくらいか。

 ヨハンナさんを除いて元気そうなので、大丈夫だろう。

 元気よく皆に声をかけるティルラちゃんに答えながら、ラーレの横に回ってヨハンナさんにそっと薬草を渡す。

 昼食の休憩時にも、ヨハンナさんは消耗していた様子だったので、セバスチャンさんの時にも渡した疲労回復の薬草を作っていた。


 まぁ、俺が作っている間にラーレが空を飛び始めていたので、渡す機会が遅くなってしまったけど。

 少しだけ目を潤ませたヨハンナさんが、感謝をしつつ薬草を受け取ってくれたので、邪魔にならないよう離れる。

 早速口へと薬草を運ぶヨハンナさんだけど、俺が離れたのを見てラーレが翼を広げ、すぐに浮かび上がっていた……薬草、喉に詰まらせたりしなきゃいいけど。


「さて、それじゃラクトスに入ろうか。リーザはこっちだな、よっと……」

「ありがとう、パパ」

「ワフ」

「そうですね、行きましょう。あら、シェリーはこっちなのね?」

「キャゥ!」


 屋敷へ向かって飛び去ったラーレ達を見送り、リーザをレオに乗せてクレア達と一緒にラクトスへ向かう。

 フェリーや他のフェンリル達も、レオの後に続くようにゆっくり歩き始める。

 シェリーは、リルルの背中から飛び降りてクレアの足下へ。

 一緒に横を歩きたいみたいだ。


 東門では、十人程度の衛兵さんが動き回っていたり見張っていたり、その他レンガなどの資材を運んで積み重ねたりと、それなりに人が行き交って賑やかだった。

 その中で、フェンリル達を連れた俺達は目立って視線を感じるけど……まぁ、これは今更かな。

 今いるのはラクトスの人達が多いらしく、レオ達を恐れるような感じじゃないから、問題ないだろう。

 驚いてはいるけど。


「ふぅむ……成る程……」

「セバスチャンさん?」

「どうしたの、セバスチャン?」

「おぉ、タクミ様、クレアお嬢様」


 セバスチャンさんは、積み重なるレンガの近くにいた一人の中年男性と話し込んでいて、何やら少し深刻な様子。

 そちらに近付いてクレアと声をかけて、ようやく俺達に気付いたくらいだ。

 目立つレオを連れているのに、近付く俺達に気付くのが遅れるのは、結構深刻な問題が起こったとかかな?


「何か、深刻に話し込んでいましたけど……問題でも?」

「問題と言えるかは微妙なのですが、少々考える事がありましてな」

「それはどんな事なの?」

「ふむ……ここで話し込んでしまっては、街を出入りする者達を邪魔してしまいます。街の中を移動しながら話しましょう」

「わかりました」

「では、こちらで決まった事があれば、お報せします」

「はい!」


 何があったのか聞いてみると、想像したような深刻さはないようだけど、検討しなきゃいけない事ができたみたいだ。

 セバスチャンさんに促され、今まで話していた男性に挨拶をして離れて、衛兵さん達とも挨拶をしながら街の中へ。

 道行く人達の視線を浴びているのを意識しながら、東門から西門へと向かう道中、セバスチャンさんが話し始める。


「街道整備ですが、今のところ滞りなく進んでいるようです。まぁ、まだ資材を集めている段階ではありますが。集める資材も遅れはないそうですな」

「でもセバスチャン、さっきは話し込んでいたわよね? 滞りなく進んでいる、とは見えなかったわよ?」

「予定の方は問題ないのです。ですが……そうですな……この街道整備、ラクトス周辺での雇用推進の意味合いもあるのですが……」

「雇用推進……まぁ、数人でやる事ではないので、多くの人を雇う必要がありますからね」


 公共事業のようなものだからなぁ。

 公爵家が主導しているので、怪しい働き口では決してないし、大掛かりな工事になるので大人数を雇う事ができる。

 現在働こうにも職がない人も、この機会に真っ当な働き口ができるので歓迎されるはずだ――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る