第946話 ペータさんの質問に答えました



 さらにペータさんから話を聞いてみると、フェンリルや一緒にいるクレア、レオを見たからというのもきっかけになったらしい。

 フェンリルと懇意にしていて、さらにレオというシルバーフェンリルもいる事で、公爵家はこれからどれほど事を成そうとしているのか……なんて、年甲斐もなくワクワクしたとか言っていた。

 いや、薬草を作って領内に行き渡らせ、薬がない状況に怯えないようにする……ってくらいなんだけど。

 レオやフェンリル達は……駅馬の事はあるけど、基本的にハンバーグを食べて自由に遊んでいるだけだしな。


 そんなわけで、年齢が高い事もあって断られる覚悟もありながら、逆に感謝を伝えて自分が役に立てるのは今しかない……とまで思ったらしい。

 村にいても、役に立てる事はもう少ないし……なんて自嘲気味に言っていたけど、そこは否定しておいた。

 それでも、ペータさんの決意は変わらないらしいけど。


「申し訳ありません、少々気になる事があるのですが……よろしいでしょうか?」

「どうしましたか、ペータさん?」


 募集方法やペータさんの考えなどを聞いてひと段落した時、ペータさんから何やら質問があるらしい。


「その、私はクレア様……公爵家でと考えて、この場にいるのですが……先程からタクミ様が主導で話しているように思えるのです。公爵家との関係は聞きましたが……」

「あぁ、俺が色々質問しているのが気になりましたか」

「いえ……まぁ……クレア様もいらっしゃるのに、少し不自然かなと思いまして……。申し訳ありません」

「謝る必要も、こちらを窺う必要もありませんけど、そうですね……」


 ペータさんが気になったのは、先程から質問をしたりセバスチャンさんに聞いたりするのが俺だったからだろう。

 そういえば、まだ詳細を話していなかったっけ……共同運営となるのだから、どちらがとはっきり別れるわけじゃないけど、雇うのなら俺の下に付く事になる。

 公爵家に感謝を、という理由が根底にあるペータさんが聞いて、納得してくれるかどうか……。


「ペータさんが納得してくれるかはわかりませんが……薬草畑で働く場合、ペータさんは畑に関してとなります」

「はい、それは承知しております」

「その際、ペータさんの上司、でいいのかな? 直接話したり相談したり……要するに指示をしたりするのは、俺になるんです」

「……そうなのですか? いえ、タクミ様が深く拘わっていることは聞いておりましたが」


 ペータさんが聞いている俺の事っていうのは、昨日村長さんにセバスチャンさんが説明した事……村の人達に伝達するようにも言っていたから、それだろう。

 あの時は、俺がレオというシルバーフェンリルと一緒にいて、公爵家に保護というか客分である事や、薬草畑の事も含めて深く拘わりがある者として紹介された。

 一応、エッケンハルトさんという現公爵家当主様も認めている事もだ。


 信頼関係にあるという事で、俺が望んだ事もあってブレイユ村にクレア達の代わりに視察をと説明されているけど、薬草畑との拘わりや、『雑草栽培』に関しては伝えていない。

 だから、ペータさんも俺が畑の方を担当して人を雇っていると思わず、クレアが雇っているため、その下で働こうと考えたんだろう。


「クレアと俺が、ランジ村で薬草畑を共同運営する、となっているんです。まぁ、まだ始まっていないので、表立って広めていませんから、ペータさんのようにクレアがやり始めると考えている人が多いようですけど」

「クレア様を呼び捨て……それほどまでに……」

「タクミさんは、レオ様を従えている方。シルバーフェンリルと共にいらっしゃるので、格としては公爵家よりも上なのです。とは言え、大々的に広める事ではありません……公爵家とタクミさんは協力関係、といったところでしょうか。上下関係はここにはありません」


 そういえば、前にも聞いた事があるなぁ……エッケンハルトさんなんて、レオに対して土下座してたし。

 とはいえさすがに、レオが凄いだけで自分の事じゃないし、こちらに来る前は単なるマルチーズだったから、偉くなった気にはならないし、偉そうにする気もない。

 確かに、クレアと呼び捨てにはしているけど、それはクレア自身が酔っ払って求めた事だし、本人が嬉しそうだからというのもある。

 というか、俺が敬称を付けないのって、クレアが言ったような話になっていたんだ……ペータさんに見えないよう、セバスチャンさんがニヤリとした気がするので、ここへ来る前に入れ知恵されたんだろうな。


「……シルバーフェンリルと、公爵家の伝承、ですか」

「ペータさんも、聞いた事が?」

「公爵領に住む者なら、多くが知っています。まぁ、ほとんどが噂で私も実際にレオ様を見るまでは、誇張されていたのだと考えていました。シルバーフェンリルと人間が親しくしているのは、話しだけでは信じられません」


 ペータさんも初代当主様とシルバーフェンリル、公爵家の成り立ちのような話は聞いた事があるらしい。

 伝わり方はそれぞれ違うみたいだし、公爵家に一番正確な話が伝わっているようだけど。

 俺にとっては仕草とか反応など、マルチーズの頃から変わっていない事もあるので、すぐに慣れたけど……畏怖の対象だったり、何物も敵わない魔物と言われていたら、実際に見ないと信じられないのも無理はないか。


「まぁ、ともかくそういう事で……ペータさんを雇う場合には、俺の下に付く事になります。ペータさんはクレアではなくて不満かもしれませんが……」

「でも、決して公爵家の役に立てない、というわけではありません。私も同じくランジ村にいますし、拘わりは当然あります。私は領内の他の街や村に、タクミさんが作った薬草を持って行ったり、販売するよう持ちかける役目ですけど」

「はぁ……」

「なので、ここまで話を聞きましたけど……もしペータさんが嫌であれば、今回の話はなかった事にしてもかまいません。それでこちらが悪く思う事はないと約束します」


 ここまで話をして、ペータさんが少しでも納得いかないのであれば、雇うべきじゃないと思う。

 ペータさんはまだまだこの村にも必要な人材だろうし、薬草畑での相談もしてたいけど……本人の意思が大事だからな。

 とはいえ、クレアとセバスチャンさんも一緒に話をして、断ると失礼じゃないかとか、色々考えてしまうのは仕方ないにしても、一応こちらが悪く思ったり何かしたりはしないと約束しておいた――。



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