第947話 大量のハンバーグ作りが始まりました



「えぇ。タクミさんの言う通り、この事でペータさんが違う判断をしたとしても、私達は何も悪く思ったりしないと約束します」

「そうですな。こちらが公表している情報が少ない事もあります。面談に来た方々や、応募してきた際にはある程度教えておりますが、ペータさんには話しておりませんでしたから」

「あ、ありがとうございます……うーん……」


 俺だけでなく、クレアやセバスチャンさんも約束して、ペータさん自身の意思で決めるように促す。

 少しだけホッとした息を漏らしながら、頭を下げた後、考え込むペータさん。

 これは考える時間が必要かな? と思っていたら、すぐに顔を上げた。


「決めました。タクミ様、クレア様。私でよければ、薬草畑……お手伝いさせて下さい!」

「いいんですか? 俺の下に付く事になりますけど……」

「はい」

「わかりました。セバスチャンさん?」

「はい、それではペータさんを正式に薬草畑の一員として迎えましょう。とは言いましても、まだ始まってはおりませんので、しばらくはこの村で過ごしてもらうことになりますがな」

「ペータさん、決断してくれてありがとうございます」

「そんな、クレア様! 頭をお上げください! 老いたこの身ですが、これまで得た知識と経験、役立てられるよう励みますので!」


 目に力を入れ、俺を真っ直ぐ見て決断したペータさん。

 一応の確認をしたけど、それでもちゃんと意志は固まったみたいだ。

 セバスチャンさんも頷き、クレアも頭を下げで歓迎。

 クレアが頭を下げた事に焦ったペータさんだけど、頑張ってくれるようなので一安心だ。


「タクミ様、例の話をしておきましょうか。デリアさんも知っている事のようなので」

「あ、そうですね。――ペータさん、雇用に関して決まったので話しますけど……」


 ちょっと卑怯かもしれないけど、決まってから話せる事もある。

 俺の『雑草栽培』というギフトや、それを使っての薬草畑となるため、基本的には失敗をするような事はない事。

 数を増やす事だけでなく、薬草を作る畑の土の状態や耕したりなどなど、様々な事を説明する。

 まぁ、途中からほとんどセバスチャンさんが説明してくれたんだけど。


 喜々とした説明を終えた後、さすがにデリアさんより長く生きているだけあって、戸惑いながらも理解してくれた様子。

 ギフト自体も噂程度ではあるけど、知っていたみたいだしな。

 そうして、ペータさんが雇う事が決まり、畑に関する俺の相談相手が決まった……とは言っても、さすがに色んな事を話し過ぎたので、ペータさん自身が整理する時間は必要だろうけど。

 働く事への決意は固いようだから、大丈夫だと思いたい――。



「あ、パパー! 準備できたみたいだから、一緒にハンバーグつくろー!」

「ワフ、ワフ!」

「ははは、わかった。それじゃ……」

「今回は、私も手伝って見ようかしら。いつもタクミさんや皆に任せるのは、悪い気がするわ」

「姉様が手伝うなら、私も手伝います!」

「キャゥー!」

「ガフ!」


 村長に報告すると、先に出て行ったペータさんやセバスチャンさんを見送り、そろそろお肉の準備ができたかな? と思ってクレアと一緒に広場へ。

 俺を見つけたリーザがティルラちゃんと一緒に駆け寄ってきて、一緒にハンバーグを作ろうと急かされる。

 レオも一緒で、尻尾がブンブン振られてよだれも垂れそうになっているので、お腹が空いて待ちきれないんだろう。

 隣にいたクレアも手伝うと言い出し、ティルラちゃんも参加するようだ。


 クレアやティルラちゃんは初めてなんで、どうなるかちょっと不安だったりもするけど……まぁ、ハンバーグのタネ作りは簡単だから、なんとかなるだろう。

 ちょっと形が崩れても、皆食べてくれるだろうしな。

 あと、シェリーやフェル達も声を上げているけど……さすがにフェンリルはハンバーグを作るのは難しいだろうから、おとなしく待っていてくれよ?

 さすがに、肉球のある手……というか足でハンバーグを作るのはなぁ。


「協力してくれるのはありがたいけど、獲物を取ってきただけで十分だから。それに、アウズフムラやオークを捌くのも手伝ってくれたんだろ?」

「キャゥ?」

「グルゥ!」


 捌く事に関しては、首を傾げているのでシェリーは手伝っていなかったか……。

 ともあれ、フェリーは誇らし気に鳴いていたので、レオと一緒に手伝ってくれたようだ。


「だから、ハンバーグが出来上がるまで、休みながら待っていてくれ」

「グルゥ」

「……ワフワフ」

「ははは、レオもありがとなー」


 早く食べたい一心なんだろうけど、手伝いは他の人に任せてのんびりしていてくれと、フェリーを撫でながら伝える。

 自分も撫でろとばかりに、フェリーを撫でている俺の手に鼻先を近付けてレオが鳴いたので、そちらもガシガシと撫でてやった。

 ちょっと、やきもちを焼いたのかな?


「た、タクミさん、結構ベトベトするのですね……」

「まぁ、焼いてすらないお肉だし、卵も混ぜているからね」

「ほら、ティルラお姉ちゃん。こうやるんだよ?」

「む、難しいです……」


 村の人達にも協力してもらって、ハンバーグ作りに勤しむ俺達。

 初めてハンバーグの成形に挑戦するクレアは、挽き肉を触った感触や、油や混ざっている卵が手についてベトベトする感覚に戸惑っている様子。

 リーザは、何度も手伝った事があるので特に教える事はなく、むしろティルラちゃんに手本を見せたりしていた。

 リーザの方が年下なのに、ちょっと得意気というか、お姉さんぶっているのが可愛い。


 ちなみに作るハンバーグは、レオやフェリー達の食べる量は多いし、俺やクレア達だけでなく、屋敷の使用人さん達や村の人達のも必要なので、大量に作る必要がある。

 さすがに数人で全部作る事ができないので、それぞれ役割を分けて場所ごとに担当していもらう……ランジ村で作った時と同じ感じだな、量は今回の方が多いけど。

 捌いたお肉を磨り潰して挽き肉にするのは、俺が来るまでにある程度できていたので、作業を続けてもらいつつ、卵などを混ぜて捏ねる役割を村の人達に任せる。

 捏ねたて混ぜた物を、ある程度の大きさに別けて手で成形する役目を、俺やクレア、リーザやティルラちゃんと使用人さん達。


 成形した物を焼くのは、特に力が必要がないため村のお爺さんやお婆さん達の中から、料理ができて焼き加減の見れる人に担当してもらう。

 それぞれ場所を別けてまとめてやる事で、効率を良くする事も考えていたりもする。

 全員参加ではないので、子供達はフェリー達と一緒にいたり、親方さんを始めとする木こり衆は捌いたお肉を村の人達へ分け与える作業をしていた――。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る